44 ミカの戦い
深く、果てまで続く無。光も闇もなくただ永遠にそれは続いていた。
そんなもしかしたら死んでしまったのではないかとすら錯覚する場所で私はゆっくりと目を覚ました。
んあ、ここ、どこだろう?
起きて目を開けたというのに目を閉じていた時と大して変わらない光景を眺めながら、しかしそこに自分の身体はしっかりあることを確認して不思議な感覚を覚える。
なにもない、誰もいない。
そもそもどうしてこんなところに私はいるのか。というか今まで何してたんだっけ?
前後も左右も上下もわからないこの場所でゆったりと漂いながら思う。
確か学校にいってたんだよね。それでお昼休みになったから図書館にいって、それから、、、
それから、、、
あれ、思い出せない?えっと、図書館で本を探してた後って私どうしたんだっけ。
むむむ~と腕を組みながら唸る。しかしまるで記憶が塗りつぶされたかのようにそこから先が真っ暗になっていた。それ以前だったらはっきり覚えているのだが。
こういう時、エイタ君ならどうするかな。すぐ解決しちゃうのかな。「世界が暗いなら、俺が照らしてやるっ!」なんつって。
変な妄想を頭に思い浮かべ思わずクスクスと笑ってしまう。エイタ君そんなこと言わないのに、想像すると面白い。
ってあれ、どうして私今エイタ君のこと思いついたんだろう?
確かに私は昔エイタ君に助けられたことがある。それからおんなじ学校にもなっていつかお礼もしたいと思っていた。でも私とエイタ君の接点なんてそれだけ。なんならエイタ君はそのことすら覚えてない。
私、変なところにきておかしくなっちゃったのかな?
気になってはいたけど、大して彼のことを知らないはずなのに、どうしても今無性に彼のことが気になる。
なんでだろう。わからない。
この気持ちは何?
私、いつの間にか彼のことが好きにでもなっちゃったのかな?
会話すらしたことないのに?
――本当に会話したことない?
?!、今の声はなに?どこかで聞いたことがある声。誰なの!?どこにいるの?
あたりを見渡すが果てまで続く無があるのみ。
――情けない。
また聞こえた。とても親近感があり、それでいて無性にいらつく声。まるですべてを知ってるかのような声。知った上で黙ってるような声。
なんなの!声だけで!ずるだよ!
自分でも何を言っているのかわからない。なにがずるなのか。得体の知れない物相手に喚いてしまう。
その時、コツンッと頭に何かが当たったような気がした。痛くはない。けど不思議に思い頭の方向に顔を向けるとそこには、
え、、、バー、、、ル?どうしてこんなところに。
そこにはバールが浮いていた。いや、よく見ると浮いていない。真っ暗な影のようななにかがバールを持ってそこにいる。
どうしてバールが、、、?エイタ君はどうしたの?!
あれ、まただ。どうして今彼のことを考えてしまったのだろう。
――そんなに彼のことが気になるの?あなたにその資格があるの?
また声が聞こえた。知ってる声。
資格って、なに!誰かを気になるのに資格なんてっ、
言いかけているときにバールを持った影がまた私の頭を小突いた。バールの先端が容赦なく私の額にぶつかりゴチンと鈍い音がなる。その瞬間、私の頭の中に知らない記憶が流れてきた。
夜の学校で二人で歩いてる。隣にいるのはエイタ君だ。なにこれ。
場面が飛んだ。どこかの用具室?そこで二人で座ってる。エイタ君はとても頼もしくて、私に優しい言葉をかけてくれた。なんて言われたんだっけ?
また場面が飛んだ。こんどは放送室かな?私とエイタ君は見つめ合っていた。こんどは私がエイタ君に何かを言ってる。すごく勇気を出したことを覚えてる。それこそ決死の覚悟を持ったなにかを。あれは、、、
視界が真っ白に染まった。私はエイタ君と二人きりでアイドルのコンサートを見ていた。全く見たことのないアイドル。でもすごく心が温まる。どうしてだろう。
――あなたは裏切った。
また声が聞こえてはっとする。小突かれた額を手で押さえるが特に痛くもなく、けがをした様子もなかった。
バールを持った影を見ると先ほどよりも影の輪郭がはっきりしている。
これは、、、私?
――それがなに?
どうして私が目の前に、、、
――どうでもいい。
さっきの記憶は?
――今更知りたいの?塗りつぶしたのはあなたなのに。
なんで私はそんなに怒っているの?
――弱いあなたが嫌いだから。
話にならない。私は影から少し離れ、考える。
さっきの記憶がなんなのか。私はあんな記憶知らない。エイタ君と二人きりになったことないし、でも私はあの記憶を否定したい気持ちにはならなかった。
それにあの記憶がやけに鮮明としている。断片的な記憶なのに。まるで経験してきたかのような、、、
影を見る。影もまた私を見つめていた。
もっと、もっと考えなくちゃ。
今までの知識を総動員させて考えを巡らせる。
何もない世界。もう一人の自分。塗りつぶされた記憶。知らないはずなのに実感がある記憶。
こんなお約束。それこそアニメのような。現実じゃ起こらない。じゃあこれは現実じゃない?
――違う。これは現実。
だってさ。
私の中で一つの可能性が思い浮かんでいた。
これを口にしたら私の起きてからの違和感は全て上手く合致する。でも同時に口に出したくはなかった。だってもし口に出したら、
――あなたはそれを知りたくなるから。
・・・・・・
そう。私はもう、既に気になっている。自分の失った記憶を。欲しがっている。
頭がズキズキする。本能が警鐘を鳴らしているのがわかる。絶対に思い出すなと。なにもしらずこのまま”終わって”しまえと。
それでも私は知りたい。なんでかはわからない。
――不快。自分から消したくせに。大切なものを捨てたくせに。
圧を感じた。私の四方八方から。視線を巡らせると何かが見えた。それは壁。私を囲うように少しづつ迫ってきている。刃をガチガチと鳴らしながら私を切り刻むために。或いは棘でズタズタに貫くため。
あれが迫り切ったとき私は”終わる”だろう。
教えて!私は何を消したの!何を捨てたの!
私は影に掴みかかりバールを引きはがそうとする。影も当然抵抗する。そのたびに頭に激痛が走った。そこまでして私は記憶を思い出したくないらしい。
――弱虫!卑怯者!弱いくせに!逃げたくせに!
私は何も知らずに死にたくない!お願い教えて!私!
――そんなに知りたいなら勝手にして!”絶望”して死んじゃえ!
喚く私を振りほどいた影はバールを大きく振りかぶると思い切り頭めがけて振り下ろした。
殴られた衝撃で私はのけ反る。そして塗りつぶされていた記憶が晴れた。
・・・っ?!
すべてが鮮明になる。全部思い出す。あの後のこと、これまでのこと。
あ、あああ、、、あああああああああああっ!!
濁流のように押し寄せてくる記憶に頭を抱え蹲る。
弱虫、卑怯者。
ああ、影の言うとおりだ。私は”逃げたんだ。
苦しい、憎い。
学校であったこと、ショッピングモールでしたこと、避難所でやったこと、村に帰ってきてからのこと、
ついさっきまでのこと
私は裏切った。私は見捨てた。私は逃げた。
頭がおかしくなりそうだ。今すぐ掻き毟ってこの感情を掻き出したい。
今にもショートしそうな頭。普通なら耐えられず気絶してしまうような痛み。しかしここは精神世界。気絶することすら許されない。
思い出したくないのに、記憶が流れ込んできて私は地面もないのに倒れた。
~~~~~~
しょうおばあちゃんの家を出た後、私とエイタ君、くーねたんちゃんはそれぞれで動くことにしたの。
「じゃあ作戦通りでいくぞ!特にくーね!ちゃんとやってくれよ?じゃないと俺が死ぬ。」
「まかせてっ!すっごくいいタイミングでかっこよく登場して見せるっ!!」
「かっこよく、、、まあいいや。頼んだぞ!」
うんうんと元気よく頷いたくーねたんちゃんはピューンと音が聞こえそうな速さでどこかに行ってしまう。
「まったく、本当に大丈夫だよな?」
「ふふ、大丈夫だよエイタ君、くーねたんちゃんを信じよ?それより私たちも準備しなきゃだね。確かエイタ君が合図をしたら魔法を撃てばいいんだよね?」
「ああ、あのでかいのに今の俺たちがどれだけ通用するか、試させてもらおうじゃねえか。」
エイタ君はメラメラ燃える闘志(物理)を漲らせながら拳を作る。
作戦といってもなんてことはない。ただ私たちの力がどれだけあの人に通用するか攻撃して試してみるだけ。それが終わったらくーねたんちゃんに丸投げして倒してもらう。なんとも人任せな戦いである。
「因みに合図ってどんなの?いきなり攻撃しちゃダメなんだよね?」
「相手の正体や目的も一応知りたいからな。最初は対話を試みてみるつもりだ。まああれに会話できるだけの知能があるかはわからんが。合図に関してはこれを使おうと思う。」
そう言ってエイタ君が取り出したのはしょうおばあちゃんの部屋に置いてあった偽物の水晶だった。
「あっ、それ!エイタ君盗ってきたの?!」
「人聞きの悪いこと言うなっ!借りたんだよ。あいつとの話し合いに使えるかなって。」
「そう。で、それで合図を?どうするの?」
「あいつの目の前で壊す。あいつは”道の水晶”を欲しがってる。なら目の前で水晶をぶっ壊せばちょっとは動揺してくれるかもしれん。それが合図だ。」
「エイタ君、一応聞くけど借りてきたんだよね。」
この時の私は恐らくジト目を向けていただろう。
「まあそこは黙っててくれ。それと霧島さん、はいこれ。」
私の追求を軽く流したエイタ君は自分の持っているバールを手渡してくる。
「?エイタ君。どうしてバールを?」
「話し合いするのにバール持ってたら怪しいだろ?どうせ一撃当てるだけだし、霧島さんが持っててくれ、もしかしたらなんかの役に立つかもしれないし。」
「そっか。うん、わかった、持っとくね」
そうして私たちはそれぞれ目的の方向へと走り出す。エイタ君は正門の方へ。私は脇にそれて林の中へ。
正門から少し離れた脇にある林の中で大男を捉えれる位置につくとちょうどエイタ君も門から出てくるところだった。
ハンドスコップの心核を構えた私はいつ合図が来ても魔法を放てるように準備する。
「いまここに、来りて回り 螺旋を描き、空、穿つ。わが呼び声に、脈動せよ」
ここからではどんな話をしているのか内容を聞き取ることはできないが大男がエイタ君に殴り掛かった。
(エイタ君っ!?大丈夫なの?!どうしよう。もう撃っちゃたほういい??でも合図が、、、)
一瞬迷う。殴ったということはもう話し合いは終わってしまったのではないか。だが大男が追撃することはなく、私もなんとか踏みとどまった。
そしてその時が訪れる。エタイ君が水晶を大男に突き出していた。それに合わせて私も核力を練り上げる。
――バキンッ と水晶が破壊される。
(来たっ、今だっ!)
「弾丸となり敵を貫けっ『ジオ・スパイラルッ!』」
目の前に現れたドリル状の土の塊が高速回転をし大男へと一直線に放たれる。
――ズバァン と大きい音をたてて私の攻撃は大男へと命中した。
立ち上る土煙のせいでどうなったかは分からない。と思っていると唐突に土煙が晴れた。正確に言うと内側からの爆風により土煙が吹き飛ばされる。
そこには私の方向に手のひらを向けながらもエイタ君の攻撃を腕で防いでいる大男がいた。
(効いてないっ?!いや、よく見るとダメージはある。単純に相手が固いんだ。)
素早く分析した私はエイタ君が逃げ始めてのを確認して村に戻るため走り始める。
遥か上空を見ると一際明るい星が見えた。きっとくーねたんちゃんだ。
くーねたんちゃんがいるなら万が一も起こらないだろう。私は安心して村へと戻ることができた。
そしてそこで出会ってしまった。
見たこともなく、存在すら確認していないのに一気に心臓が締め付けられるのが分かった。立っていることすら出来ず躓いて転んでしまう。
呼吸が荒くなり決して前を見ることができない。しかしそんなことなど関係ない相手は無常にも私に影を重ねてきた。
何かが頭に当たる。異常に冷たいなにかが。そのまま私の頭は無理やり持ち上げられ目の前の存在を見せつけられた。
熊にしか見えない。けど熊じゃないなにか。
『ギヒヒ、随分と目障りな光を纏っていると思ったら、なるほど。”偶像”の関係者か?』
”だれもがかなわない”
声なんて出るわけがない。呼吸すらできているか怪しい。
『ギヒヒヒヒ、その光、この魔王軍幹部、ジュプドロン・ギュシダーンが閉ざしてやろう。』
ガパッと熊の身体が真っ二つに割れる。そこから射出された何かによって私の心臓は貫かれた。
ゆっくりと自分の胸を見下ろすとそこには既に触手が抜かれており、その先端は光の塊の様なものをもっていた。
それがこれからどうなるかは想像に難しくない。
「あ、、、やめ、て。」
やっとの思いで絞り出せた掠れる声。必死に光に向かって手を伸ばし取り返そうとする。が、私の抵抗などないに等しい。
わざと目線が追えるようゆっくりと本体へと戻っていった触手。その本体が私の光を口にくわえて、見せつけるかのように口を歪ませながら”かみ砕いた”
その瞬間、私の世界は闇に閉ざされた。
ああ、きっとこれが”絶望”というのだろう。
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すでに痛みすら通り越してぼーっとする頭。
あのあと私は逃げた。なにから?あの世界から。そして今こうして終わりを待っている。
壁は迫ってきてすぐにでも私を切り刻み押しつぶすだろう。
お似合いだ。
エイタ君もくーねたんちゃんも裏切って、一人で消えていくんだ。
なにもない空間で膝を抱え体育座りのように体を縮こませながら蹲る。
――裏切者。二人を見捨てるんだ。
そうだよ。
――村はどうでもいいの?家族は?みんなは?
どうでもいい。
――あーもう!イライラする!さっきまであんなに知りたがってたくせに知ったら知ったでこれ。なんなの?!何がしたいの!
うるさいなぁ。どうしてそんなに怒ってるの?
――怒ってるよ。だってあなたは私だもん。
意味が分からない。あなたが私なら気持ちは一緒でしょ。
――そう。私とあなたの気持ちは一緒。
はは、私は自分が嫌いなんだね。ま、そうだよね。諦めたのは私だけ。きっと二人は諦めないのに。私は二人と違くて弱かった。
――光を取られたくらいで
あれね、食べられちゃったね。もうどうでもいいけど。
どんどん迫ってきている壁はもうすぐ私を潰すだろう。そうすれば私は解放される。
そんな壁の外側からドンッ、と轟音が響いているのが分かる。
壁の外で何が起こっているのか。どうでもいいか。
――あれ、窓がある
影が不思議そうに呟いた。私もつい影が向いていた方向に顔を見やる。
確かにそこには窓があった。ぼんやりとだが外も見える。
こことは違う場所。
荒れ狂う光と雷、そして爆発。そんな世界が壁の外に続いている。まさに地獄絵図。
気が付いたらすでに窓の方へと駆け寄っていた。
窓に張り付くように手を叩きつける。なぜか溢れ出る涙。
どうして?!もうなにもかもどうでもいいはずなのに。どうして私はここを出て外に行きたがってるの?!
――そんなこと、あなたが一番わかってるでしょ?
私、、、わからないよ。なんで!
――外でみんなが戦っている。私も一緒に戦いたいと思っている。それがもう答えなんじゃないの?
でも、私は光を奪われて、、、
――確かに私は光を奪われ、壊された。でもそれだけ。私は本当にすべてを盗られたの?本当になにも残ってないの?
私は、、、
――身体だってある。記憶だってある。諦めたくなるような”心”だってある。それに私はまだ全てを諦めてない。私がいまここにいるように。
はっっとして影を見る。影は先ほど同様じっと私を見ていた。
実体化した鏡の様だった。もはや影と呼べるほど暗くなく私と瓜二つ。
胸が熱くなるのを感じる。
――光を奪われ絶望したのだとしたら今私の心を燃やしているその炎はなに?
言われてやっと気づく。それほどまでに小さく、ほんの少し風が吹けば簡単に消えてしまいそうなくらい弱弱しい。だが確かにそこにある。私の心に灯っている”白い炎”
私は決して消してしまわないように優しく炎を包み込む。
壊された光がくーねたんちゃんからもらった希望だとするならば、この白い炎はエイタ君が灯してくれた勇気。
私は炎を抱きしめると流れ落ちている涙を堪えながら立ち上がった。
――はぁ、やっと復活した?本当に私ってめんどくさい。どれだけ時間を掛けるのよ。外はもう大変なことになってるのよ。
ふふっ、ごめんね私。そしてありがとう。こんな私を最後まで見捨てないでくれて。
私はちょっと恥ずかしそうにそっぽを向くと咳払いをして気を取り直す。そして体を大きく広げた。
――もう!いいから早く行くよ!さあ私を取り込んで私は一つに戻らなきゃ!融合だよ!フュージョンだよ!
あはは、やっぱり私だ。うん、そうだね。戻ろっか!
私はそっと私に抱き着いた。私は抵抗することなくそれを受け入れている。多分数秒もたってないと思う。でも気が付いたら私はいなくなっていて、私の手には私が持っていたバールが握られていた。
あれ、混ざり合うような演出とかないの?!と一瞬思ったが、ま、現実なんてそんなもんだよね。それになんだかさっきより気分がいい気がする。晴れやかっていうか。なんていうか。
ゴゴゴゴ
おっとそうだった!もう私を殺すための壁がすぐそこまで来てるんだった!ていうかこういうのって私の気持ちが立ち直ったら止まるもんじゃないんだ、、、まあいいけど。
私は窓の前に立つ。ぼんやりと外が見えていた窓。まるで出来損ないのアニメの爆発シーンがずっと流れているような光景が見える。
きっとここから外に出れる。そんな気がする。先ほど手で叩いた時はびくともしなかったけど、今なら、、、
私はバールを振りかぶると窓の隙間に突き立てた。
バキッと音が響く。
わぁっ!?眩しい!
こじ開けた扉から光が差し込み、瞬く間にこの世界を染め上げていった。
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・・・
・・・・・・
「はっ!!」
ぜぇはぁと荒い呼吸が聞こえてくる。それが自分から発せられているものだと気づくのに数秒掛かった。
ここは、私の部屋。長年暮らした場所だ。忘れるわけがない。でも明らかにおかしい。
ベットはぐちゃぐちゃに乱れて、机の上に置いていたものは全て床にぶちまけられている。好きな本やフィギュアを飾っていた棚も倒壊しておりその有様は空き巣にでも入られているかのようだった。または誰かがここで見境なく暴れたか。
そしてなによりも、私はその部屋の中央で膝をつき”自分の喉にバールを構えて”いた。まるでこれからそれを突き立てようとでもするかのように。
ゆっくりと喉からバールを離していく。
「ははは~、やばすぎ、もうちょっとで私死んでたかも?」
嫌な想像に血の気が引いていくのを感じるが今はそれどころじゃないとすぐ立ち上がる。
ってそういえば心臓貫かれてなかったっけ?と思い確認すると服にこそ穴が開いていたが体の方はこれと言って怪我もなく無事そうだ。
「う~ん、結構穴でかいし、見えちゃいけないところ見えてるし、流石に着替えたほういいよね。てかこんな格好じゃエイタ君の前でれないよっ!いやほぼ裸見られたことあったっけ」
なんて随分と余裕が生まれたものだと自分でも思う。そして代わりの服を探すため散乱した部屋を見渡すと一つの服が目に入った。そもそも私は二年もこの部屋には来ておらず昨日来たばかりであるから、当然服なんて簡単に出てないのだ。それでもつい最近。一着だけ引っ張り出したものがある。思わず渋い顔をしてしまう。どうして昨日の自分はあんなことをしてしまったのだろう。正直自分でもないわ~と思いつつでも今は選んでいる時間もないのでそれを手に取る。
「ええーーい!こうなったらトコトンだよ!」
私はそこにあった服一式に素早く着替えた。最後に深い紺色のローブに袖を通して、帽子を深く被れば、、、
「なんと素敵な魔女っ子ミカるん!登場ですっ!」
そう!魔女のコスプレ一式である!
部屋で一人ポーズを決めると外から盛大な爆発音が鳴り響いた。慌てた私はすぐ外へと向かうのであった。




