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43 開戦

 ドシャアアアァァンと盛大に地面を削りながら転がった後、木にぶつかりエイタは静止した。


 ジュプドロンから離れたおかげか既に体を押しつぶすような圧は消えており、痛む体を叱咤しながらなんとか起き上がる。


「はぁはぁ、くーねはっ!?」


 自分が飛んできた方向を見ると、ドバアアアン、だとかドゴオォォオンだとか。とにかくすごい轟音が絶え間なく鳴り響いていた。


 定期的に天に昇るような光が放たれ、かと思えば赤黒い稲妻の様なものが降り注ぎ凄まじい地鳴りが発生する。


 戦っているのだ。くーねと魔王軍幹部が。


「あれが、魔王軍幹部。ははは、いや笑えねえ、やばすぎるだろ。」


 あんなのに当たれば一撃で消滅してしまうだろう。それこそ灰すら残らずに。


 天を仰ぐ。がそこにあるのは夜空ではなく赤黒く固まった血のような空。あのジュプドロンが詠唱を唱え放った術から生まれた何か。一体どんな能力が込められているのか。


「ま、なんとなく予想はできるけどさ。」


 明らかに物理的な厚みがありそうな空が村を囲むようにドーム状に広がっているのだ。おそらく誰も逃げられないように閉じ込めるための術なのだろう。


 体に付いた土やらをパタパタと叩き落としながら立ち上がったエイタはくーねとジュプドロンが戦っている方角とは違う方向、村の方を向く。


「まったく、くーねも無茶いうよな。「そっちは任せたよ!」だなんて。まああんな怪物と戦うよりはましだけどさ。」


 そう。実はくーねはエイタを蹴り飛ばすときに一言伝えていたのだ。それがあったからこそエイタもジュプドロンの術に予想がついたのだが。


「あの時大男は重圧を解いて動いた、なのに俺は全く動けなかった、、、」


 村に向かって走りながら呟く。


 力の差は歴然だ。たとえどれだけ魔王軍幹部が強くて大男がちっぽけに見えたとしてもそれは俺が大男より強くなった理由にはならない。なんなら大男よりさらにちっぽけな存在が俺だろう。


「この状況を作ってしまったのは俺だ、あの時俺が動けていればくーねはあいつを阻止できていたかもしれないのに。」


 でもだからって戦わないという選択肢はない。それに既にジュプドロンがここら一体を閉じ込めた以上必ず大男も中にいる。出られないと悟った大男が次に何をするか。想像はできないが、ろくなことはしないだろう。


 だからせめて自分のやるべきこと、役目を果たさなくては。


「それにしても本当にあの大男はなんなんだよ、魔王軍じゃないならあいつは一体、、、」


 ジュプドロンと離れたおかげで絶望のオーラも薄くなったからか、それとも多少なりともこの絶望に体が慣れてきたからか考える余裕で出来てきたエイタの前方、村の方から一人の人が走ってきた。


「おーい!そこにいるのは、、、エイタ君か?!」


「ん?コウヘイさん?どうしてここに、」


 走ってやってきたのはミカの父、コウヘイだった。よほど急いで走っていたのか顔を青ざめながら肩で息をしている。


「どうしてってこっちのセリフだよ。ばあさんに村人を全員集めて地下の倉庫に避難しろって言われたから急いでみんな集めていたんだ。君たちは戦うって言ってどこかに行ってしまったけど。そしたら外からは雷が落ちたみたいなすごい音がずっと鳴り始めてなんだか凄い騒ぎに!一体なにがどうなっているんだ!?」


 混乱しつつも口早に経緯を説明してくれるコウヘイ。焦っているのか今にもエイタに掴みかかろうとしていた。


「おおお落ち着いてくださいコウヘイさん!状況の説明をしますからまずは村に、、、」


 言おうとした時、ドゴオオオオンと村の方から衝撃音が響いた。くーねとジュプドロンは少しずつ村から離れて山に移動しながら戦っている。おそらくくーねが離れるように誘導してくれているのだろう。ということは村で発生した音はこの二人によるものではない。では一体、、、


「・・・くっ!」


 一瞬で判断したエイタはコウヘイに「すみません。先に行きます!」と言い走り出した。脳の処理が追い付いていないコウヘイも置いていかれはしたが山のほうを少し気にした後直ぐにエイタを追って走り出す。


 すっかり怯え縮んでしまっていた左眼の炎を無理やり燃やし灯す。


 眼が燃えるように熱くなり焼き焦げそうな体から核力があふれ出る感覚を感じながら走る速度を上げていった。


 村へは直ぐに戻れた。おそらく一分すら経ってないだろう。


 だが目の前に広がる光景はズタズタに崩壊した村の外壁だった。


「これは、、、あいつの仕業か、」


 地面には自分の足の倍はありそうな何者かの足跡が村に入っていくように続いていた。大きい足音が続く先、そこには今まさに家を破壊する大男がいた。


 姿を認めた一瞬で走り出し間合いを詰めたエイタは心核を纏った拳を大男へと打ち込んだ。


 後ろからの奇襲。だが大男はそれを振り向きざまに片腕を合わせることで簡単に防御してしまう。


「・・・っく、硬すぎだろ!」


 先ほどは貯める時間+技名があったからかなりの火力で攻撃する事ができ、そこそこのダメージを与えられたが、今の攻撃はほとんどダメージは与えられてなかった。精々服を焦がすくらい。


 防いだ腕を振るうだけで押し負けたエイタはなんとか体制を整え一定の距離を保つ。


「ほう、まさか、生きていたか。貴様。よくあの場を脱せたものだな。」


 大男はかなり村から離れたはずなのに未だ轟音鳴りやまないくーねとジュプドロンの方向を見ながら呟く。


「まあな、そっちこそここから逃げられなくて残念だったな。」


 俺の返しに少し表情を歪ませた大男はしかしすぐに表情を戻す。


「構わん。どちらにせよ、私のやるべきことを、やるだけだ。」


「やるべきこと?何をするつもりだ?」


 いったい何をしようとしているのか。それを聞き出そうとすると大男はトレンチコートのポケットから何かを取り出しては地面にばらまいた。


「ふん、まったく、貴様には随分とかき乱されてしまった。まさか偽物を使い私を騙すとは、な。よくやってくれたものだ。」


 大男が地面に撒いたもの。それはガラス片だった。エイタが先ほど砕いたただの水晶の残骸。いつの間にか回収したのだろう。


「うっ、バレたのか。ってことはお前の目的は!」


「そうだ、貴様が壊した水晶は偽物だった。ならば、本物の”道の水晶”はまだこの村の何処かに、あるはず。当初と状況がかなり変わっているとはいえ、私のやることはこれまでとかわらん。回収。する。」


「それで村の家を壊して回ってるのか、、、くそっ!こんな無残に、なんて奴だ!」


 大男の周りには見るも無残にボロボロに倒壊した家屋があった。視線を巡らせたエイタにつられて周りを見た大男は顔を顰めると、


「おい、勘違いするな。私はまだ何もしていない。この家は私が来た時には既にこの有様だったぞ。」


「なにをっ、、、っあ」


 この期に及んで何を!と言い返そうと思ったが、ふと改めて周りを見渡す。確かに最近どこかで見たことがあるようなないような。っていうかあそこにあるのは即席のステージでは?


 どこか見覚えのある物を見つけ直ぐに家屋を破壊した犯人が頭に浮かんだ。というかその犯行現場に俺もいた。


 ここくーねがステージ作るために壊したとこじゃん。。。


 犯人を特定できたことでなんとも居たたまれない気持ちになってしまう。大男さんごめんなさい。エイタが家屋を壊した犯人を思いついたことを察した大男もまたじとーとエイタを見つめていた。


「とっ!とにかく!お前の好きにはさせない。水晶も渡さない。ニセ魔王軍め!」


「ニセ、、、そういえば貴様、ずっと私が魔王軍ではない、と言っていたな。なぜ気づいていた。」


「なんだよ今更、本物の魔王軍が来ちまったからもう隠さないのか?まあいいや。えっとなぜ気づいたか?だったか。そんなの簡単だよ。だってお前”名乗らない”んだもん。」


「は?」


「だーかーらー、名乗ってないだろ?一度も。何者か聞いた時も頑なに答えなかったじゃん。」


 理由が拍子抜けだったのか気の抜けた声を出した大男はポケットの中に残っているガラス片を残らぬように捨てながら言葉を続ける。


「それだけで、名乗らなかっただけで嘘だと断定したのか?」


「ああそうだよ」


「理解できん。そんなことで」


「やっぱお前、知らなかったんだな。って俺もくーねから聞いただけだけどさ。いいか?くーねが言うには魔王軍って連中は”必ず”名乗るんだってよ!意味が分からん。特に初対面は絶対に名乗りを上げなければ気が済まないらしい。現にあいつも名乗ってただろ?」


 ジュプドロンの先ほどの名乗りを思い出したのか納得はしてないが確かに、、、と唸る大男。


 正直魔王軍に関係なくくーねもことあるごとに名乗りを上げているから関係ない気もしているのだが。


「ふん、くだらん、、、だが、まあ次からは気を付けるとしよう。気づいている奴がいるとは思わんが。そんな話聞いたことがない。」


 すべてのガラス片を捨て終わった大男は拳を構えるように前に出し腰を落としてスッとエイタを見つめる。


 一気に剣呑な雰囲気が辺りに広がった。


 戦いが始まろうとしているピリついた空気を感じ取りエイタも何時でも動けるようより一層心核を高める。


 エイタから噴き出す白炎に大男が警戒しながらもじりじりと間合いを詰めようとしているところに、


「おーーい!エイタ君、待ってくれ!」


 後ろからエイタを追ってきたコウヘイの声が聞こえエイタの意識が一瞬後ろに移った。その隙を見逃さない大男が間合いを詰めエイタに殴り掛かる。


 バチンッと黒紫色のオーラが弾けエイタは盛大に殴り飛ばされた。がギリギリ防御が間に合ったおかげで何とか踏ん張り数メートルノックバックしたところで停止する。


(っっっ!!!なんとか防げた。けどこんなん何発も食らってらんねえぞ!)


「っな、、、エイタ君、、、これは一体、何が起こってるんだ。」


「コウヘイさん!今すぐ逃げてください!村のみんなと一緒に!避難をっ!」


 すぐに大男とコウヘイの間に位置取りこの場から逃げるように促す。大男もまさか防御されるとは思ってはなかったようでわかり辛いが驚愕の顔を浮かべている。しかしすぐに腕を振り払い表情を切り替えた。


「どこに逃げようと、意味などない。この村を滅ぼすことは確定している。だがまあ、最後の時間くらいはくれてやろう。」


 立ち止まっている大男はコウヘイがどこかに逃げるまでの時間をくれた。初めて大男を見たコウヘイは体を震えさせながらもなんとか声を絞り出す。


「あ、あいつが、君たちが、ばあさんが言っていた敵。エイタ君。あれは、、、君は、勝てるのか?あんなのに。。。」


 エイタはコウヘイの問に答えることはせず、代わりに腕を横に広げ白炎を生み出すと大男をはっきりと見据えていた。


 それをみたコウヘイはエイタの『戦う』という意思を感じ取ったのか緊張や不安をゴクリと飲み込み喉を鳴らすと、ゆっくりと後ずさりしていく。


「わかった。必ず、、、必ず助けを呼んでくる。だから、絶対に死ぬんじゃないぞ!」


 ある程度まで下がると一気に振り向き全力で走っていった。


 黙ってみていた大男はコウヘイの姿が見えなくなったことを確認すると視線をエイタに戻し口を開く。


「愚かだな。助けなど。」


 エイタは顔をしかめるだけで特に反論はしなかった。それは大男と似たような気持だったから。助けがいらないと思っているわけではない。ただ人数がいればどうにかなるような相手ではないと思っているだけだ。


「貴様はここで殺させてもらう。貴様のような手合いが厄介なことを私は知っている。」


「そりゃどうも。」


 一対一。今度こそ本気のぶつかり合いが今、始まる。


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