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39 謎の訪問者

 ぴょこぴょこと村の外壁から外を覗く。


「ちょっとエイタ君。見えないって!もうちょっと寄って。」


「押すなって!バレるだろ!」


「そんな大きな声出してたら見つかるよ~」


「ぐっ、くーねにだけは言われたくなかったな」


 村長の家を出て向かった先は正門ではなく少し外れたところにある外壁だった。というのも相手がどんなのなのか全く分からない。東間の時みたいにミカを見て暴走する可能性もないわけではないのだから先に相手を確認しておくに越したことはないと思ったのだ。そうして馬鹿正直に正門に向かおうとしていた二人を何とか説得してこちらにきたのだけれど。


「どれどれ、一体どんなやつがきたの・・・か・・・」


「ん?どうしたのエイタ君?・・・ッ?!」


 俺の態度が急に変わったことを疑問に思ったミカが視線を追いそれを見ると同じように一瞬で緊張感に包まれる。


「な、なんだあれは・・・なんなんだ・・・?」


「うそ・・・あれって・・・」


「・・・・・・」


 そこにいたのは身長が二メートル以上は確実にありそうな大男だった。


 全身を覆う黒いトレンチコートを着込んでいるが、それでは隠し切れないほどに隆々とした骨格が体の大きさをさらに強調していて一種の圧迫感すら感じる。


 にも拘わらず青白い顔は否が応でもあいつがただの人間ではないと証明しているようだった。


 しかし、エイタもミカも言葉を失った理由はその人間離れした見た目ではなかった。それは、


「なんだよあの”どす黒いオーラ”は・・・」


「っう・・・」


 思わず嗚咽が出てしまったミカは口を押えて隠れる。正直俺もこれ以上見ていたくはない。


 くーねだけがいつも通りの表情であいつを見ていた。


「エイタ、よく覚えておいてね。あれが”絶望”だよ。」




 バタバタと人が倒れていく。だから付いてくるなといったのだ。全くこれだから最近の若者は。


 わしは後ろで気絶するように倒れてしまった村の衆を一瞥すると軽く息を吐いた。失望したからではない。この呼吸は少しでも自分の気を保たせるためにだ。だって、一瞬でも気を抜けば自分もこやつら同様に気絶してしまうだろうから。


 だが同時にそうはならないであろうことも知っていた。今目の前にいる存在は私に用があるのだから。


 震える杖を支えにしながら少しずつ大男に近づいていく。向うに動く気はないのか同じ位置でじっとわしが到着するのを待ち構えていた。


「わしが村の長じゃ。用があるってのはあんたかい?」


 ああ、なんて威圧感。せめて、せめて口調だけでも強気でいないと正気を保てなそうだ。


「ほう、貴様が長か。間違いなさそうだな。」


 蒼白の顔面。生気の宿ってない眼がギョロリと動きわしを見る。凍り付きそうな視線を受けながらもなんとか受け答える。


「なに用かね?受け入れならすまないが他を当たってくれ。うちは誰も入れる気がないのでね。」


「なに、大した用事ではない。達成したらすぐに出ていくつもりだ。私はただあるものを受け取りにきただけ。」


「あるもの・・・じゃと?」


「身に覚えは、あるはずだ。この村にある。貴様も使っているであろう?」


「なっ、まさか、あれを寄越せと言っているのか?!」


「そうだ。少し前にここに使いが来たはずだ。しかし以降連絡は途絶えている。わかるな?」


 蒼白の顔面が少し歪む。突如今まで感じていなかったとてつもない圧が降り注いでくる。


「う”っ・・・」


「なに、日没まで待ってやろう。早く持ってくるがいい。”道の水晶”を。もし持ってこなかったら、分かるな?」


 そう言い終わった瞬間、身体を縛り付けるかのようにのしかかっていた圧が消えた。そもそも今までなかったかのように。


 目の前を見ると既に大男はそこにはいなかった。


 今頃になって滝のように汗が噴き出してくる。今まで感じたことのない恐怖に足の震えが止まらない。


 どんどんと思考が闇に飲まれていくのを感じる。


 今なら確信して言える。占いは奴の事を言っていたのだと。あんなのは人間じゃない。この世に存在していいものじゃない。あんなものに比べればミカと一緒にいた少年も少女もかわいい人間だ。


 疑ってすまなかった・・・


 そして同時に思う。あれは誰もかなわない。天使もなにも関係ない。全てが、全てが破壊され尽くすのだろうと。


 ミカはなんてタイミングでここに来てしまったんだ。もっと早く来て村を出て行っていれば、またはもう少し遅くこの村に到着していればこの事態に巻き込まれることもなかっただろうに。


 ゆっくりと意識が沈んでいく。深い深い闇の中に。もう戻っては来れないかもしれない。


 怖い、もう何も見たくない。もう何も聞きたくない。


 そう思えば思うほど頭に闇が侵食してくる。


 ああ、最後にもう一度だけ、あの歌が聴きたかったなぁ。ミカの友達のあの子の歌。一度しか聞いていないのになぜか頭から離れない。どこか暖まるようなあの歌を・・・


 ~~♪


そうそうこの歌。あぁ、心が晴れていく。よかった。最後にこの歌を聞けて・・・




「はっ、わ、わしは・・・いったい・・・」


「あ、起きた!」


「ばあさん!大丈夫か?!」


 わしはいつの間に寝ていたのだろう?それに目覚めたらいろんな人に囲まれておった。


「桐島・・・いったい何が起こって、」


「ばあさん急にぶっ倒れたんだよ!悪い所はねえか?大丈夫か?」


 倒れた?そうか、倒れたのか。


 なぜ倒れたのか理由ならすぐに思いついた。今もなお鮮明に覚えているから。


 つまりわしを呼びに来た門番と、わしを心配して付いてきた村の衆と同じだ。奴に気圧されたのだ。


 目覚めて意識がはっきりとしてきた時に部屋のドアがガチャリと開かれた。外からはミカとその仲間という少年が入ってくる。


「しょうおばあちゃん。よかった、目が覚めたみたいだね。」


「ミカ・・・心配をかけちまったね。」


 ミカも、その隣にいる少年も、先ほどまでのどこか気の抜けたような、心配事は何もないかのような雰囲気が一切消えており、その歳には似合わない真剣な眼差しをしている。


 それに、少年の右手には、


「村長さん。」


「な、なんだ?」


「あいつは敵か?」


 場がざわついた。この場にいるほとんどの者が奴を直接見ていないのだ。見たものはみんなまだ眠っておるだろうから。だから皆この少年が言った意味を理解できていないのだ。


「見てたのか?」


「しっかりと。」


 この少年は、、、通りでおかしいわけだ。あれを見てなお平静を保っておるとは。それに恐らくはミカとあっちの少女も。


 ただどう答えたらいいものか、、、特にこの場では人が多すぎる。


「んん”。みんな、心配なのが分かるがばあさんはもう大丈夫そうだ。こんな囲んでちゃ心も休まらないだろうし解散解散。」


 そう思っていたら少年が桐島に何か合図のようなものを送った。それを受けた桐島はわざとらしくも野次馬を返していった。不満そうにしてはいたがみな渋々といった感じで部屋を出ていき残されたのはわしと桐島、それにミカ達三人のみとなった。


「これでいいか?村長さん。」


「あ、、ああ。すまないね。」


「どうせいてもうるさいだけで邪魔だろ?気にすんな。

それでどうなんだあいつは、まさか人間だとは言わねえよな?」


「それは・・・すまないがわしにもわからん。ただやつの目的はしっている。」


「目的?」


「ああ、奴がここに来た目的は一つ、”道の水晶”を取りに来たのじゃ。」


「未知の水晶?なんだそりゃ」


「エイタ君、”未知”じゃなくて”道”だよ。ほらあそこ」


 ミカが指さし少年が視線を追う。そこには神棚がありその中央には両手では包めないほどの大きさをした水晶が置いてある。


 二人は水晶に近づいていきまじまじと観察を始めた。「うーん」と首を傾げながらあーでもないこーでもないと言い合っている。


「うーん、あいつは本当にこんなもの欲しがってるのか?なあ村長さん。

こんなガラクタみたいなもんさっさとあげちまえよ。ん?でも占いは実際に、、、ということはもしかしてこれ偽物か?」


 少年が水晶を持ち上げて透かしながら観察し、考察しながら問いかけてくる。


 そしてその推察は正解だった。そこにある水晶は見かけだけの偽物にすぎない。


「小僧、おぬしは一体、、、いや、いまはいい。そうじゃな、おぬしの言う通りその水晶は偽物じゃ。本物はここじゃなく祠の奥に隠されておる。」


「っな?!」


 これまで自分が信じていたものが偽物だと知り桐島が驚いているがいまはどうでもいい。


 やはりこの少年は普通ではない何かを持っているのだろう。本物を知っているからこそ儂も判別出来てはいるが少年たちは”道の水晶”を見たことはないはず。にも拘わらず一瞬で見破ったとなるとどこかであれに近いものを見たことがある。またはその存在を知っているというこということだ。


 ミカの力といい少女の歌といい、三人はおかしい。というより常軌を逸している節がある。


 だが、だからこそ、もしかしてこの子達でなら。。。


「しょうおばあちゃん?どうしたの?」


「う、すまん、少しぼーっとしておった。」


 考えを巡らせていたところでミカに中断されてしまった。でもよかった。あのままだとこの子達に酷いお願いをしてしまうところだった。


「でもわかんねえな。その”道の水晶”ってのをあいつに渡せばいいんじゃないか?って簡単な話でもなさそうだし。」


「それは、、、」


「お約束だとよくあるね、例えば祠から出しちゃいけない掟があるとか。それを破ると祟りで村が滅ぶ~みたいな?」


「なっ」


「え、」


 今度は儂が驚いた。まさかミカが掟の事を知っているとは思わなかったから。


「まさか、そのまんまなの?!もうちょっと凝った設定は?!」

 

「はぁ、そこまで知っていたとはな、やはりおぬし達は見かけ通り只者ではないのだな。」


「あれ、話聞いてる?」


「そう、ミカの言う通り”道の水晶”は祠から出すことは出来ない。そもそも取り出そうとして出来るものでもないしの。しかしあやつの要求に従わなければこの村は奴によって滅ぼされる。八方塞がりなのじゃよ。全く、」


「え、なにこの人いきなり新情報ぶっこんで来たんだけど。あいつ水晶貰えなかったら村滅ぼすつもりなの?」


 なにを今更この少年は、どうせ全部知っているくせに驚いたふりをしておる。演技力は役者級じゃな。


「知っておる通りじゃ、日没までに水晶を持っていかなかったらやつは村を滅ぼす。しかしわしではそもそも水晶を動かす事すらできん。もう全て終わってるのじゃよ。おぬしらなら外でも生きていけるのだろう?なら早くでもこの村から出ていくがいい。」


「にっ、日没だと?!もうほとんど時間がねーじゃねーか!」


「あーあー!またおばあちゃんから絶望が出て来てるよ!」


「ちなみに!”道の水晶”を祠から出した場合ってどうなるの?」


 途端にわーわーと騒ぎだした少年と少女。ミカが二人の声に埋もれないように声を張り上げて聞いてくる。


「詳しいことは儂にもわからんよ。ただ儂が生まれる”ずっと前”から言い伝えられておるのじゃ。あれを祠から出すとき、厄災が降り注ぐだろう。とな。」


「なんでそんなふわっとしてるの!具体的には?」


「そんなん儂はしらん。ただ”道の水晶”がそういうんだからそうなんじゃろ!」


 ミカが「そんなぁ」と言って項垂れているが本当にそれ以上はしらないのだから仕方がないだろう。どうせもう村は滅ぶのだ。もうなんもどうでもいい。


「じゃあ村長さん。最後に一つだけ聞かせてくれ。」


「なんじゃ。まだあるのか」


「ああ、というか最初の質問の続きだ。あいつは敵なのか?」


 その質問に一体なんの意味があるのだろう。そんなもの聞くまでもないだろう。到底正常とは思えないほどに青白くなった顔、にも拘わらず常人以上に発達しきった骨格。そしてなによりあの尋常ならざる気配。それが村を滅ぼすと言っているのだ。そんなの、


「そんなの敵以外の何物でもないじゃろう。」


 ごく普通な、当たり前の事を答えたつもりだった。だが、


「そうか、それは良かった。俺もあれは流石に敵だろうなと思ってはいたし、でもこれで安心して戦えるな。」


 ん?こやつ今何て言った?戦う?だれが?だれと?


 もしほかの誰かが儂を見たらポカーンと口を開けていてさも滑稽に見えたことだろう。そのくらいこの少年が言った発言は頭のおかしい内容なのだ。


 思わず少年の事を見てしまう。この部屋に入ってきた時からずっと持っていたバールをブンブンと振りながら具合を確かめていた少年は儂と目が合うとニッと笑いこう言った。


「あいつは俺がぶっ飛ばす。」


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