36 朝ごはんを食べたい子
ここは、どこだっけ。
ぼんやりとした意識の中、なにもない空間を漂うかのように俺はそこにいた。
ああ、そうか。ここはあの時の・・・
無限に続くかのように果てしなく存在する無の空間。ここには一度来たことがあった。
あのショッピングモールで魔獣と戦った後に五日間もの間気絶しているときに見ていた夢だ。
くーねは精神世界って言っていたっけ?
夢だか精神世界だか知らないけど俺はまたここに来てしまったわけか。そういえばここにあった変な扉をこじ開けたせいで核力に目覚めたんだよな。
周りをキョロキョロと見渡すが扉はおろか、あの世界を隔てるような大きな壁もない。前は世界の流れに身を任せていたら着いただけだったし、どうしたもんか。
前回との違いがあるとすれば、核力か。
目を閉じ集中する。全身をめぐる核力を手に集中すると、
ボバッ
案外普通に出たな。起きてるときでも普通に出せるんだからなんらおかしいことはないのだが、やっぱ夢だし?
それから核力で遊んでた。というか操作の訓練。気持ち現実世界より思い通りに動かせている気がする。意識がはっきりしてるのに目が覚めない以上ほかにすることもないからね。移動もしてるかどうかわかんないし。
ただ時間だけは気になった。前回はここに五日間もいたんだ。そんなに長時間寝ていたらみんなに心配されてしまう。
ん?今のは・・・
遠く。はるか遠く。視界の端の闇の中で一瞬なにかが居た気がした。
見間違いじゃない。こんな何もない所で見間違う訳がない。
あれは、、、銀、、、色、、、
「はっ!」
跳ね起きる様に目が覚める。ここはミカの家の一室。暫く使われていなかった部屋を貸してもらったのだ。チュンチュンと外から鳥の鳴き声が聞こえてくる。
「もう朝か。」
朝の五時くらいだろうか。窓に近づきカーテンを開けると朝日が大量に入り込んできた。窓も開けて外の風を感じつつ遠くを眺めていると少しづつ目が覚めてくる。
(夢の事ははっきりと覚えている。前と違って今回は特に何も起こらなかったけど、最後、あれはなんだったんだろう。あの一瞬みえた銀色の輝きは)
ま、考えても仕方ないか、どうせわかんないし。後でくーねに話してみよう。そう考えて手短に着替えを済ますと部屋を出た。
「あらエイタ君、早いのね?おはよう」
「あ、リョーコさん。おはようございます。」
部屋を出た時からしていた良い匂いに釣られてリビングへ行って見るとリョーコが既に起きていてご飯の支度をしていたところだった。
部屋を見渡すとリョーコ以外にはまだ誰も起きていないらしい。少なくともこの部屋にはいない。
「みんなまだ寝てるわよ。昨日はかなり遅くまで起きていたしまだ当分は起きないんじゃないかしら?」
俺の思考を読んだかのようにリョーコが説明してくれる。
「そうですか。でもリョーコさんも遅かったんじゃ?もう起きてるんですか?」
「そうなんだけどね。歳をとると勝手に起きちゃうのよ。」
「あ、そですか。」
この話を深堀するのはやめておこう。なんかリョーコさんから圧を感じて怖いから。
しかしどうしたもんか。正直まだ二人きりは気まずい。もう一度部屋に戻って二度寝でもしようかと思っていると後ろに気配を感じた。
「うみゅ~良い匂い~」
普段はツインテールにしている長い髪を下ろした黄金色の髪をゆらゆらと揺らしながら眠たそうな顔をしたくーねがリビングへとやってきた。
「くーね。お前もう起きたのか?」
「ぬ~~」と返事になってない返事をしながらそのままどさっとテーブルに着くくーね。とても他人の家とは思えないくらい堂々とした動き。ふてぶてしい奴だ。
普段ミカが出してくれるように朝ごはんが出てくるのを待っているのかもしれない。
「あらくーねたんちゃんもおはよう。ご飯食べる?」
「おはよう~~。たべる~~」
窓から差し込む朝日を浴びてポカポカになりながら眠たくて落ちてくる瞼に抵抗することもなく返事を返している。放っておいたらすぐ寝てしまいそうだ。
「は~い。エイタ君も食べるでしょ?」
「はい!いただきます。」
まあ俺もそのつもりで来たんだけどね。
せっかく用意してくれたんだ!食べない方が失礼だろう。と自分に言い聞かせながらくーねの隣のテーブルにつく。
決して良い匂いのせいでさっきからお腹が鳴りっぱなしなわけではない。
朝ごはんはとてもシンプルなものだった。白米に味噌汁。そして川魚っぽいやつ。ただこの崩壊した世界にとっては物凄いご馳走だ。魚を食べるのなんて何時ぶりだろう。
「いいんですか?こんな豪華なご馳走を用意してもらって。」
「いいのいいの。ここはいろんなものを自給自足してるから案外食料には困ってないのよ。」
そうか。もともと山に囲まれた立地なこともあって農作業が盛んだったんだ。だとしても凄いけど。
「そうなんですか。ありがたくいただきます。」
「すっごく良い匂い!ねえねえこれなに??この茶色いスープみたいなのはなに!!!」
「えっと、、、ただの味噌汁なのだけど?」
すっかり目が覚めたくーねが初めて見る味噌汁に興味津々だった。
くーねが元いた世界には味噌汁はなかったらしい。
味噌汁を知らないくーねに「そういえば海外の方だったわね?」と疑問を浮かべながらもキッチンの方へ戻っていった。
リョーコさん。くーねは海外ではなく界外です。
言われた本人はそれに気づく事もなく「へ~」なんて流しながら早速ご飯を楽しんでいた。とてもおいしそうに食べるのでこっちもお腹が減ってくる。さ、俺も冷めないうちに食べよう。
朝ごはんを食べ終えてゆっくりしているとくーねがやけにそわそわしている。
「なんだくーね。さっきからさわさわと。散歩に行きたい犬か?あ、あとでポニーにもご飯やらないとな。」
「んなー!そんなんじゃないよ!・・・ただ外には行きたいかなーって」
両手の指先をつんつんと合わせながら上目遣いでそんなことを言ってくる。ものすごくかわ、、、
「やっぱ散歩じゃねえか」
「だーーから!違うって!違うけど違うの!」
プンスカと怒りながら服を引っ張ってくる。なんなんだ。外に行くだけなら一人でも行くことができるだろうに。昨日の事もあり一人で行動するのを控えているのかもしれない。いつもなら勝手にどこかにいくくせに。
「わかったって。わかったから服を掴むな!破れるだろ!あれだろ、ライブしたいからいい場所ないか探しに行きたいんだろ?」
「はっ、なんでわかったの。」
「そりゃわかるよ。顔に描いてある。」
「うそ!ほんとに?」
顔をごしごしと拭きながら「消えた?」と聞いてくるくーねに「いやぜんぜん」と言いながら立ち上がり外出の準備を始める。
「あれ、いいの?一緒に来てくれるの?エイタってライブ全然見てくれないのに。」
「それは俺が気絶してる時にばかりライブするくーねサイドに問題がある。」
「あ、あれー。そうだっけ。まあいいや!じゃあ早く行こう!!」
ルンルンと外出の準備を始めたくーねと俺を見ていたリョーコさんが心配そうな表情を浮かべながら近づいてくる。
「あなた達、外に行くつもりなの?」
「はい。体も動かしておきたいですし。まずかったですか?」
「まずいってことはないんだけどね?ほら、昨日のみんなの反応を見てればわかるでしょ?よそ者には凄く攻撃的なのよ。実際に殺された人だっているんだから。だから危ないわよ。」
「ああ、それなら大丈夫ですよ。そんな簡単に負けるつもりはありませんから。むしろ村人の心配をした方がいいと思います。」
隣にいるくーねを横目に見ながらリョーコさんを説得する。
「そういう問題じゃない気がするのだけど・・・?それに村人の心配?いったいどういう・・・」
そんなことを言われても何も知らないリョーコが困惑するのは当たり前の話。しかし説明するのもいろいろと大変なんだよな。どうしようか、あ、そうだ。
「こいつも魔女なんで!」




