3 崩壊する世界 3
皆さんこんにちは!
「うへぇ、かなり弱くなっちゃったな~」
ゾンビの屍の山の上でくーねは体の具合を確かめる様に肩を回しながらつぶやく。
「やっぱり最後の攻撃はダメだったね。代償に力のほとんど使っちゃったから全然残ってないや。しかも魔王には逃げられちゃうし。」
すっかり静かになってしまった屋上で時間が止まってしまった錆色の空を見上げる。
「あーあー、ここから出るの無理そうだな~。せめて希望の力を補充できればぶっ壊せるかもしれないけど、人が居なかったら私一生このままだ!あはは!」
笑い事ではないのだが、くーねにとってこのくらいの事は慣れっこだ。
ふんふふーんと鼻歌を歌いながら屍の山を下りる。
「よーし!まずは核を探さないとね!」
”時の牢獄”。それは神話に登場する時間を止めて隔絶してしまう術。
しかしこれが術である限り必ず核は存在する。そこを狙い破壊できれば脱出できる。はず。
ぐ~~~っと伸びをして体を伸ばすと、くーねはなんの躊躇いもなく屋上を飛び降りていった。
ーーーーーーーーーーーーーー
なんとか廊下の一番奥、行き止まりのところにあった物置部屋にエイタたちは逃げ込むことができた。
「あれは、一体何だったんだ」
言葉にすると急に現実味が増してくる。ミカは膝を抱えながら、震える声で言った。
「制服着てた。私たちと同じ学生だったんだよね」
「噛まれたら、俺たちもああなっちゃうのかな」
「私たち、これからどうなっちゃうんだろうね・・・」
沈黙が落ちる。俺も先のことを考えるだけで顔が引きつった。
「みんな、無事かな・・・」
ミカがぼそりと呟く。その言葉で俺の頭にも家族や友達の顔が浮かぶ。もし彼らがゾンビになっていたら、、、そんな考えを振り払うように頭を振った。
「きっと大丈夫だよ。ゾンビだってあの一体だけだったんだし。もう警察とかが来て片付けてるって」
「そう・・・だよね!みんな、お父さんもお母さんも無事だよね!はぁ、昨日も一昨日も会ってるはずなのに・・・早く会いたいなぁ」
「うん、早く出よう。きっと向こうも心配してる」
「すぐ帰れるかな?電車とか止まってるかも」
「じゃあ俺が、桐島さんを家まで送るよ」
「ほんと?じゃあ、ちょっと安心かも。・・・でもエイタ君は大丈夫?」
「大丈夫。ちょっと帰るのが遅くなるだけさ」
ミカが少しだけホッとしたように笑った。ああ、そうだ。帰るんだ。せっかくあの状況で生き残ったんだから。
――生きて帰る。
「そういえば桐島さん、なんで俺のこと“エイタ”って呼ぶの?まあ別にいいけど」
「え!?えっと、それは・・・その・・・」
急に顔を赤らめて、もじもじしだすミカ。
(え!?この反応ってもしかして俺のこと...)
その時だった。
ドンドンドン!
物置部屋の扉が激しく叩かれた。
「ッ、ここにいるってバレてるのか!」
「どうしよう!これ以上逃げられないよ!」
ドンドン! ガタガタ!
「う”あ”あ”ぁ!」
崩壊でボロボロになった扉は、すぐにも壊されそうだった。
時間がない。俺の頭に一つの作戦が浮かぶ。いや、作戦ってほどじゃないけど。
「武器になりそうなもん・・・!」
急いで立ち上がり、物置を漁る。そして見つけたのは――
「ハハッ、ゾンビ映画といえばってか」
それは、バールだった。
「俺がドアをぶち破って、ゾンビをぶっ飛ばす。その間に逃げよう」
「それはエイタ君が危険すぎるよ!」
「大丈夫。足はこっちのほうが早いんだし。転ばせさえすれば逃げれるよ。それでもダメだったら、こいつで...」
バールに視線を落とすと、ミカもそれを見た。
「それって・・・エイタ君、戦うの?」
「わかんない。でも、何も持たないよりはマシだろ?」
「じゃあ私も!」
エイタの本気を感じたミカはフンスと鼻を鳴らしながら立ち上がり、近くの棚にあったものを手に取る。
ミカが手にしたのは――ハンドタイプのスコップ。
「き、桐島さん・・・それって」
とっさに掴んだせいで、自分でも何を取ったか把握してなかったらしい。ハンドスコップを見て、顔を真っ赤にしていた。
「エイタ君が言ってたでしょ。何も持たないよりはマシだって!」
「・・・まあ、たしかに」
「よし、じゃあ行くよ!」
「あぁ、やろう!」
扉はすでに限界だった。タックルすれば、ぶち破れるはず。ゾンビごと吹き飛ばせれば、扉の下敷きにして時間も稼げるかもしれない。
深く息を吸い、俺は扉へ向かって走り出す。
「うおおおおおおおおおおっ!!」
どおおおおん!
扉が吹き飛び、俺も一緒に倒れ込む。幸運にもゾンビの下半身を巻き込むことができた。
「今だ!」
ミカが走り出す。俺もなんとか立ち上がりあとを追う。
ちらりと後ろを見るとゾンビが扉の下から這い出てきていた。
「やっぱり、あれじゃ止まらないかっ!」
「エイタ君!さっきのとこまで戻ってきちゃったよ!」
ミカが前方から叫ぶ。だが逃げるしかない。
右へ左へ。崩落のせいで通れない道ばかりだったが、とにかく玄関の方角へと走る。
そして――
「・・・これは、いよいよやばいかもな」
行き止まりだった。
後ろを振り返ると、ゾンビが早歩きくらいのスピードで近づいてくる。
俺はミカを行き止まりにあった放送室へ避難させ、手に持ったバールに目を落とす。
「やるしか、ないか」
そう思った瞬間、手が震え、頭の中がぐにゃぐにゃと回り始めた。
(わかってる。あれはゾンビだ。もう死んでる。でも・・・!)
でも――元は自分たちと同じ人間だった。
そのことが、どうしても足をすくませた。
後ろを振り返ると、放送室の小さな窓からミカが不安そうにこちらを見ていた。
(もし、”あれ”を倒せなかったら俺は死ぬ。...桐島さんも)
(俺がゾンビになって、あの子を襲うことになったら・・・!)
怖い。でも、それ以上に・・・
ゾンビは目の前にまで迫ってきていた。
握るバールに力が入る。
(やろう。桐島さんを、家に帰すって約束したんだ)
対峙する、ゾンビとの闘いが始まる。
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