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21 生き残りの基地 3

「やっと、や~~っと、僕のものになってくれるんだね。ミカちゃん?」


 ニタニタと気味の悪い表情で私を見ながら笑っている。


 全身を舐めまわすように視線が動き品定めでもされている気分だ。

鳥肌が止まらない。


「どうしてこんなことするんですか!?ここから出してください!」


「どうしてって、ひどいなぁ。僕はずーーと君を見てきたのに。」


 ゆっくりと牢屋に近づき、鉄格子を掴む東間。その瞳は狂気そのもの


「ずっと、ずっと!毎日君のことを見てたんだよ。友達と楽しそうにいるときも。一人でつまらなさうにしているときも。学校を休んだ日には何かあったんじゃないかと一日中心配だった。」


 ガタガタと鉄格子を鳴らしながら興奮している東間。


 まったく身に覚えがない。この人が何を言っているのか理解できないし、理解したくもない。


「なのにミカちゃんときたら、知らない男と一緒にいるんだもん。ゆるせないよ。君は僕のものなのに」


 お前の物になったつもりなど一度もない。


「あの男は後でちゃんと殺すから心配しなくていいよ?それより今夜は僕といっぱい楽しもうね?」


(エイタ君を殺す?!そんな・・・いや、大丈夫、こんな奴にエイタ君が負けるわけ・・・)


「あ~、楽しみだなぁ。やっと夢が叶うんだ。じゃ、僕は準備してくるよ。しっかり体を洗ってこないと。また夜に会おうね。」


 そのままゆっくりと私が閉じ込められた牢屋から離れていく。


 ぺたん。と地面に座り込んでしまう。

全身が震えてる。足に力が入らない。


「どうしよう・・・閉じ込められた・・・このままじゃ・・・」


「うぅ・・・」


「?!」


 座り込みこれから起こるかもしれない事態に吐き気が込み上げていた時、背後からうめき声が聞こえてきた。

そうして思い出す。この牢屋にはもう一人同居人、先住人がいたことに。


 この牢屋に入ってから一度だけその姿を見た。

 私は現実から目を背けないため、震える体を抑えつけなんとか振り返る。


 そうして目が合う。


「っ・・・そっか、あなたは、まだ諦めてないんだね。」


 そこにいた少女は私と同じか少し年上くらいだろうか。


 まともに服も着させてもらえず、右足に足枷、左手に着けられた手錠は壁に埋め込まれまともに自由が利かない状態だった。


 全身に痣が浮かんでいる。どうやって着いたのかは想像もしたくない。

しかし、その瞳だけはまっすぐと私を捉えていた。


「ぁう、ごめ・・・ん、なさい」


「どうして謝るの?あなたに謝られても私は困ります。」


 私は制服の上着を脱ぎ、彼女に羽織らせてあげる。

気休め程度だけど、ここは寒いからね。


 それから彼女の枷を外そうとしたけど、頑丈にできており、外せそうにはない。


「あいつの・・・あんな興奮した姿。初めて見た・・・

あなたはあいつにとって特別。お気に入りになる。

だから、私はやっと・・・だから、

ごめんなさいっ!」


 今にも泣きそうな、というか泣いている彼女を抱きしめてあげる。


 この子が何を言いたいのかはなんとなくわかった。


 今まで辛かったんだろうな。私もそうなるのかな。


 怖いな。嫌だな。


 もし、同じ立場になったなら、エイタ君はどうするかな。くーねたんちゃんはなにをやるかな。


 きっと諦めないだろうなぁ。助けようとするんだろうなぁ。


 二人は凄いんだ。自分の命を懸けて、何かをしようとするんだもん。


 絶対に諦めないんだよね。きっと今も・・・


 私は彼女に向き直る。ちょっと不格好な笑みを浮かべて。


「あなたは、私が絶対助けてあげる。」


「?  あなたが助けてくれるの?この状況をどうにかできるの?」


「私一人じゃ無理かも・・・でも私は一人じゃない」


 私も諦めない。きっと希望を照らしてくれると信じてる。


「必ず、希望はやってくる。」


「で、でも!ここは絶対に出れない・・・」


「大丈夫。私に考えがあるの。あなただけは絶対に出してあげるから・・・」


 その時、


 ジジーーー、『あー、あー、これ聞こえてるのかな?あーうーあーうー。』


 それはどこからともなく聞こえてきたくーねたんちゃんの声。


『まあいっか!多分聞こえてるよね!じゃあみんなーー!元気出していっくよーー!!!』


 デデデデン!  デデデデンッ!! デレデレー♪


 あぁ、懐かしいな。このどこか気が抜けちゃうような、でもそれでいてくーねたんちゃんらしい曲。


 エイタ君が気絶してるとき、一回だけくーねたんちゃんが歌ってくれたんだよね。


「ふふっ、ほらね。希望が見えてきたよ。」


「これは、一体・・・」


「ちゃんと聴いてあげて?」


 彼女は突然の事に混乱しながらも、目を閉じて曲を聴き始めた。


 凍えた心が暖まる。優しい陽だまりに溶かされていくみたい。


 あっという間に曲は終わってしまった。


 スピーカーの向うでごちゃごちゃと騒いでブツッと切れた。


 きっと無茶したんだろうな~と笑ってしまう。


 でも元気そうでよかった。やっぱりくーねたんちゃんはいつも通りだね。


「あの、さっきのはなんだったの?あんなのここにきて初めて聞いた。」


 それから、私はくーねたんちゃんの事、出会ってからの事を話してあげた。


 もちろん異世界だとか、二年間の空白とかは省いてね。


 ある程度話終わったらすごい微妙な顔してた。

疑ってるな?私が話しを盛ってると思ってるんだろ~


 残念盛ってるどころか少し削って話してます。


 どのくらい話してたかな。本題を逸れて他愛もない話になっていた、そんな時、足音が聞こえてきた。


 私達に緊張が戻る。


「ミカちゃ~ん。ちゃんと待っててくれたかなぁ?

いろいろあって遅れちゃったよ~

まったく君の友達はやんちゃだねぇ。まさか放送塔までいくとは・・・

でも大丈夫。もう大人しくなったよ。今度こそちゃーんと捕まえた。」


 くーねたんちゃんを捕まえたと言いながら東間が帰ってきた。


 まっすぐ私達のいる牢屋に近づきわざとらしく音を立てながら鉄格子を掴む。


 その音に彼女は怯え、身を縮こませる。


 私は一度、この子の手をギュっと握ると立ち上がり、東間に向く。


「・・・一つだけ、お願いがあります。」


「うん?どうしたの?」


「私の事は好きにして構いませんから、この子を開放してください。それが願いです。」


「?!」


 彼女が驚愕の顔で私を見てくる。


 一瞬ぽかーんとした東間はしだいに口角を上げていく。


「ああああ!素晴らしい!ミカちゃん!その子ともう友達になったんだね!ああ尊い!尊いよぉ!」


 ガタガタと鉄格子を鳴らしながら興奮した東間は、ポケットから一本の鍵を投げ込んできた。


カランと地面に落ちた鍵が響き渡る。


「いいよぉ、そのお願い、叶えてあげる。その子は解放するよ。

本当はもっと遊びたかったけど、ミカちゃんの最後の願いだ。

そのかわりミカちゃん。わかってるよね?」


「・・・・・・」


 投げ込まれた鍵を手に取り少女の枷を外していく。


「どうしてっ!どうして私を!」


「約束したでしょ?あなたは絶対にここから出すって。」


「でもっ!あなたは?!」


 興奮状態になる彼女を私はゆっくり抱きしめる。


「私は大丈夫だから、ここを出たらさっき話したエイタ君とくーねたんちゃんを探して。きっとあなたを助けてくれる。」


 あいつに聞こえないよう声量を落として言う。


「お別れは済んだか?ほら、さっさと出ろ」


 東間が扉を解錠し、出る様に促す。


「ミカちゃんは奥まで下がれ、それからお前がこっちにこい。」


 指示通りに奥の壁まで下がる。


「ごめんなさい。ごめんなさいっ!」


 少女は涙を浮かべ謝りながら牢屋を出て走っていった。


 彼女が出た後すぐに扉は閉じられ鍵を掛けられてしまう。


「たのんだよ・・・」


 彼女が出て行ったあと、しばらく無言の時間が続く。

 少女の足音ももう聞こえない。もう地上へ出ただろうか?

やはり東間はもうあの子には興味がないみたいで追いかけるそぶりはない。

そうとう私にご執心みたい。ああもう最悪。


「ひっ、ひひひ、やっと二人きりになれたねぇ?ミカちゃん。」


 相当機嫌がいいのかにったりと笑い檻越しに私を見てくる。


「はぁ、やっべ、もう我慢できねぇ。」


 東間はポケットからまた鍵みたいなものを取り出した。


(入ってくる・・・)


 しかし扉にはいかない。

鉄格子を掴んだままだ。


 すると東間の握る鉄格子に変化が起こった。

ぐにゃりと曲がったのだ。まるでのれんでもめくるかのように柔らかく動き出した。


「っ、こないでっ『ウインドブレス!』」


 東間が入ってくると同じタイミングでこっそり用意していた扇子を取り出し大きく振るう。


 まさか扉じゃなくて鉄格子を動かして入ってくるとは・・・


 生み出された突風は私の思惑通りに東間を吹き飛ばすことに成功した。


 飛ばされた先の壁にぶつかったのを確認した私は脱出するためすぐさま鉄格子に駆駆け寄る。


「う、うそ・・・」


 しかし鉄格子が動くことはなかった。

先ほどまでぐにゃぐにゃと動いていたはずなのにどうして・・・


「いててて、まったく、ミカちゃんは乱暴だなぁ。扉から入らなくて正解だったよ。

まさか魔法を使えるとは。凄いねぇ。でも、魔法を使えるのはミカちゃんだけじゃないよ?」


 そういうと東間は、鍵のようなもの。それを空中で揮う。


「?! なにこれ?!」


 突如地面から鉄格子が生え、私の足に絡みつく。


 抜け出そうと藻掻くも、硬い鉄格子は初めから地面に埋まっているかのようにビクとも動かなかった。

そのまま腕も絡めとられる。


「風を起こした魔法はこれかな?」


 また別の場所から生えてきた一本が器用にも扇子を奪い取る。


「か、かえ、してっ!」


「こんないいもん持ってたんだね。全く、他にも隠してるか全身くまなくチェックしてやらないとな。」


 牢屋の中で動けない私に、今度こそ東間が侵入してきた。


「そういえば、一緒にいたお友達、あの子も凄く可愛いよね~。僕もうびっくりしちゃったよぉ。

あの子も魔法が使えるのかな?なら後でしっかりとチェックしてあげないとね。

あぁ、安心して、ミカちゃんのお友達は大切に扱うから。

今頃は部屋で大人しくミカちゃんの帰りを待ってるんじゃないかな?

それより今日はミカちゃんをたっぷり可愛がってあげるから。暫くは寝れないかもなぁ。なんせ二年間も離れてたんだ!」


(くーねたんちゃん・・・ううん。大丈夫。あの子が簡単に捕まるわけない。私を待って部屋にとどまるなんてしないはず。閉じ込められててもそれに気づかないで出てくるよ。きっと今はまた変なことしようとしてるに決まってる!こんな奴らには負けない!)


「はぁ、はぁ、やっと、やっとっだよ!ようやく僕のものになる。大切に、いっぱい可愛がってあげるからね。あの男とやってないよね?心配だよ、僕のミカちゃんがほかの誰かに汚されたりしてたら。

あぁ、あの時のままだ、凄い、全く変わってない!」


 服に手を掛けた東間はボタンを引き千切るように服を破く。


「うひょーー、期待通りの素晴らしい体じゃないか!いいねぇ!」


(エイタ君、くーねたんちゃん。私、最後まで諦めないよ)


 いつかくーねたんちゃんが言ってたよね。私には術師の才能があるって。


 術師は心核がなくたって覚えてる術を行使できる。

ただその分より正確で繊細な核力の制御を要求される。


 東間が私の体に触れようとする瞬間。


 震える声で詠唱を紡ぐ。


「いまここに、来りて回り・・・」


「ん?どうしたのぉ?」


 何かを呟く私に東間が手を止めた。

ただ、私がこの状況を脱せないという絶対的自信があるのか、その顔は面白いものでも見るような表情だ。


「螺旋を描き、空、穿つ・・・」


 詠唱を唱えるたび体内の核力がごっそりと持っていかれるのを感じる。

さっきの攻撃で既にかなりの核力を使ってしまったから。

もう余力もほぼない。


「わが呼び声に、脈動せよっ」


 体を触られようが、詠唱を続ける。


 意識が朦朧とする。でも止めない。


「さーって、こちらの具合はどうかなぁ?」


 東間の手が下に伸びようとする前に、


「弾丸となり貫けっ『ジオ・スパイラルッ!』」


 ガクン と意識が一瞬暗転した。


 しかし、私が生み出した術はしっかりとこの世界に奇跡を起こす。


「・・・?!」


 東間が危機感に気づき、後ろに飛んだのとほぼ同時に、指先ほどの螺旋状に尖った岩が回転しながら放たれる。


 鍵を構えてももう遅い。


 咄嗟の防御もむなしくその左肩に深々と岩が突き刺さった。


「うぅ!?ぐうぅ、いってええ!小娘ぇ、よくもぉやりやがったなぁ!」


 貫通はしなかったのか、血が噴き出している左肩を抑えながら立ち上がる。


 頭狙ったんだけどな。うまくいかないね。


「ああああ痛い!痛いじゃねえか!」


 激情のまま思い切り私のお腹を蹴りつけてくる。


「う”っぅ・・・」


 よほど頭に来たのか二発、三発と続けて蹴りを振るう。


 痛いな。すごく痛い。もう気絶しちゃおうかな。

へへっ、エイタ君凄いなぁ、魔獣に突進されたときなんてもっと痛かっただろうに。平気な顔して立ち上がるんだもん。


 でも、これでいいや。こんな奴に好きにされるくらいなら殴られた方がずっとまし。


「あああああ許せないっ!僕の体に!あああああっっっ!!!

くそっ、くっそっ!!」


 ドスッ ドスッ と蹴られるたび、意識が遠のいていく。


 もう痛みすらも感じなくなってきた時、なんだかぼや~んと昔のことを思い出していた。


 あれは中学生の頃だっけ。


本日3話に分けて投稿します。

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