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20 生き残りの基地 2



「あ、アイドル?いったいどういう・・・」


「あーなんでもないですよ!こいつちょっとアレなんです。あははは」


「アレ・・・ああ、アレなのか」


 くーねを上から下まで全身を見渡し、なんとなく”アレ”なことに納得する遼太郎。足を一歩引き距離を取っている。


「ちょっとエイタ!この人変な人を見る目してるんだけど!なんてこと言うの!」


 別に事実だからいいんじゃないですか?


「ん”ん”。それじゃあそろそろ部屋に案内してもいいかな?」


「あ、そうですねお願いします。」


「あっ、ごめんねエイタさん。先に女性陣を案内するから君は暫くここで待っててくれるかい?」


「え?あぁはい。わかりました。」


 ずっと一緒だったから全く気にしてなかったけど考えてみれば男女で部屋が別々なのは何もおかしいことじゃない。


「では、行きましょうか。」


「じゃあエイタ君、またあとでね~」


 遼太郎に連れられてくーねとミカが行ってしまう。


 それを見送った俺はぽつんと一人残されてしまった。

さてこれからどうするか。待っててくれとは言われたけど・・・


 周りを見てみるとまだ視線が集中していることに気づく。


 ひっ、みんなこっちみてる・・・そんなに珍しかったか?


 あ、くーねは珍しいか。


 ずっと突っ立ってるのも疲れるので近くの壁を背に寄りかかった俺は、遼太郎が案内を終え戻ってくるのを待った。


 十分、二十分。そこそこ時間が経っても遼太郎は戻ってこない。


 ? ちょっと遅くないか?部屋の説明とかで時間が掛かってるのかな?


 さらに一時間ほど経過する。


 おかしい。流石に遅すぎる。


 休憩も兼ねていたので今まで閉じていた目をあげる。


 ?! 周りの人はまだ俺を見ていた。いくら珍しいつっても長時間見すぎだろ!

というか先ほどよりあきらか人が増えているんだが。


 三十人近い団体となった人たちがこちらを見ていた。


 なんかやだなーっと思っていると、


 ゴーーン ゴーーン


 どこからか鐘の音が聞こえてくる。


 なぜ鐘の音が?


 鐘の音が鳴り終わってすぐ、集団の中から一人の人がこちらに歩いて向かってきた。


 俺の前まで歩いてきた男性は目の前で立ち止まるとやつれた顔でこう言った。


「ようこそ新入り、くそったれな牢獄へ」



ーーーーーーーーーーーーーーーー


「うーん」


「くーねたんちゃん、どうかしたの?」


「ちょっとねー、どうやろうか考えてて」


 ニマニマした顔で何かを考え込んでるくーねたんちゃん。

ここでもなにかやろうとしてるんだね。

私は結構不安なんだけどな。


 エイタ君と別れてから既に結構経ってる。部屋に案内するだけにしては少し遠くないかな?


 今はくーねたんちゃんがいるから大丈夫だけど、私はエイタ君の方も心配だよ。こんなに離れることなんて初めてな気がする。


「すみませんね。こんな遠くまでご足労頂いて。もうすぐで付きますから。」


「あはは~、大丈夫ですよ~」


 この人もなーんか胡散臭いんだよね。長の補助の人が危険な外に一人でいたりするのかな普通?オーラがあるってことは戦えるってことだと思うんだけど、それならそれで怪しい・・・


 これから起こるであろう定番のラノベ展開を妄想していたらいつのまにか部屋に着いたみたい。


 ついつい変な妄想しちゃうんだよねー。アニメの見すぎかな?


「こちらがお二人のお部屋になります。」


 案内された部屋はザ・客室って感じの部屋だった。

 重厚な扉の中には、

古い保健室にありそうな細いベットが二つ。

簡単な机と椅子が一組。

細長い用具入れが一つ。


 よく言えばシンプル。悪く言えば何もない部屋。


 ちょっと遠かったけどまあ寝るだけしか使わないだろうし別にいっか。


 くーねたんちゃんも特に文句も無さそうに部屋を見渡していた。


 荷物を部屋の隅に置き、これからの事を考える。


 とりあえずはエイタ君の所に戻らないとね。

 あんまり周りの雰囲気よくなさそうだったし・・・

あっちも部屋に案内されるだろうから寝るまでは一緒にいた方がいいかな?


 そう思い遼太郎さんに伝えようと・・・


「案内ありがとうございました!道は覚えたので一度エイタ君の所に戻りたい・・・」


 私がそう言いかけた時だった。


「桐島殿ーー!!桐島どのぉぉ!!」


「なっ、なに?!」


 私たちが歩いてきた通路の反対側の方から先ほど合った東間さんがすごい勢いで走ってきた。


「はぁ、はぁ、よかった、まだここにいらして。」


 よほど急いで走ったのかかなり息切れしながらも私に話しかけてくる。


「えっと、どうかしたんですか?」


「それがですね、実は女性が一人怪我をしてしまったのですが・・・

今手当できる人が居なくてですね・・・」


 女性が怪我?それは大変だ!もしかして私に手伝って欲しいのかな?


「その女性はかなり人見知りの子でして・・・桐島殿とは年代が近いので、出来れば介護を手伝って欲しいのですよ。」


 やっぱりそうだ!手伝って欲しいんだ!


「そういうことならわかりました!私達に任せてください!

ねっ!くーねたんちゃん!」


 やる気になった私たちを見てホッとする東間さん。だけどすぐ申し訳なさそうな顔になる。


「その、気持ちはすごくうれしいのですが、先ほども言ったようにあの子は人見知りなのです。

いきなり知らない人が二人も来たらビックリしてしまいます。

なのでまずは桐島殿お一人で来ていただけると・・・」


「えっ・・・私一人で?」


 東間さんが忙しなく動いてる。きっと怪我した子が気になって気が気でないんだ。

悩んでいる時間はなさそう。


「わかりました。すぐに行きましょう。」


「おお!ありがとうございます!本当助かります!

ではこちらへ」


 すぐに来た道を走り出していった。

追いかけなきゃ見失ってしまいそうだ。


「くーねたんちゃん、ちょっといってくるね!」


「うん。ミカも気を付けて」


 くーねたんちゃんに軽く告げ、私は東間さんの後を追って走り出した。


 追う事数分。どんどん地下の方へ進んでいく東間さん。


「あの、こんな地下に怪我人が?その、。まるで牢屋みたいな・・」


 地下に潜ってからというもの一気に雰囲気が変わったのが分かった。

なんていうか、とてもどんよりとした感じだ。


「仕方ないんですよ。こんな世界ですからね。

なにか病気を持っていてそれが広がってしまったら私たちは直ぐに滅んでしまう。医療施設も満足にないここじゃ、隔離して出入りを制限させるのがやっとなんですよ。それにもし死んでしまっても・・・」


 東間さんの言っていることはよくわかる。

つまり病気で死んでしまった人がゾンビに成っても、牢屋の中に入れておけば簡単に無力化出来るってことだ。


 安田さんたちと同じ。


 悲しいけど。おかしくはない判断だと思う。

これが今の世界の普通なんだよね。




 さらに奥へと進んでいく。

そして一つの牢屋の前で東間さんは止まった。


 ここが怪我をした人がいる場所なのだろう。


 入口を解錠し、扉を開けると私に入るよう促してくる。


 私は少し躊躇いながらもゆっくりとその部屋へと入った。


 思わず固まってしまう。


 そこには人がいた。それを見て口を塞ぐ。


 声にならない悲鳴が出てしまう。


 ゴーーン  ゴーーン


 突然鳴り響く鐘

 その鐘が鳴ると同時に ガシャンッ と後ろで音が鳴った。


 急いで振り返ると扉は既に閉まっており、ガチャと鍵が閉まる音がする。


「ふっ、ふへへへ。ミ~カちゃ~~ん。やっと、や~~~~っと捕まえたよ~」


 東間が気味の悪い笑みを浮かべ、私を見ていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ミカがなんとかって人に連れられていっちゃった。

なんか怪我した人がいたみたい。大丈夫かな?


 それでこの人と二人きりになっちゃったわけだけど、どうにもさっきから変人でも見るかのような目で見てくるんだよね。

凄く距離とってくる。


 さっきエイタが変なこと言ったせいだよまったく!


 それにしてもこの辺りは絶望が濃い・・・

魔王に蹂躙された後の街みたい。なんとかしてあげたいな。


 うーん、やっぱり元気付けるとしたらあれだよね!


 そうと決まれば準備しなきゃ!


「ねえ!この辺で人いっぱい集まれる場所ってどこ?」


「は?集まれる場所?なんですか急に。知りませんよ。

それより私は用事があるのでここで失礼します。」


 なんか急いで逃げる様になんとかさんは部屋を出て行っちゃった。


 んもー!やっぱりエイタが変なこと言ったから避けられてるんだよ!


 しかしどうしたもんか。

ミカがどっか行っちゃったし待つべきかな?

広そうな場所の目処も立ってないし、


 うーーん と悩んだけどだんだんとウズウズして来ちゃった。


 まあいいや!知らないなら自分で探せばいいし。


 今までもそうしてきたんだもん!

 無かったらその時はその時で無理やり作ればいいでしょ!


 よし!早速探しに行こう!


「んりゃ?硬いな」


 この部屋の扉思ってたよりも硬いね!

さっきの人よく開けれたな~


「まったく建付けの悪い扉だ、ねっ!」


 ちょっと力を込めて扉を開けたら バキッ って音がして扉外れちゃった。


 ><~~~


 壊しちゃったよ~。どうしよ。エイタにバレたらまた怒られちゃう。


 あ!でもここにエイタは来ないから大丈夫だ!

ミカは優しいから黙っててくれるはず・・・


 あの人たちには・・・


 うう、扉のことはいったん考えるのをやめよう。


 通路に出て絶望が濃い方向、元来た道を戻っていく。


 ゴーーン ゴーーン


「ん?なんの音だろー?」


 遠くから聞こえた気がするけどかなり大きい音だね。

ピコーーン! ってことはそこに行けば同じくらい音をを届けられる仕掛けがあるかも!天才だ!


 さあ!最高のステージを作るぞー!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「くそったれな牢獄?いったいどういう・・・」


 急に俺に話しかけてきたやつれた男性がぼそりぼそりと喋っている。

次第にほかの人たちものそのそと近づいてきた。


「そのまんまの意味だぜ新入り~」


 集団の中でも比較的年齢の若そうな片目の人が言ってくる。


「ここは牢獄だ。外の鉄格子を見ただろ?」


 確かに外にはこの基地を覆うような鉄格子があったが、あれはゾンビが入ってこれないようにするためじゃないのか?


「へっ、わかんねえって顔してるな。まあ無理もねえ。

あれを見てみな」


 そう言って片目がない青年はとあるところを指さす。それは外だった。

ただし鉄格子の内側の外。


「だせええ!俺をここから出してくれええええ!!!」


 そこには鉄格子の隙間から手を伸ばし、必死に願っている人がいた。


「しっかり隠れて見ろよ?」


「?」


 片目の青年が俺を抑えつけながら外にいる人を凝視する。


 そこに、とある人がやってきた。


「随分と荒れてますね。せっかく今日新しい人が来たというのに。」


 現れたのは、先ほどくーねたちとどこかにいったはずの遼太郎だった。


 なぜあの人がここに?疑問に思う俺をよそに、遼太郎は嘆く人に近づくと一瞬、”ブレた”


「うぐっ」


 気が付いた時には嘆いていた人は腹を抑えて蹲っていた。


 いや、違うな。


 一瞬だが遼太郎があの人を殴ったのが見えた。


「やっぱおまえ、目がいいな。」


「え?」


「今の攻撃を見えてたんだろ?普段あの速度の攻撃を見慣れてなきゃ目が追いつけねえからな。」


 この人は一体何なんだ?なぜ俺にこれを・・・


「そんなに外に出たいんですか?なら出してあげましょう。ほら」


 遼太郎はその人を担ぐと鉄格子の外側へ持っていこうとする。


 その鉄格子の外には・・・


「ひっ、ひぃぃ。ご、ごめんなさいっ!うぞでず。もうわがままいいまぜんがら!ごべんだざい。ごめんだざい。」


 鉄格子の外側に大量に集まっていたゾンビを見ると涙を流し許しを乞うていた。


「はぁ、もうわがままは言いませんか?では明日からもしっかり働いてくださいね?でないと・・・」


「わがっだっ、わがっだ。」


 ドスッっと地面に人を落とした遼太郎はすました顔でまたどこかへと歩いて行った。


 嘘だろ・・・いったい何が起こったんだ。


「あいつはつい一か月ほど前にここに来た新人だよ。

どこから来たかは知らねえが、遂に心が折れちまったんだろうな。」


「心が折れる・・・?」


「ああ、ここは地獄だ。一度中に入ったら外には出られねえ。たとえ出れたとしてもゾンビ共が常に周りを固めている。

反抗も許されない。歯向かってもああやって分らせられるだけだ。

ここは・・・牢獄なんだよ。」


 俺はここに来る道中、正気ではなさそうな顔で道にいた人たちのことを思い出していた。


 周りを見ると、集まっている人の中にそれらしき人はいない。


 何かが違う。あの集団の人たちと、他の人たちと。


「あなたは、なぜこれを俺に?」


「なに、早めにここがくそったれな場所だって教えてやったほうが、だんだん知っていくより幾分かマシだろ?」


 遼太郎が遠くに行った事を確認した片目の青年は集団に歩いていく。

その道中、


「なあ、あんたと一緒にいた二人、あれはあんたの大切な人だったか?」


「え?そりゃ、、、大切な人達だよ?」


 俺の返答が予想通りだったからか、「そうだよなぁ」とため息をつきながら戻っていく青年。


 なんだ?なんで急にそんなことを聞いて・・・


「なんだ、もう知っちゃったんですか?」


「!?」


 後ろから急に声を掛けられた。振り向くとさっき歩いて行ったはずの遼太郎がそこにいた。


「遼太郎・・・さん。どうして、あんなことを・・・」


「あーあー、時間がたつにつれてどんどん知っていった方が面白いのに、まあいいでしょう。どのみち長くは飼うつもりありませんでしたし。」


「か、飼う?だと。一体何を」


「こういう事ですよ」


 目の前の遼太郎が一瞬で距離を詰めてくる。

なんとか目では追えたが、ガードは間に合わなかった。


「うぐっ」


 腹に強烈な一撃が入り、後方へと飛ばされ、壁に激突する。


「やはりですか、なんですか、その眼。その炎。

とても人間とは思えませんね。」


 激しくせき込んでいる俺の元へわざと足音を鳴らすかのように近づいてくる。


「そうだ、一ついいことを教えてあげましょうか?

あなたと一緒にいたお二人ですが、残念ながら捕らえさせていただきました。」


「・・・・・・」


「ふふふふ、あはははは、とても簡単でしたよ。ちょっと困った顔してお願いすればホイホイと付いてくるんですもの。

簡単すぎて私達が騙されてるんじゃないかと疑ったくらいです。」


 俺の前でしゃがみ込んだ遼太郎はその表情を歪に変質させ言葉を続ける。


「東間さんも喜んでますよ?ずーーと求めてた人が自分から来たんだですから!今夜はいつも以上に激しくなるでしょうね?!」


「くっ!」


「おっとあぶない、あぶない」


 俺の怒りに任せた大振りは簡単に避けられてしまう。

カウンターで蹴りを入れられまた倒れる。


「怒りましたか?そうですよね、さっきまで一緒にいましたもんね。

でももう二度と会えませんよ?あなたはここから出れません。

あの女どもも既にそれぞれで捕まってます。お前らに希望はない。」


 そういうと思い切り踏みつけられた。ズドンと思い一撃で叩きのめされる。衝撃でクレーターが発生する。


「ガハッ・・・」


 普段の比にならないくらい炎が熱く、溢れている。


「やっぱりあなたは危険です。ここまでやって死なないとは。東間さんの願いがなきゃなるべく入れたくはなかった。

魔獣を素手で倒すような人間など。

不安分子はいりません。まずはその気味の悪い眼を抜き取ってやりましょう。そうすれば幾分かマシに・・・ん?」


 追撃を入れようとしていた遼太郎は耳に手を当て動きを止めた。


 反撃のチャンスだが、今は体が動きそうにない。

それに遼太郎もしっかりと俺を警戒している。不意打ちもできないだろう。


「なに・・・そんなはずは。ありえない。ああ、すぐ行く。」


 一度俺を見た遼太郎はしかし俺が動けないと知るとすぐに奥へと続く扉へと駆けていった。


「・・・・・・・・」




 俺は無言で考えていた。

なぜ見逃されたのか。多分俺が動けないと思ったからだろう。

あいつはどこに行ったんだろう。


 くーねか、ミカか、何かがあったんだ。


 あいつは言っていた。東間が「ずっと求めていた人」

おそらくミカのことなのだろう。


 ミカは今捕まっている。


 なのに俺は、ここに居る。こんなところで蹲っている。


 ギリッと歯を食いしばる。


「おい新入り、てめえいつまで突っ伏してるんだ?早く飯持ってこい。」


 誰かが俺に話しかける。


「お前は、なんだ?」


 そこそこ体のデカい大男だ。

話しかけられたことで視界が広がる。、集団の方がざわざわとしているのが分かった。


「てめえ、なんだぁ?その口の聞き方は?」


 ジリジリと距離を詰めながら威圧してくる。


 ちょっと暑苦しいなこの人。


「はっ、状況が分かってねえ見てえだな。女も奪われ捨てられたてめえは今から俺様の手下になるんだよ。いいからさっさと言うこと聞けや!」


 大男が大振りの拳を振るってくる。


 は?女を奪われた?


 どすっと拳を手のひらで受け止め掴む。


「?! なんだ!てめえ!」


 核力も使えない人の攻撃なんて今の俺でも簡単に受け止めれる。

さっきの遼太郎のほうがずっと強い。


「女を奪われる?誰が、俺が?あいつらはそんなんじゃねえ。仲間だ。」


「あづいっ!あっづい!わかった、わかったからはなせっ。」



 大男を開放する。

男は掴まれた拳を見つめ唖然としていた。


 集団もこちらへ近づいてくる。大男を囲むように。


「エイタ、だったか?あんた大丈夫なのか?

あいつにあんな殴られてよ・・・

それに今のは・・・俺にはその男が急に熱がったように見えたんだが。」


 まあちょっと燃やしたからね。


 俺が手のひらに炎を生み出す。


 それを見た者がどよめきだす。


「あばばば、ああああああ・・・」


 先ほどまで俺を睨んでいた大男も炎を見て凄く怯えている。


「や、やっぱり、あなたは、いえ、あなたも神に選ばれた存在・・・」


「神?いや俺は別に神に選ばれてなんてねえよ」


「だが、その力は!そのありえないことを可能にする魔法のような力は!」


「あ?これはただ核力だ」


「え、かく・・・りょく?」


 片目の青年も、話を聞いていた周りの人も、みな一様にぽかーんとしていた。

その反応で気づいた。


 俺が核力なんてもんを知ったのはくーねのおかげだ。

これは異世界の力だから。


 異世界の事なんて知る由もない人たちからすれば確かに神の力のように感じてしまうかもしれないな。


「それより訊きたい。あいつはなんなんだ。ここでは何が起こっている。」


 俺の質問に集団の雰囲気が重くなる。

みな詳しいことを知らないのか。それとも話したくはないのか。


「俺が話そう。」


 集団の後ろの方から一人の男性が出てくる。


「矢場さん?!あんた大丈夫なのか?」


 ふらふらとした足取りで矢場と言われた男性が周りから心配されるが「平気さ」といい俺の前まで来た。


 この人あれだ。ここ入ってすぐ通路で横になっていた人だ。


 その顔は周りとは違いひどく絶望に満ちている。


 その人は俺の前で座り込むと、ぽつりぽつりと話し始めた。


「俺がここに来たのは半年ほど前さ、それまでいたところがゾンビに襲われてな、なんとかここに流れてきたんだ。

娘と二人でな。」


「ここはそんなよそ者の俺たちを優しく受け入れてくれたよ。

東間ってやつが出て来て、ゆっくりしていけって。」


「あんときは心底安心したさ、いろんなところを断れてたからな。」


「そしていろいろ話し終えてここに戻されたとき、あいつが言ったんだ。先に女性を部屋に案内するってな」


「だが、いくら待てど娘が帰ってくることはなかった。」


 あっ、俺と同じ流れだ。


 話していて熱くなったのかどんどん語気を強めていく矢場。


「あいつに聞いたさ!娘はどこだって!でも答えは返ってこなかった!

埒が明かないから無理やり行こうとしたら不思議な力で阻止された!」


 大きい声を出したからか、肩で息をしながら呼吸を整え落ち着きながら話を続ける。


「最後に娘を見たのはいつだと思う?三か月後だ・・・

檻の外に見えたんだ。娘がゾンビになって彷徨っている姿を。

・・・・・・・・

・・・・・・・・

体中ボロボロだった。痛々しかった。見ていられなかった。」


 話しながら遂には泣き崩れてしまう。

周りの人が支え、なだめる。


 大男もそれ以外の人も一部の人以外は初めて聞いたのか唖然としていた。


 もちろん俺も。


 想像を絶する話だった。そんなやつが次はミカを狙っている。


 無意識に握りしめていた拳から血が滴っていることに気づく。


「うっぐ、なんでかな、あんたには話しておきたかった。

娘はあんたたちと同じくらいの年齢だったから。

後悔はしてほしくなかった。気づいた時にはもう遅いなんてことにはなってほしくなかった。」


 辛いだろうにすべてを話してくれた男性の肩に手を置く。


「ありがとう。もうわかった。」


「あ、あんた、その目は・・・」


 ああ、全身が熱い。燃えるようだ。


 いや、燃えてるんだ。体が、魂が。


「あんたなら、どうにかできるのか?この世界を」


 どこか希望を込めた目で俺に問う。


「俺か?俺一人じゃなんも出来ねえよ」


 集団が俺の言葉で俯く。


「でも俺は一人じゃない。」


 その言葉に一人、また一人と疑問に満ちた顔を向けてくる。


 ふっと笑いながら立ち上がり炎を掲げる。


「なあ、あんたらはこのままでいいのか?このまま牢獄に居続けるのか?」


 俺でも感じた絶望を、あの少女が気づかないわけがない。


 歩いているとき、ずっと悩んでいたのを知っている。

 きっと何とかしたいと思っていたはず。


 世界を救うため、たった一人で絶望に立ち向かった少女が、こんなところで大人しく捕まるはずがない。


「お前たちはもう絶望に染まったか?」


「俺たちは・・・」



 ジジーーー、『あー、あー、これ聞こえてるのかな?あーうーあーうー。』


 どこか気の抜けた声が響き渡る。


「ほらな」


『まあいっか!多分聞こえてるよね!じゃあみんなーー!元気出していっくよーー!!!』


 デデデデン!  デデデデンッ!! デレデレー♪


 陽気で、それでいてキラキラな曲が流れ始める。


 何気にくーねの歌をちゃんと聞くのは初めてかもしれない。


 ~~~♪


 声のまんま、とても可愛らしい歌声が響く。


 心が癒され、回復していくのを感じ、思わず笑みが零れる。


 あいつもちゃんとアイドルしてるんだな。


 歌を聞いた人たちが天を仰ぎ、何とも言えない表情に。


 っとその時、不思議なものが見えた気がした。


 歌を聞いていた一人から、金色の粒子のようなものが空へと流れて行った。

それだけじゃない。それ以外の人からも溢れる様に出てくる。


 そうか、これがくーねの言っていた”希望の力”なんだな。


 確かにこれは核力とは違う。全くの別と言ってもいいかもしれない。


 核力を多少知った今ならわかる。くーねと初めて出会ったときの攻撃はこれが元だったんだろう。


 くーねの曲が一曲終わった。


「まったく、元気貰っちまったな。」


 奥へと続く扉に近づく。当然扉は開かない。


 拳に炎を集めていく。


「お、おいあんた。一体何を・・・」


 曲を聞き終え余韻に浸っていたうちの一人が我に返り俺を見る。


「なに、ただの予定変更だよ。」


「予定変更?」


「どっちかと言うと予定通りか?もともとここにはラジオ取りに来ただけだしな。

どこの誰だか知らねえ奴に足止めなんて食らってらんねぇんだ、っよ!」


 ドゴンッと鈍い音が響く。重厚な扉を思い切り殴りつけてやった。


 ッチ、こんなことならちゃんとバールを持っておくんだったな。


 ドゴン、ドゴンと何度も扉を殴りつける。


「む、むりだ!その扉は東間のやつが厳重に作ったんだ!簡単には壊せねえ!」


 何度も殴られた扉は表面をボコボコに凹ませながらも、依然として奥への通路を隔てている。


「はっ、無理?厳重?これが?」


 しかし俺は殴るのをやめない。こんな扉ごとき、


「こんな扉っ!あの魔獣なら一撃でぶっ壊すっ!」


 殴る。拳から血が出てくるが構わずに殴り続ける。


「くーねならっ!跡形もなく消し飛ばすっ!」


 殴るたび、炎が熱く、燃え上がる。


「だから俺もっ!全部、一切合切吹き飛ばしてやるよっ!」


 炎を収束させていく。


 イメージするのはくーねの力。学校で見た、何もかもを飲み込む極大の攻撃。


 以前、くーねが爆発しちゃうとか言ってたよな。

いいぜ、お前に近づけるのなら、俺は爆発でもなんでもしてやる。


 極限まで集中力を高めていく。


 わかる。炎が臨界まで集まった。少しでも気を抜いたらこのまま破裂してしまいそうだ。


(そうか、分かったよ桐島さん。どうして戦いたいのかを。

 俺はただ憧れたんだ。あの時、くーねのかっこよさに。)


 カチッと心のなかでパズルのピースがはまった気がした。


 炎の玉を拳で包み、扉に渾身の一撃を叩き込む。

 

「うおおおおぉぉぉ!!!ブッ飛ばせっ『エクスプローードッ!!』」


 爆ぜる。瞬間、世界が真っ白に染まる。


 ズドオオオオォォォン


 すぐ後にとてつもない衝撃が広がった。


 余波が周りの物も人も吹き飛ばし、建物がぐらぐらと揺れる。


 それが収まったころには、


「う、嘘だろ・・・」


 誰かが呟いた。誰も彼もが目の前の光景に唖然としている。


「はっ、ホントに叫んだほうがいいんだな。」


 扉どころか、周りの壁すら巻き込んでぐちゃぐちゃに破壊され開いた通路。


「じゃ、俺はいくから」


 後ろの困惑を背に俺は通路の奥へと進んでいく。


「待ってろよ、直ぐにぶっ飛ばしてやる。」


 こんな牢獄、何もかも破壊してやる。


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