16 星空の語らい
お久しぶりです。
ここは・・・どこだ?
深い闇の中、地面も天井も壁も柱もなにもない空間に俺はいた。
まったく身に覚えがない所、いや、あったか
あれはおそらく学校で気絶していた時、夢の中でいた場所がこんな感じの場所だった気がする。
覚えてないけど。
っていうことはここは夢の中なのだろうか?それにしては意識がはっきりとしているのだが。
とりあえず体を動かしてみる。うん動く。
自分が今立っているのかどうかもわからないが、体が動くならできることもあるだろう。
少し歩いてみた。足は動いているのに進んでいる気が全くしない。
平泳ぎのように宙を掻いてみてもやはり進んだ気はしなかった。
そもそも何もなさすぎるのだ。
視界に広がるのは果てまで続く闇。障害物もなにもない、無の空間。
進んだとしても見えてるものが動かなきゃ進んでいるかどうかは分からないだろう。
動くのはダメか、変化がない。
仕方ないので動くのをやめて考えることにした。
両腕を体の前で組み、頭を傾げ、目を閉じる。
ここはどこなのか。夢の中にしては何もなさすぎる気がするし、そういえば今まで何をしてたんだっけ?
えーっと
気が付いたら世界が終わってて、ゾンビに追い掛け回され、異世界のアイドルと出会い、魔獣と戦った。
あれ、こっちが夢じゃね?
起きたら全部夢で、もうすぐ昼休みが終わるころだったりして、って、そんなわけないか。
今いるここが現実だとしたら世界が滅ぶどころの話ではなくなってしまう。消滅しちゃってる。
あれは現実だ。今でも脳にこびりついて離れない。自分が一番わかってる。
はぁ、ほんと、どうなっちまったんだろ。
夢なら早く醒めてほしい。こんだけ意識がはっきりしてたら普通醒めるだろ。こんな何もない空間に居続けたら気が狂いそうだ。
頭をガリガリと掻きながら悶える。
突如浮遊感に襲われる。グワングワンと体が揺れ始めた。
下に落下しているのか、それとも上に登っているのか。右なのか左なのか、前に進んでいるのか、後ろに下がっているのか、もしかしたら本当は移動なんてしてないかもしれない。不思議な感覚だ。宇宙空間で移動したらこんな感じなのかな、と、どこか他人事みたいに思ってしまう。
どこかに流されていく。流れに身を任せて漂っていると遠くに何かが見えてきた。
少しずつそれに近づいていく。遠くにあった小さい何かがだんだんと大きくなっていく。
それは壁だった。
左も右も、上も下も、果てまで続くかのような壁、そんな壁がそこにはあった。
なんだこりゃ!?
こんな巨大な壁なんて見たことない。
例えるなら世界を隔てる壁。もしくは世界の果て。これ以上先は存在しない。そのくらい壮大ななにか。
壁に触れてみる。がっちりとした感触が返ってきた。とても頑丈そうだ。
叩いてみるも。全く手ごたえがない。壁というより山でも相手しているようだ。ビクともしない。
少し探索してみた。時間ならいくらでもあるからな。
壁に手を当てながら移動していく。これなら移動したという実感がある。
はて、何時間くらい移動していただろうか。そろそろ疲れてきたな。
肉体的な疲れは全くないのだが、永遠に代り映えのない同じ景色を見ているせいか精神的に参ってきた。
だからと言って止まるわけにもいかないのだが、ほかにやることないし・・・
変化が起こったのはそれから五時間後(体感)くらいだった。
ん?これは扉か?
壁につけられた扉を発見した。見た目は何の変哲もない扉って感じだ。
もっと厳密にいうと自室の部屋のドアに似ている気がする。
ドアノブに手を掛ける。これと言って何かが起こるわけでもない。
ガチャガチャとドアノブを回すが、扉は開かなかった。
あか・・・ない・・・鍵でもかかってんのか?
しかし鍵穴のようなものは見当たらないし、モデルが自分の部屋のドアならばそもそも鍵はついてない。
ドンドンと扉を叩くが、こちらも壁同様ビクともしなかった。
叩いているだけじゃ埒が明かない。蹴りやタックルなど思いつくことは大体やった。しかし扉がどうにかなることはなかたった。
ついに見つけた変化も結局は壁と変わらない。そう知るとどっと疲れが押し寄せてきて扉を背に座り込んだ。
はぁ、何やってんだ俺は・・・
そのとき、手元がブルッと来た。
見てみるとそこには今まで持ってないはずのバールがあった。
・・・!?
なぜ急にバールが現れたのか、全く理解ができなかった。
やっぱりここは夢なのか?てか夢じゃないなら怖すぎるんだが。
たしかこのバールはくーねが言うには心核だよな?ということは急に現れるのがこのバールの能力なのか?それならちょっとショックなんだけど。
急に現れる以外はただのバールとか邪魔なだけじゃん!
そう思うとバールがブルブルッと震えた。
うわっ!勝手に震えた。うそうそ、邪魔だなんて全く思ってないよ!
チラッとバールを見てみるが、特に反応はなかった。見た目はなんの変哲もないただのバールにしか見えない。震えたのは気のせいだったのか?
とにかくこのバールには何か力がある。はずだ
エイタは立ち上がりまた扉に向かった。
今度はバールを構えている。
せっかくバールが来てくれたんだ。なら使ってやんないとな。
それはバール本来の使い方。
ドアをこじ開けるのは本来の使い方だよな??まあいいや。
思い切りバールを振りかぶり、扉と壁の境界線へと突き立てた。
バキンッと音がしてバールが突き刺さる。
・・・?!、刺さった?!
刺した本人が一番驚いている。先ほどまでいくら叩こうがビクともしなかったのだ、バールでもどうせ・・・と思っていたが故である。
ガチガチに固められたドアをこじ開けていく。何度も、何度もバールを突き立ててはテコの原理を利用して押し広げていく。
バキッ と音がした。ついに扉の一部が隙間でも作ったのか、そう思った瞬間だった。
ゴウッ と音を立てながら扉に開けた隙間から”なにか”が溢れ出てきた。
あっつッ!!
”それ”は炎だった。しかしただの炎ではない。どんな炎なのかはわからないが”白い炎”ってことだけは分かる。
早急に扉から離れるが、白い炎が纏わりついて離れない。払い落とそうとしても全く効果がなかった。このままでは燃えてしまう。
扉からは炎が溢れ続けている。その炎が少しずつ領域を侵食していく。
やがて全身が白い炎に包まれて・・・・・・
「ハッ!」
と目が覚めた。呼吸が荒く、心臓がバクバクと脈打っている。
体が熱い。確認しなくとも全身から汗が噴き出ているのが分かる。最悪な目覚めだった。
(なんだ・・・いまのは・・・夢・・・だったのか?)
荒い呼吸をなんとか落ち着けながら周りを観察する。
そこはとあるショッピングモールの一角。家具店にある展示用ベットの上だった。
(そうか・・・俺あの後気絶したのか・・・)
周りを観察するがくーね達はいなかった。が、人がいた痕跡があったのでたまたまいないだけだろう。
ひとまずこの汗の始末をしたい。
そう思い誰もいないことに少し不安を感じながらもベットを降りようとするが、体がぐらつきうまく動けなかった。
(あれ・・・?)
そのままベットに倒れ込んでしまう。
具合が悪いのか、手を頭に持っていき、
「っっあっつ!!」
はじかれるように手を頭から引き離す。
熱した鉄板でも触ったかのように。
手を確認するが、特に異常は見当たらなかった。
(なんだ!?頭がめちゃめちゃ熱かったぞ?)
もしや風邪でもひいたか?と思ってしまう。
こんどはもう少し慎重に手を頭に運んだ。
触れる触れないか、ギリギリのところまで手を近づけたが、熱は感じなかった。
(気のせいだったか?)
ゆっくりと触れる。しかし予想に反して頭は熱くなかった。
(あれ?熱くない。ってことはやっぱり気のせいだったか)
起き上がってみるとこれまた特に異常も感じずに起き上がれた。
体がぐらつくこともなく、なんならスッキリした気分だ。
ベットから降り、軽く伸びをする。腕を回したりして具合を確かめるが特に異常はなさそうだった。
そのあと異常にかいた汗を拭くために近くにあった布を適当にとる。
(これはベットシーツだろうか?まあ汗を拭ければなんでもいいや)
汗でべっとりとした服を脱ぎ捨てていく。学生服もこの二日間でだいぶボロボロになってしまった。
パンツ一丁になったエイタはベットシーツで汗を拭き始め、、、
(やっぱりどこか移動しよう・・・)
流石にこんな開けた空間で裸になるのは抵抗があったし、いつくーねたちが戻ってくるのかも分からなかったのでどこか身を隠せそうな場所を探す。
辺りを見渡すと一角だけ隔離されているエリアを見つけた。
(あそこでいいか)
仕切られていたカーテンを潜る。外からの光を遮断する仕切りのせいで暗くてよく見えないが、中はなんとも生活感が溢れている感じだった。床には布団が重ねられていて、それが散らばって散乱としている。
それになんだか凄く良い匂いがする。。。
この時点ですぐに気づくべきだった。
ここが通常ではありえない空間だということに。
「んんっ」
何かが聞こえた。
気になって音が鳴った方向へと進む。すると音の正体はすぐ見つかった。
「なっ」
そこにいたのは少女だった。
床に重ねられた白い布団に身をゆだねてスースーと穏やかな寝息を立てている。いつもしている格好とは違い無防備な寝間着姿はとても煽情的で脳を刺激してくる。
普段は結ばれている長い金髪はこの時だけは自由に遊ばせていて、その光景はまるで真っ白いキャンパスに描かれた満開に咲く花のよう・・・
(って、まずいまずい!ここくーねが寝ている所だったのか!)
くーねが起きてしまう前に脱出しようと、そーっと後ずさる。
しかし不運にも足に何かが当たってしまい、カンッ と音がなる。
思わず体が硬直する。
「?!」
「んん?だれかいるのぉ?」
音に反応してくーねが目を覚ましてしまう。
眠そうに眼を擦り「みか~?」と言いながらむくっと起き上がる。
暗い中でも輝いているかのようなその琥珀色の瞳がエイタを捉えて止まる。
パンツ一丁のエイタを。
完全に目が合う。寝ぼけていた目が徐々に見開いていく。そして・・・
「きゃあああああああああああっっ!!!」
一体それはどっちの絶叫だったか。若干低かった気がするが。
後ろからドタドタと何かが走ってくる音が聞こえる。
そのまま シャッ とカーテンが強引に開かれた。
「くーねたんちゃん!?今の声は!?」
悲鳴を聞きつけたミカがエイタの後ろに現れた!
ギギギ と油を差し忘れた機械のように振り返る。
そこにいたミカともバッチリ目があってしまう。
はたから見たら、汗だらだらパンツ一丁の男が寝ている少女に迫っている光景にみえなくもない。てかそうにしか見えない。
「っえ、うそ、、、エイタくん、、、くーねたんちゃんを、、、」
「ちちちっ、違うんだ!桐島さん、これには深い訳が・・・」
なんとか誤解を解こうと弁明しようとするがくーねがそれを許してはくれなかった。
「えーとね、エイタ。私はアイドルだから、そういうのはちょっと・・・まずは服を着て欲しいな?」
若干頬を赤らめながらそういうくーね。
なんだか告ってもないのに振られた感じになってしまう。
「あ~、エイタ君、どんまい?」
そんな恰好してるから振られるんだよ?みたいな感じで全身を見回しながらミカが言う。
「だ~か~ら~!違うんだあぁあぁああぁ~!」
羞恥か、それとも悲しみか、全身をプルプルさせていたエイタが隔離された一角を抜けて走り出していく。
「あっ、エイタ君待って」
ミカが手に持っていたエイタの為にに用意された服にも気づかずに。
その後なんとか誤解を解いた(服を着て)エイタとくーね達は家具店に置いてあるテーブルに揃っていた。
テーブルの上には缶詰や保存水などが置かれていた。おそらくエイタが眠っている間にミカ達が探してきたのだろう。
既に食べられた後のものが何個かあるし。
「それで、あの後ってどうなったんだ?」
まずは現状確認をしなくてはならない。そう思い質問する。
「エイタ君が気絶しちゃった後大変だったんだよ~」
「止めを刺したのは桐島さんだけどね」
「ん”っん”ん”。それでね、とりあえず、エイタ君をどこかに寝かせてあげようってことになってショッピングモールを探索したんだ」
心当たりがあるのか咳払いをしてごまかした後に話を続けるミカ
「なんとかベットを見つけてエイタ君を寝かせてあげたのは良かったんだけどね、このままじゃまたいつゾンビが襲ってくるかわからないでしょ?だから安全な拠点を作ることになって、食料の確保とかいろいろ必要なものも多いでしょ?それならいっそのことこのショッピングモール全体を固めちゃおう!って話になって・・・」
「まさか・・・この一角だけじゃなくてショッピングモール全体を?」
コクッ と頷くミカ。
「それは凄いな。でもよくできたな?数時間でできるようなものじゃなかっただろ?」
そういうとミカはくーねと目を合わせ微妙な顔をする。
「?」
なぜミカがそんな顔をするのか理由が分からず不思議に思うエイタ。
「あのね、エイタ君。もう五日経ってるの」
「へ?」
ミカのいった意味が分からず変な声をだし聞き返す。
「だからね、エイタ君が気絶してから目覚めるまでね、もう五日は経ってるんだよ」
ミカが言った言葉の意味をしっかりとかみしめて一拍。
「えええええええええぇぇええぇぇええぇえ?!」
バンッ とテーブルを叩きそのばで立ち上がってしまう。
本日二度目の絶叫だ。のどが痛い。
「いいいい、五日も?!寝てたのか?!ほんとに?!」
「落ち着いてエイタ君!寝てたんだよ!それはもうぐっすりと!」
暫くグルグルと頭が回っていく。しかしいつまでも混乱しているわけにもいかないので一度深呼吸をしてなんとか心を落ち着かせ、椅子に座りなおす。
「わるい、続けてくれ。」
エイタの言動の一部始終を見ていたミカは「まぁ気持ちは分かるよ?」と言いつつ話を続けた。
「っといってももうほとんど話すこともないんだよね。」
「そうなのか?」
「うん、エイタ君が起きるまでは食料探したりとか拠点の強化くらいで特にすることもなかったからさ」
なんでもショッピングモールも崩壊しているところが多く、そもそも探索できるところも少なかったらしい。ゾンビに関してもそのほとんどがミカが引き起こした爆発に巻き込まれたのでもう残っていないんだとか。
「そうか、まあ現状は大体わかった。あとそのショッピングモールの半分吹き飛ばしたのは桐島さんだからね。」
「くくく、くーねたんちゃん!私そろそろあの話が聞きたいなっ!」
やはり罪悪感が残っているのか一気に話題を変えくーねに話を振るミカ。
エイタはそんなミカにジト目を向けながらも、まあいいか。と思いくーねの方に向いた。
(くーねに聞かなきゃいけないこともいっぱいあるしな・・・)
いままで黙って会話を聞いていたくーねは、ミカとエイタがこっちを向いたことに気づくと口を開いた。
「ミカの聞きたい話って魔獣についてだよね?エイタも同じ?」
「ああ、あの時はそれどころじゃなかったから考えてなかったけど、今思うとあれはいろいろとおかしいからな。」
「私もずっと気になってる、教えて?くーねたんちゃん」
ミカが目をキラキラさせながらくーねに近づいていく。
「てか桐島さん、くーねからなにも聞いていなかったのか?」
「うん、そういった話はエイタ君が起きた後でってことにしてたから」
「そうか、なんか悪いな、起きるのが遅くて。」
そういいつつ今度こそくーねに向かう二人。初めから話すつもりだったのか特に動揺することもないくーねはスッと立ち上がると「付いてきて」と言いどこかに歩き始めた。
一度目を合わせたエイタとミカも立ち会がりくーねの後を追う。
くーねが向かった場所、それは魔獣に止めを刺した場所だった。
既に魔獣が発していたような嫌なオーラは払拭されており、魔獣がいたところには大きなクレーターを残すだけとなっている。
「魔獣がいない。もう片付けたのか?」
「ううん、私は何も・・・くーねたんちゃん?」
既に魔獣がいないことに疑問に思う二人がくーねの説明を待つ。
「私は魔獣をどうもしてないよ」
そういうとくーねはクレーターの中心部分を指さした。
指さされた先を視線で追う。すると先ほどまでは暗くてよくわからなかったが、そこには確かに何かがあった。
エイタが少し近づいてみる。くーねが特に何か言う事もないのでそのまま近づいていく。
拳より少し大きいくらいのそれに触れてみた。
ペタッと触れてみると硬く、ひんやりした触感が返ってくる。そのまま持ち上げた。かなりずっしりとしている。
「これは・・・石?」
同じく近づいてきたミカが隣から覗き込む。
「うーん、なんか中で動いてない?」
二人してまじまじと石っぽいものを観察する。すると暗くてよく見えてないことに気づいたくーねがポケットからこれまたサイコロのようなものを取り出し、エイタ達の上へと放り投げる。
サイコロのようなものはそのまま空間に固定でもされるかのように止まり一の目を下にする。
すると ポンッ と音が鳴りエイタ達を眩しく照らした。スポットライトだ。
急に明るくなったことで一瞬目をつむるが、すぐに明るさにも慣れて視界が広がっていく。
そのまま持っていた石を確認すると
「・・・!?」
それはエイタの言う通り確かに石だった。
そしてミカの言う通り中が動いていた。
黒色に染まったそれは透明度が高く、そしてその中身がドロドロと動いていた。黒い宝石の中にもっと黒い水を入れたような、といえばわかりやすいか。
「くーね、これは・・・」
「それはね、魔石だよ。魔獣の成れの果て。エイタ達は初めて見た?」
「ああ、初めて見た。」
魔石と言われてしっくりときた。これを持っているとあの魔獣のオーラのようなものと似たような物を感じる。
「そっか」と言いながらコツコツと足音を立て近づいてきたくーねがエイタの持つ石、魔石を指で突っつき言う。
「やっぱり、こっちの世界には魔獣は存在しないんだね。うん、私もやっとわかってきたよ。」
「くーね、魔獣ってなんなんだ?」
「魔獣はね、私のいた世界ではいっぱいいるんだよ。もとはただの動物や物なんだけど。簡単に言えば魔王の力に憧れた存在。その成れの果てが魔獣なの・・・」
「?!ま、魔王の力に憧れた?・・・」
くーねの話を聞いた後に自らが持つ魔石に視線を戻す。
魔石の中でドロドロと渦巻いているもの、魔王に憧れた力・・・
どこか慈愛に満ちた表情で魔石を見つめていたくーねは「貸して」と言いエイタから魔石を預かるとそれを両手のひらに包み込み目を閉じる。
するとくーねの手の魔石を中心に白い光が広がっていく。
「きれい・・・」
そんな神秘的な光景にミカが思わず呟く。
一分間ほどじっくりと時間を掛け光は収まった。
くーねがエイタ達の前に手を持ってきてゆっくりと開いていく。
「わぁ!すごい!」
「白い、魔石?」
くーねの手の中にあったのは先ほどまで暗く淀んだ魔石とは打って変わって白く透き通った石だった。中で何かが動いているのは変わらないが、先ほどのドロドロした感じはなく、どちらかというとさらさらとしたなにかだった。
「うん、これも魔石だよ。さっきの魔石を浄化してあげたの。」
「浄化、なるほど。確かにさっきまでの嫌な感じがなくなっている。」
「えへへ、そうでしょ?いつまでも嫌なオーラを纏っててもかわいそうだもんね」
くーねから浄化された魔石を受け取る。先ほどよりもずっと軽くなったそれを顔の目の前まで持ってきて観察する。
透き通った石の中身は白い何かが揺らめいていた。
あれ、こんな感じのを最近どこかで見た気がするな。なんだろう。
いろんなことが起きすぎて全然思い出せないや。
「くーねたんちゃん、この石どうするの?綺麗だしインテリアとして飾る?」
「この魔石の使い道はいろいろあるよ。もちろんミカの言う通り飾る人もいなくはないけど、けど一番はやっぱり核力として使う事かな」
「かくりょく?なんだそれ。なんか授業でやって気がするけど」
「原子がくっつく時の力とかだっけ?でもくーねたんちゃんが言ってるのとは違うかも?」
「げんし?うん、多分ミカ達がいってるのとは違うと思うよ。んーとねうーん、」
そういうとくーねは魔石に手を重ねた。すると今度は魔石の中の白い何かがくーねの手に吸収されていった。
半分くらい吸収したところでくーねは手を放す。
「前に話したでしょ?希望の力を力に変換するって。核力ってのはそれに近いものかな?まあ私も詳しくは分からないんだけど。
ちなみに心核もこの核力を元に動いてるのがほとんどだよ」
くーねの全身が淡く光纏っていく。魔獣を倒すときに見た時よりもさらに力強く輝いている。
おそらくその核力を吸収したことによって力が戻ったのだろう。
くーねがいろいろ説明してくれるがなんとなくわかるようでわからないような話だった。
むむむ~と頭を悩ませているとミカが何かをひらめいたみたいに「あっ!」と声を出す。
「わかったよエイタ君!魔力だよこれ!ゲームとかでよく見るやつ!」
「ああ!そうか!」
ミカに言われて納得する。確かに馴染みがないから理解しずらかったが、これをゲームなどによく出てくる魔力としてとらえるとスッと頭に入ってきた。
「なるほどな~つまりくーねはいままで魔力切れの状態だったから力が使えなかったってことか」
「魔力??こっちではそう呼ぶのかな?まあいいや!わかってくれてよかったよ!」
光輝いたまま嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねる。そのままクレーターを脱出したくーねはサイコロ型の心核を掴んで仕舞ってしまう。
もう話は終わったという事だろう。
エイタ達もクレーターから抜け出し、持ってる魔石をくーねに渡そうとするが、
「その魔石はエイタ達が持っててあげて!」
というのでとりあえずはエイタが預かることになり、この場は終わった。
その後家具店に帰ってきたエイタ達はテーブルで食事を取っていた。
「うっ、うめぇっ!!」
実に六日ぶりの食事を取るエイタ。今までなんだかんだそれどころじゃなかったので、ここぞとばかりに食事にがっついている。空腹の方も限界だったのである。
「今はまだ缶詰がそこそこあるからいいけど、それもいつまで持つかはわかんないよね。」
「問題は山積みだよな。食料以外のことでも。それで考えたんだけどさ、ここで準備を整えて外にでないか?」
「外?ここを出るの?」
ミカが疑問に思いながら聞き返してくる。
「ああ、いつまでもここに居てもどうしようもないってのはみんな思ってるだろ?」
確かにここには物資が沢山あるので三人なら暫くいても生きていけるだろう。しかし、それは現状維持以外の何にもならないのもまた事実。
それをわかっている二人も「うん」と頷く。
「だから外に出るんだ。籠ってるよりはマシだろ?」
「言っていることは分かるけど、行く当てはあるの?」
「ああ、当初の予定通り桐島さんの家を目指したいと思っている。」
「えっ!?私の家!?」
全くの予想外だったのか素っ頓狂な声を上げるミカ。
「約束しただろ?桐島さんを家まで送るって。まあいろいろありすぎてあやふやなってたからな。」
「それは覚えてるけど・・・いいの?エイタ君だって自分の家が気になるんじゃ・・・」
「もちろん気になるさ、でも俺の家ここから結構遠いんだよな。だから先に桐島さんの家に向かおうと思ってる。くーねはそれでもいいか?」
そう聞くと今まで焼き鳥の缶詰をうまいうまい言いながら食べていたくーねが「うんっ!」と大きくうなずいた。
「道中の敵はまっかせてねっ!魔獣でもなんでも私が倒しちゃうんだから!」
そうしてまた缶詰を食べるのに戻る。
「わかったよ、じゃあこれからは私の家目指すってことで!」
こうして今後の予定が決まったエイタ達はまた食事に戻るのであった。
その日の夜。まだ朝というには少し早い時間帯にエイタは屋上にいた。
もともとは屋上駐車場になっており比較的簡単に出れたそこからエイタは星空を眺めていた。
手には先ほどくーねから預かった魔石を転がしている。
星空に魔石を掲げ中をのぞく。さらひさとした白い光のようなものが揺らめいている。
(これ、似たようなのどっかで見たことある気がするんだよな~)
ただ、あまり真剣には考えずになんとなく黄昏ていると、コツコツと誰かが階段を登ってくる音が聞こえてきた。
音に気づきそちらを見るとそこにいたのはくーねだった。
「エイタ、ここに居たんだ」
「ああ、なんか眠れなくてな。探してたのか?」
聞くとくーねは「ううん」と首を振りながらエイタの近くまで歩いてきた。
「起きたらエイタが居なかったから、ちょっと気になっただけ。一応確認はしてるけど、危険がないとは限らないし。」
「そっか、心配かけたな。そういえばくーねに聞きたいことが・・・」
エイタが何かを言う前にくーねはエイタの隣まで来ると一緒に星空を見上げた。大きく見開かれた瞳に星々が反射し宝石のように輝いている。
「綺麗だよね、星。」
「あ、あぁ、好きなのか?星」
「うん」
暫く二人で星を眺めていた。しかしずっと無言で星を目に焼き付けていたくーねが急に今にも泣きそうな顔で俯いてしまう。
口元がなにか小さく動いていたが何を言っているかはわからなかった。
どう声をかけていいのか分からず見つめるしかないエイタ。
暫くしたら目をごしごしと拭きながらくーねは顔を上げた。
「ごめんごめん、ちょっと感傷に浸ってたよーー、それで?何か聞きたいことあるんだっけ?」
くーねが明かるい表情になりエイタに聞き返してくる。
この流れであまり話したくはない話題ではあったが、しかし聞かないわけにもいかないので質問することにする。
今日で魔獣がどういう存在なのかはなんとなくわかった。それに付随して魔石とか核力のことも。
しかし、一番重要なことはまだわかっていなかった。
それはなぜ魔獣が”この世界”にいたのか。
そのことをくーねに聞かなくてはならない。
「くーね、くーねは知っているんだろう?なんで魔獣がこっちの世界にいたのか。」
「・・・・・・」
エイタの質問にくーねがまた表情を明るいものから悲しいものに戻した。やはり答えたくなかったのか。
しかしここまで聞いたらやめるわけにもいかない。
エイタはくーねが今隠しているであろう核心に触れるべく言葉を続けた。
「いるんだな、この世界に”魔王”が」
「っう・・・」
その言葉に反応したくーねは、ビクッと体を振るわせた後にゆっくりと歩き出した。
エイタもそれに付いていく。
屋上の端まできたくーねが縁に手を置いて遠くを眺めながら口を開く。
「うん、いるよ。魔王はこの世界にいる。」
なんとなく予想は出来ていた。
魔獣は魔王の力に憧れた存在だという。しかしそもそも憧れる為には魔王の存在を知る必要がある。
この前くーねは魔王との戦いで力を使い果たと言っていた。
そのあとすぐ俺たちと出会ったというなら直前まで魔王と戦っていたことになる。
そのくーねが今こうしてこの世界にいるんだ。一緒にいたであろう魔王もこの世界にいるのはなんら不思議でもない。
「その魔王が、くーねが戦っていたやつなのか?」
エイタの問いかけにくーねがとても悔しそうにぐっと歯を食いしばった。縁に置いた手がギリギリと音を立てる。
「手ごたえは、あったッ、、、あの時倒せたと思ってた。でもこの世界にきて、惨状を見て、疑問が生まれた。
この世界はまるで、魔王が蹂躙した私の世界に似ていたから。
そして魔獣を見て確信したよ。魔王はまだ生きている。世界を絶望に染めようとしている・・・
だから、私は・・・」
悔しそうに俯きながら話すくーね。
その表情だけでもくーねの色々なものが混ざり合ったごちゃまぜの感情を感じる。
そんな今にもどこかに飛び出して行ってしまいそうなくーねを見て、エイタはあることを思い出していた。
まだ出会ったばかりなのに随分と懐かしく感じるあのくーねと出会った日の夜。
星空の下で泣いていた彼女を見た時のことを。
いつも明るいくーねがこの時だけは見せる表情を。
あの時はなぜだか一人にしちゃいけないと思った。そして今も。
だからだろうか、気づけばこんなことを口に出していた。
「俺も戦いたい。」
「え?」
「戦うんだろ?魔王と。なら俺も一緒に戦わせてほしい」
エイタの主張を聞き振り返ったくーねは首を横に振って否定する。
「ダメだよそんなの!危険すぎる!魔王は魔獣なんかとは比べ物にならないくらい強いんだから!」
「それは強かったらいいってことか?」
「えっ・・・それは・・・」
うまく言葉を返せずに言いどもってしまうくーね。
「確かに俺はくーねに比べたら弱いよ。最近魔獣に殺されかけたばかりだしな。でも、それでも戦いたい。くーねと」
「わたし、、、と」
正直理由なんてなんでもよかった。くーねを一人にさせないなら。
でも多分、くーねと一緒にいる為にはこれが一番いいとも思った。
それでもくーねは迷っていた。
これは俺の覚悟をもっと見せる必要があるな。ここはひとつくーねみたいに決めポーズでも取ってみるか。
左手を上げようとして魔石を持っていたことに気づき逆の右手を天高く掲げる。
「俺の名はエイタッ!魔獣を屠りし(アシスト)物ッ!くーね!俺を・・・」
天に掲げた右腕を手のひらを上にしてくーねの前に出す。続きを話そうとしたその時、
ボッ と音が鳴った。手のひらの上に”白い炎”が生み出される。
「っへ!?」
「わぁ!」
自分の手のひらを確認する。白い炎がユラユラと揺らめいている。
一旦深呼吸をして心を落ち着かせる。そしてくーねを見て泣きそうな顔になりながら・・・
「なんか出たんだけど」
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