15 魔獣討伐
くーねと魔獣は戦闘を続けていた。
一度は爆発の音により中断された戦闘だが、当然そのまま終わるはずもなく、戦いはどちらかともなく再開していた。
そしてその戦いを陰から観察する人影が二つ。
エイタとミカだ。
「す、すごい。くーねたんちゃん凄すぎるよ!」
初めてくーねの戦いを見たミカは興奮しまくっている。
くーねが魔獣の攻撃を避け、弾き、反撃するたびに「おおっ!」と反応して飛び跳ねる。
こんだけ動いていたらいつか魔獣にバレるんじゃないかと俺はヒヤヒヤしっぱなしだ。
「でも、あんまり効いてなさそう?」
「だよな、決定力が足りない。」
そう、魔獣と戦い動き自体は魔獣の上をいくくーねだが、肝心の決定力。魔獣を倒せるだけの攻撃を出せていない。
攻撃は当たっているのに、力が届いていない、そんな感じ。
何度かくーねが力を溜めようとする仕草をするが、相手の攻撃が早くてうまく溜めれずにいた。
「俺がさっき見たときはもう少しダメージを与えていたと思うんだが」
実際魔獣の体は至る所がボロボロだ、なのでダメージ自体は入っているはずなのだが、、、先ほどと比べると明らかに攻撃が効いてないように見える。
「あんなにカチカチな毛を纏ってたらくーねたんちゃんの手も痛いだろうな」
「そうだよな、あいつめっちゃ硬いんだよ、俺が殴ったときも、、、ってあれ?おかしいぞ?」
「ん?どうしたのエイタ君」
ミカが不思議そうに首を傾げエイタを見つめる。しかしエイタはそれに気づく事もなく思考に耽っていた。
(そうだ、おかしい。さっきくーねと魔獣を見たときはあそこまで硬そうじゃなかった。でも俺が最初に殴ったときは今と同じくらい毛が硬かったと思う。つまり魔獣の毛は硬くなったわけではなく、あの時だけ柔らかくなってたんじゃないか?でも魔獣がそんなことをする必要はないよな。ではなにか条件が?)
「エイタ君っ!」
考え込んでいるとミカに袖をつかまれ「はっ」とする。
ミカを見るがミカは俺を見ておらずその視線をたどった先には吹き飛ばされて瓦礫に突っ込むくーねがいた。
「・・・っ!?」
そして魔獣と目が合う。合ってしまった。
じっとりとした視線が俺達に注がれる。
(まずいっバレた)
蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまうエイタ。しかし、魔獣はその視線を外しくーねのほうに向けた。
「!?」
(なぜだ?なんであいつは俺たちを見逃した?脅威に感じなかったのか?でもこの前はくーねよりも俺を優先していたよな?)
なにかが引っかかっている。これは魔獣と戦い始めてからずっと感じている違和感だった。
戦っているときは必死すぎてそれどころじゃなかったが、冷静に見ている今、その違和感はどんどん膨れ上がっていた。
自分たちはなにか重大な見落としをしているのではないかと。
「エイタ君、私、戦いたい。くーねたんちゃんを助けたい。」
睨まれた後で、なお一歩前に出るミカ。
その一歩はエイタを思考の海から脱出させるのに十分なものだった。
(そうだよな)
頭をガリガリを掻きながらエイタも一歩前に出てミカに並び立つ。
危ないとか、足手まといになるとか、俺たちじゃ何もできないとか、行かない理由を上げようと思えばいくらでも思いつくだろう。
だが、俺たちがここまで戻ってきた理由はひとえにくーねの力になりたいから。その一心だ。
「行こう。」
自然バールを握る力が強くなる。
――さぁ、第2ラウンドだ!
まず走り出したのはエイタだった。バールを振りかぶりながら魔獣へと向かう。
のそのそとくーねの元へ向かっていた魔獣がピクッと反応して振り返る。その顔は”突然の登場”に驚き目を見開いているようだった。
構わずその横っ腹にバールを叩き込む。
ガキキイイイイイィィンと音が鳴り響き衝撃がエイタへと帰ってくる。
そしてすぐさま魔獣の反撃が返ってくるが、
(ここまでは想定通りだっ)
魔獣が反撃するころにはエイタは既に攻撃の射程圏外へと離脱していた。
そう、ここまでは想定どおり、”ここまでは”
この先はまったくのノープランである。やばいタスケテ
魔獣が屈む、また突進してくるつもりだ。
タイミングを見極め避ける準備をする。緊張で汗が頬を伝う。
(なるべく早く頼むぞ、桐島さん・・・)
それからの攻防はよく覚えていない。ただ必死に突進を避け続けていた。しかし何度目かの魔獣の攻撃をなんとか回避した時、バランスを崩し尻もちをついてしまった。
このチャンスを魔獣が見逃すはずもなく、突進しようとしたその瞬間だった。
カカカンッ カカカンッ
どこからともなく軽快なリズムが聞こえてくる。
魔獣も音の出所を特定するべくしきりに耳を動かしていた。
俺は何度か聞いたことのある音だと気づく。
上から聞こえた。エイタも魔獣も揃ってそこを見る。
そこにはミカがいた。カスタネットを鳴らし、キラキラに発光するミカが。
「グルァアアアアァァアァッ!!」
突然魔獣が吠えた。全身の毛が逆立っているのが分かる。
目を押さえ、振り払うかのように頭を揺らしている。
(これは・・・まさか・・・)
「おっりゃああああっ!」
そしてその横からボロボロになったくーねが突っ込んできて魔獣を横からぶん殴った。
ぐしゃりと拳がめり込み、そのまま吹き飛ばされる魔獣。
「エイタ!無事でよかったよ!」
「くーねこそ、無事みたいだな」
「にしし」と笑いながらエイタに手を差し伸べてくれる。その手を掴みくーねに引っ張られるように俺は立ち上がった。
「くーね、まだ戦えるか?」
「もっちろんだよ!」
「それはよかった。実はあの魔獣について気づいたことがあったんだ。」
飛ばされた魔獣が起き上がり、その瞳を憤怒に染めている。
しかし、それに構わず俺はくーねに気づいたことを説明した。
「その可能性はかなり高いね。私も戦っているときに何度も感じてた。その違和感の正体がさっきエイタが言ったことで間違いないと思う。すっごいよエイタ!よく気付いたね!」
くーねがぴょんぴょん跳ね褒めながら迫ってくる。
ここまでストレートに褒められるとなんだか照れるなと思い、ごまかす様に一歩前へ、魔獣の前に出るエイタ。
「ほんとにあの作戦でいくの?大丈夫?」
これからエイタがしようとしている事に不安がるくーね。
「ああ、絶対成功させる。だからそっちも、”最大の一撃”を頼む。力、残ってるんだろ?」
「・・・うん。うん!わかった、気を付けてね、エイタ」
そういうとくーねはジャンプしてミカの方に向かっていった。
これから行う作戦には三人がそれぞれ行動しなければならない。
そして俺の役目は、まあ簡単に言えばくーねとミカの準備が終わるまでの時間稼ぎだ。
バチンと一発頬を叩き気合を入れる。
「流石に三回目だ。もう慣れたぜワンコロッ!」
「ググググワァアアアアアン」
魔獣に向かい駆け出すエイタ。
魔獣が突進してくる。と同時に斜め前に飛ぶことで回避する。
後ろで魔獣が激突した。そのままバウンドでもするかのように跳ね返ってくる。
「っ?!」
魔獣のまさかの行動に動揺してしまい、その場で躓いてしまう。
しかし怪我の功名とでもいうべきか、躓いた拍子に魔獣の軌道から逸れなんとか当たらずにすんだ。
(っ!突進にもいろいろ種類がありそうだなっ)
ただの突進ですら一撃が致命傷になりかねないのに!と思いながら考える。くーねは真正面から迎え撃っていたが流石に今のエイタに同じことは出来ないだろう。
つまり避けるしか選択肢はない。
これからはバウンドのことも考えながら動かなければならない。
それから何度も魔獣は飛んできた。反射もしてくるが基本直線だけなこともあり、なんとか紙一重で避けれている。
通常の突進が通用しないことに気づいたのか魔獣の構えが変わる。
(っなんだ?!構えが違う?!)
直後、魔獣が腕を広げながら突っ込んできた。鋭い爪がエイタを八つ裂きにするために迫ってくる。
咄嗟に地面に伏せ、真上すれすれに魔獣が通過していった。
(っっぶねえええ!魔獣の下にスペースがなかったら今頃バラバラなってたぞ)
すぐに立ち上がり魔獣を見るエイタ。その体は息が上がり始めていた。
(次もあの攻撃を避けれる自信がない。なら接近戦がいいか・・・)
もちろんエイタに戦いの心得などない、接近戦ともなれば飛んできた魔獣を避けることよりずっと難しいだろう。
だがやるしかない。
魔獣が構える前にに走って近づいていく。
ある程度近づいたところで魔獣が腕を振りかぶる。なんとか急停止することでギリギリ回避。目の前に爪が通過していき鼻の先が少し削れてしまう。
心臓がバクバクと動き続ける。その鼓動に合わせるかのようにエイタも動き続けた。右に左に、攻撃に当たらないように。紙一重の攻防を繰り返す。
少しずつ体に斬り傷が増えていった。どんどん魔獣の攻撃の制度が上がってきているのだ。しかしそれに比例するかのようにエイタの感覚は研ぎ澄まされて行っていた。
魔獣の攻撃がスロー再生のように見える。相手の動きに慣れてきたのか、それとも死の直前に見える光景のようなものか。
どっちでもよかった。ただこの瞬間を戦えるのなら。
そしてようやくその時が来た。
「エイタ君っ!」
ミカの声が遠くから聞こえる。
その瞬間エイタは走り出した。魔獣から距離を取るように。背を向けて。
魔獣が構える。弾丸突進がくる。
「やっぱそうくるよなっ!」
ある程度距離を取ったエイタだが、立ち止まり魔獣の方に向きなおした。腰を落としバールを斜めに構える。しっかりと地面を踏ん張る。
魔獣が突っ込んできてエイタに真正面から衝突する。一瞬だけ受け止めたエイタだが、その質量には勝てずすぐ後方へ吹き飛ばされてしまう。
「・・・ッッぐ」
ズドオオオンと後ろのテナントに埋まるように突っ込んでいくエイタ。全身がビリビリと痺れ、反動で脳がグワングワンと揺れる。
ぎりぎり片腕が動くぐらい。
ドス、ドス、と魔獣がまともに動けないエイタに近づいていく。
手を振り上げその鋭い爪でエイタに止めを刺そうとしている。
既に範囲内だ。”お互いに”
エイタがニヤっと笑う。
「詰めが甘いな」
たまたま誰かと同じセリフ。
ポケットから取り出したのは一つのビー玉。
それを力を振り絞り魔獣の目の前へと投げた。
そして、
「バンッ」と指でっぽうで打ち込む。
瞬間、ビー玉が魔獣の目の前で発光し、周囲に七色の光を放ち始めた。
「グルァアアアアァァアァッッッ!!!」
魔獣が叫び両目を手で押さえる。
全身の毛が解けたように逆立っていく。
「くーねっ!今だっ!!」
上に向かって叫んだ。
その絶好の瞬間を彼女は見逃さない。
既にスタンバイしていたくーねは勢い良く魔獣向かって真っ逆さまに降下してくる。
うっすらと全身に纏った白い光を拳に集めていく。
「必殺!!くーねたんメテオッ いんぱくとッ!」
「グオオオオオォォォッ」
ズドンッ、とくーねの拳が魔獣の脳天に降り落ちた。
一瞬カッッと光が爆ぜる。そのあとすぐに衝撃波が発生し、思わず吹き飛ばされそうになる。
ビキッ、ビキッと衝撃が伝播し、魔獣の足元にクレーターすら発生するそれはグシャリと魔獣の頭を潰していき、最後には完全に魔獣を押し潰す。
魔獣は地に伏した。
十秒、一分、まてど魔獣が動くことはない。
「や、やった、、、ははっ、やっと、倒した・・・」
それを確認したエイタは今度こそ力が抜けその場で倒れ込む。
”巨大なクマさん”が包み込むように受け止めてくれる。
「ふは~~、なんとか倒せたねっ!エイタの作戦大成功だ!」
全身に纏った白い光をフッっと霧散させた後、大きく万歳してぴょんぴょんと喜びをあらわにするくーね。彼女も限界が近いはずなのにそれを全く感じさせない可愛らしい動きにすり減った精神が癒されていくのを感じる。
「一か八かだったけど、うまくいってよかった。魔獣にぶっ飛ばされたときはホントに死ぬかと思ったけどな」
「んもー、むちゃするんだからっ!」
こんどは腰に手を当ててぷんぷんと怒りを顕わにするくーね。
その姿がなんだかとても可愛らしくて、つい笑みが零れてしまう。
「怒ってるんだよっ!なに笑ってるのっ!」とさらにぷんぷんとしながら顔を近づけてくる。
そんなくーねの顔をまじかで見て、戦闘していた時のかっこよかったくーねと今のどこかゆるっとした可愛らしいくーねにギャップを感じてしまい、少しドキッとしてしまった。
心臓の鼓動が早くなるのを感じる。
(そういえば、くーねって向こうの世界ではアイドルなんだよな、やば、なんかドキドキしてきた)
その鼓動は今までの死闘によるものか、それとも・・・
そんな気持ちを抱えたからか、不意に出た言葉だった。
「かっこよかったよ、くーね。それと・・・最高に可愛かった」
「っへ?!きゅきゅきゅっ、急に何よっ!そりゃ私は最高にかっこよくてかわいくてクールでキュートで魅力的かつ神秘的だけどっ!」
「ごめんそこまでは言ってない」
腕をバタバタさせながらあたふたするくーね。
「と に か く ! そんなこと言ってごまかそうとしてもダメだからねっ!」
エイタに反省の意志がないと思ったのか詰めるのをやめるくーね。体の前で腕を組みほっぺを膨らませながら「もうっ!」と言っている。
が、その口元はニヘッと緩んでいた。褒められるとちょろいタイプかもしれない。
急に恥ずかしくなってきたエイタは話の軌道を戻す。
「やっぱり魔獣の弱点は”光”だったんだな。」
地に伏した魔獣をまじまじと見ながら口にする。
くーねも頭を切り替え話に乗ってくる。
やはりお互いに恥ずかしかったらしい。
「ずっと暗闇にいたからか目が退化してたんだろうね。だから遠くにいる敵には攻撃せず、わざわざ歩いて近づいてたんだ。」
そう、エイタが気づいたことはそれだった。
魔獣は目が見えていないんじゃないか。光に弱いんじゃないか。
最初に違和感を感じたのは初めて魔獣に攻撃されたとき。
ミカを抱えたくーねを視線では追っていたのにすぐ、エイタに戻した時だ。
あの時は目の前にいるエイタを先に倒そうとしただけかと思ったが、今考えるとおそらく知覚の範囲外に出てしまったのだろう。
くーねが一時的にダメージを与えれていたのはビー玉の心核の光を魔獣に当てれていたからだろう。
それに魔獣と目が合った時、あいつはエイタを見逃したのではなく、見えてなかったのではないか?
確信するに至ったのはミカを見た時の反応だ。突然視界に入った光に藻掻いていた。そのあとすぐに来たくーねの攻撃には確かなダメージがあった。
つまりエイタは”魔獣は光に当たると刺激によって強靭な毛が解かれ防御が薄くなるのでは?”と考えたわけだ。
後はくーねが力を溜める時間を稼ぎつつ、エイタが魔獣をその元に誘導するだけ。魔獣は吹き飛ばした敵にはゆっくり近づいていく。
その特性を利用し、エイタはわざと突進を食らったのだった。
「いや~桐島さんの合図があるまでは生きた心地がしなかったよ。やっぱり”これ”を一人で運ぶのは大変だったかな?」
「私もずっとこの場所で力を溜めてたからここまで大きいとは知らなかったよ~知ってたら手伝ったのに」
言いながらくーねはエイタの後ろにある”巨大なクマさん”に目を向ける。
ミカが一人で運んできたものだ。この”巨大なクマさん”が吹き飛ばされたエイタを受け止めてくれたのだ。一日に二回も。命の恩人ならぬ恩クマである。
一度これで助かったからこそ思いついた作戦ともいえる。
「そういえば桐島さんは?」
「ん?ミカならそろそろ」
そういってくーねがある方向を指さしたとき
「エイタくーーーーん!」
ミカが駆けてきた。顔を涙でぐちゃぐちゃにしながら。
「桐島さ・・・ん?」
走ってきたミカに声を掛けようとするが、ミカが止まるどころか減速すらしようとしないことに訝しむ。
ミカが何をしようとしているか察したエイタは「ちょっと待ってっ!」と制止しようとする、しかしそんなんでミカが止まるはずもなく。
勢いのままミカはエイタへと突っ込んでいった。
ドスンと音を立てエイタに抱き着くミカ。
「グェエエエ」
死にかけの鳥みたいな声が出る。
何度も魔獣に吹き飛ばされ既に全身がボロボロだったエイタにとってそれは魔獣の突進と同じくらい凶器的だった。
「・・・イッテェ、、、あっ、しぬ・・・」
そのままガクッと気絶してしまう。
「エイタく~~~ん!!しんじゃいやーーー!!」
「まったく、心配かけるからだよっ」
その光景を笑って見つめるくーね。助ける気はないみたいだ。無茶をして心配かけた罰とでも思っているのかもしれない。
とにもかくにも、三人はついに魔獣を討伐することに成功したのだった。
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