掃除婦、力説する
1話目でジョンが勤め始めてからの期間を3か月から1か月に訂正しました。
この物語は架空の国が舞台ですが、20世紀序盤の欧州をイメージしています。
ジャンル、ヒューマンドラマに設定してるけど推理物の方が合ってるかしら?
ざまぁもの、というのは数年前からこの国で流行っている物語の形式でジョンも妻と一緒に活動写真で見たことがある。
「今話題のお芝居。スカーレット様のお気に入りだった女優のヴェラが主人公をいじめる継母役で出てるんですがね、ざまぁされておちぶれた継母がやっと手に入れたのがかびたパンに腐った食事なんです」
自分もかつて義娘に同じものを与えていたと気づいてやっと、継母は己の行動を恥じて涙する印象的なシーンなのだと掃除婦は力説した。
その話を聞いて料理長はピンときた。キャサリン様への罰として食事を抜こうという話になった時、どうせ食事抜きなら「絶対に食べられないもの」を嫌がらせで用意しよう、なら今流行りのお芝居になぞらえて…と誰かが、おそらくメイド長だろうが言い出したのだろうと。
「同じ食事抜きでも、全く与えないのと一口だけ食べさせてから取り上げたり、見えるところに置いてあって匂いも届いてるのに拘束されていて食べられないというのは絶望の方向が異なる」軽い口調でそんな事を言っていたのはご親族のどなただったか。
料理長はジョンより長く生きているから知っている。こういった、女性陣の悪ノリを正論で看破するのは悪手であると。出来ないとは言わない。だが今後も仕事で付き合う相手と関係が悪くなるよりは自分が妥協する方が時間も精神も無駄にしなくて済む。
今度面白い食材が入ったら任せてやるから、と心中で詫びながら料理長はジョンに従う一択だと諭しにかかった。
ジョンが今まであった事を思い出しながら説明していくと、キッドは瞳を輝かせて言った。
「おいらもざまぁものは好きだよ!ちゃんとした劇場には行った事無いけどさ。街の広場とか、食堂や酒場でも寸劇はやってるから」
そういえば前の職場でも客寄せで演者を入れる事があったな、とジョンは思い出した。
「ざまぁものってさ、大抵主人公が理不尽な目にあうでしょ?だから同じような状況になったら気をつけろ!どうやって抜け出したか思い出せ!って下町じゃ大人も子どももざまぁものを手本にしてるんだ」
キッドの発言にジョンは驚いた。
「へえ、そうなのか」
「そうなんだよ!だからね、ジョンさんも困った時にはざまぁものを参考にしたらいいよ!!」
今困ってるんだけど、参考になるエピソードなんてあるのか?とジョンが首を捻ると庭師に背中を軽く叩かれた。
「キッドの言う事は適当に聞き流しとけ。お前さんも変なことに巻き込まれて災難だが、自業自得な面もあるからな」
庭師の発言にジョンはさらに首を捻った。視界の隅でキッドもうんうんと頷いている。
「自業自得?」
どこが自業自得なのか分からない。そう素直に伝えると親方は呆れた表情を浮かべた。
「だってお前さん、マリーア様のことを『奥様』って呼んでるじゃないか。だからメイド長に同志だから喜んで協力するだろうって思われてるんだよ」
当初の予定より伏線やエピソード増えたから、連載にして正解でした。
10話で終わるか…?