料理長、懐かしむ
8/18 表現の修正と料理長の発言を追加・変更しました。
ご主人様の家系は代々軍人をしている。
なので子育ても軍隊形式に寄ってしまう。
お子様が問題を起こすと食事抜きは当たり前。営巣代りの物置に監禁や罰掃除や館の外周をマラソンしたりが日常風景だったと料理長は目を細めて懐かしむ。
ジョンは良家のお坊ちゃんがそんな「躾」を受けていた事に驚いた。
「旦那様も子どもの頃にはしょっちゅう台所で鍋を磨かされていたもんだ。面白いのは、一番効果のあった罰が自室への立ち入り禁止で…」
話が逸れていきそうなのをジョンは慌てて引き戻す。
「食事抜きっていっても、子ども相手だし一食抜くくらいですよね?」
何故だかそうじゃない気がしたが、料理長に明るい調子で尋ねてみる。
「いや、三日間水のみで食事抜き。先代様はそれで済ませてたが、先先代様にもっと厳しくしろって言われてるのを見た事がある」
それでも女のお子様には自室に謹慎や反省文の提出くらいで食事を抜いているのを見た事が無いな、と料理長が小さく呟いた。
「食事抜きは、他の罰に比べて日頃の行いが出るんだよ」
料理長によると当主は「食事抜き」を命じるが、その後それが守られているかは確認しない。「使用人を信頼している」というのが表の理由だが、実際には子ども達が家族や使用人と信頼関係を築けているかの確認を兼ねているのだという。「戦友や部下に背中から刺されたらたまらないだろう?」と笑う料理長はこの館の流儀に馴染みすぎているとジョンは思った。
「先代様の頃は男の子が四人もいたから、常に誰かが罰状態でこっそり差し入れしたものさ。お子様達も自分が苦境にある時に助けてもらえる有り難さに気づいてからは、下の者を気にかけるようになりなさってな。キャサリン様も罰が夕食だけなら朝食と昼食の量を増やしておくよ」
ジョンは悪評しか聞いたことの無いお嬢様だが、料理長にとっては「信頼関係にある」方らしかった。
「こちらで食事抜きが認められた罰という事は分かりましたが、かびたパンと腐った食事が必要な理由が分かりません」
そう。ジョンは教育の一貫で食事を抜かれる事があるのは理解出来たが、食材を無駄にする指示には従いたくなかった。
「俺も、硬くなったパンと薄めたスープでも与えとけって言われた事はあるんだが。そいつは初めてのパターンだな」
料理長も食に携わる者としてジョンの気持ちは分かるが、勤め人として命じられた事に逆らうのが難しい事を知っている。
「誰でもいいから、何でこんな状況になってるのか教えちゃくれませんかね…?」
メイド長はジョンの追加の質問を受け付けず、「お前は命じられた事だけしていろ」というニュアンスの発言をして去っていた。
ジョンの求めに応じるかのように「あの。申し上げてもよろしいでしょうか?」と二人から少し離れた処で調理場の床を磨いていた掃除婦が声をあげた。
料理長が頷くと、掃除婦は深呼吸してから一気に言った。
「かびたパンに腐った食事、というのは今流行っているざまぁもののお芝居からきているのではないでしょうか」
差し入れは一日2回ですが、朝に昼食も一緒に届けられます。
あと私室にバスルームがあるので衛生面は問題ありません。