ジョン、愚痴る
「は?何それ、意味わかんない。おいらが頭良くないからわかんないだけ?」
子どもは正直だ。ジョンは庭師見習いのキッドの口に熟れすぎて形の崩れた苺を一粒放り込む。キッドは小銭やおやつを与えると空き時間に面倒な雑用をこなしてくれるので、館のあちこちで重宝されていてジョンとも仲が良かった。
「いんや、大人にもわからん。というかわかりたくない」
ジョンは家族の為に安定した職を手放したく無い。そうでなければ、兄嫁の顔を潰すことになってもこんな指示を出したメイド長に掴みかかっていただろう。
「で、何でそんなもんが要るんだ?」
苺を追加でくすねようと狙う弟子に代わって庭師が尋ねると、ジョンは二人を厨房の隅の休憩スペースに手招きした。ジョンはこの理不尽な出来事について誰かに愚痴りたかったのだ。
これから毎夕かびたパンと腐った食事を一人前用意しろ、とメイド長は言った。
料理人として従いかねる命令にジョンが渋ると、メイド長に「使用人内での立場が悪くならなければよろしいですね」といじめを仄めかされ強く言えなくなってしまった。もう一度言うが、ジョンは生まれてくる子どもの為に稼がねばならないのだ。
急には無理です!という悲鳴が聞き届けられて3日後からでいいと申しつけられたのは幸いなのだろうか?
「その食事をどうなさるんで?」と尋ねると「生意気な子猫に身の程を教えてやるのです」と返ってきた。
何故そこで猫が出てくるのか。お館ではネズミ対策で猫を飼っているが、そんな物を与えても口をつけないと思うのだが。
猫の食事の世話もジョンの仕事だったので思い切って尋ねてみたところ、用意するのは猫用では無く人間用の食事だと言われる。
ジョンの疑問に答えてくれたのは、どうすればいいのかわからず相談に行った料理長だった。
「子猫というのは、キャサリンお嬢様を指しているのさ」