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第25話:二年後





 俺が家を追放され、村にやってきて二年が経った。


「リオ! 今日も美味しそうな野菜がとれたよ!」


 朝、頭に生えた葉っぱを揺らしながら、家に入ってきた少女は嬉しそうに瓜や芋、トマトを俺に見せた。


「すごいね。 いつもありがとう、モナ」


 彼女は山神からもらった精霊石から生まれた「ハイ!」しか言えなかった精霊である。 二年の間に成長して喋れるようになったため、俺は彼女をモナと名付けた。


「うぅ~」


 俺が頭を撫でると彼女は恥ずかしかったのか顔を赤くして、ふるふると震え出した。


――ぽんっ


 モナの頭から美味しそうな桃が飛び出てきた。


 彼女は恥ずかしがったり、感情が溢れ出すと頭から果実が出てくるという変わった特性があるのだ。 モナは漢字で表記すると桃菜、その名前はモナの特性が由来となっている。


「もらうよ?」

「うん……いいよ……っ」


 桃を収穫しても痛みなどはないらしい。


 俺は初め取ることも、食べることにも若干抵抗があったが放っておいても枯れるか鳥の餌になるだけなので気にしないことにした。


 しかし収穫する時の反応が憂いというか、まるで男を受け入れる女性みたいな何とも言えない表情をするのはやめていただきたい。 非常に気まずいのだ。


 この行為が精霊にとってどんな意味があるのか気になるけど、聞いたらもう収穫できなくなる気がして、俺はあえて見ない振りをするのであった。





「やあ、久しぶりだね」


 その日、シイラが俺を迎えに来た。


「うん久しぶり。 じゃあ悪いけど、これから送り迎えよろしく頼むよ」

「任せて! それくらいお安いご用さ!」


 まもなく王女たちと約束した共立国際魔法学園への入学が迫っている。


 あれからシイラは何度か村に遊びに来ていた。

 しかし最近は試験に向けた勉強漬けの日々を送っていたらしく、会うのは久しぶりだ。


「自信のほどはどう?」

「……やれるだけのことはやったつもりさ。 これでダメなら一から頑張るよ」


 あっさりした態度だが、シイラの目は絶対にこのチャンスをものにしてやるという本気を宿していた。


 入学資格はあるのですでに俺もシイラも試験を受ける必要はない。

 しかし特待推薦があり、学費がかからない俺とは違いシイラに推薦はない。 そして魔法学園は非常に試験のレベルが高いことに加えて、高額な授業料がかかることで有名である。


 そしてシイラに金はない。

 なので特待生になれなければ入学しても、授業料が払えず退学という悲しい事態になってしまうのだ。


「あと三十年、時間があればなんとかできたんだけど」

「シイラ、君の執念には恐れ入るよ」


 その言葉だけでシイラがどれだけ共立国際魔法学園に強い想いがあるのか分かる。  できることなら変わってやりたいが、そうもいかない。


「じゃあ行ってきます」

「そうか、まあ好きなように励んで来い」

「はい! モナ、畑の管理よろしく頼むな」

「うん! 分かった!」


 畑の管理を他の住人に頼まないで済むのは気が楽でいい。

 モナは何もいわないがきっと寂しい想いをしているだろうから、今度どこかへ連れて行ってやろうと俺は心の中で計画した。


「ピトには知らせていないのか?」


 フェリの言葉に俺は苦笑いした。


「伝えてますよ? でもまあ色々ありまして……」

「そうか、色々あったなら仕方ないな」


 ピトは共立国際魔法学園に相当嫌な想いがあるらしく、俺が入学することに最後の最後まで渋い顔をしていた。


 詳しい理由は分からないが、最近は素っ気なく、忙しいからと家に行っても追い返されるようなこともあった。 彼女とはそのうちしっかり話し合う時間も設けようと考えている。


「準備はいい?」

「うん、済んだよ。 まあどうせ夜までには帰ってくるしね」

「じゃあ、飛ぶよ!」


 シイラの掛け声とともに景色が切り替わる。


 目の前にそびえるのは城のような巨大な校舎だ。


「ここが魔法学園」

「待っていたわよ!」


 声に振り向くと、そこには学生服姿のアコとヒビキが手を振っていた。


「お久しぶりです」

「ええ、まあ積もる話はあるけどまずは一緒に学長室へ行きましょう」


 王女、皇女二人の推薦と言えど「はい、分かりました」とはいかないらしく、学長や教師陣を交えての面談が行われるのだとか。


 そこでこの学校へ入るに相応しくないと判断されれば、推薦は取り消される。


「といってもよっぽど可笑しなことをしなければ大丈夫だから。 気楽に望んでいいわよ!」


 アコの気楽な発言がむしろ不安しか感じないが、ヒビキが何も言わないので正しくそうなのだろう。


「では行きます」


 ヒビキがそう言って学長室をノックすると「入りなさい」と淡々とした女性の声がした。


 校長室には三人の男女が待ち構えていた。


 そしてその中心に座る人物の姿を見て、俺は思わず呟いた。


「ピト……?」

「なぜあなたが私の娘の名前を知ってるのですか?」


 その女性の鋭い眼光が俺を貫いた。


「私は共立国際魔法学園の学長、パト・ポポロイド。 もう一度尋ねます、あなたはなぜ私の娘とどのような関係ですか?」


 彼女の残念な雰囲気とは対照的に、学長パトは冷淡な印象だ。 しかし学長パトの羽織る研究者用の白衣と、そして首にかけるヘッドフォンの装いが縁者であることを証拠付けている。


「俺は彼女の友人であり、助手のようなものです」


 ピトが母親とどういう状態なのか不明である以上、何をどこまで答えるべきかは分からない。 だから俺は関係性における事実のみを告げた。


「そうですか……あの子に友人が……それは良かった」


 学長パトは先ほどまでの冷淡な口調とは違って、ひどく感情的な嬉しそうな声音でささやくように呟いた。


「個人的な話を、申し訳ない。 では面談を始めましょう」


 そして学長は再び淡々とした口調で、しかし初めよりどこか柔らかい雰囲気で開始の合図を告げるのであった。











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