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第11話:商業都市と案内人/皇女の誤算





「ようこそ、商業都市ラクイチへ」


 城壁を抜けて街に入ると、入り口から露店が並ぶ広場があり、奥にも商店街がいくつも伸びている。 一目見ただけでも雑多な人種が行き交っていることが分かり、まるで上野のアメ横みたいににぎやかだ。


「色々売ってるんだな」


 店先にはよく分からない獣がつるされていたり、まるでRPGゲームの道具屋のような店があったり、見ているだけでも面白い。


「この辺で遺物を置いてるとこはないみたいだ」

「そりゃあそうさ。 遺物を売ってる店なんてのは地下にしかねえよ」


 冷やかしていた店で俺が呟くと、店主がバカにしたように笑って言った。


「地下……?」

「ああ、表で店を構えられない又はグレーな品を扱うアンダーグランドな場所だよ。 貧困と危険と好奇心とカオス……一言じゃ表せねえところだが、興味があるなら覗いてみたらいい。 ただし何かあっても自己責任だがな」






 店主によると地下へ行くには特殊な方法らしい。

 街の各所にある大樹に触れて、キーワードを唱えることで地下へ行くことができるのだ。


「ログイン、アンダーワールド」


 大樹に触れ唱えると、瞬きと同時に視界が変わった。


 薄暗い、まるで夜のようで町の雰囲気は酒場のような騒がしさを感じた。


「まるで異世界だな」


――ドン


 突如誰かにぶつかられ俺は思わず尻もちをついた。


「いって……ちょっと待てよ! なんだよ、一言くらいなんか言えよな」


 何はともあれこれでようやく目的の遺物探しを始められる。 さっそく店を回ろうとしたが――


「お兄さん」


 後ろから声をかけられ振り返ると、丈の短いタンクトップとショートパンツを掃いた少年が俺が財布代わりにしていた小袋を放ってきた。


「え、嘘。 いつの間に?」

「ここじゃあスリなんて珍しくない。 お兄さん観光客だろ? 護衛もつけず地下に来るなんて怖いもの知らずにもほどがあるよ」


 そんなに危険な場所とは聞いていなかったので、どうしようと動揺する俺に少年は営業スマイルを見せる。


「この地下に住み着いて十年の僕が格安で案内から、護衛までしてあげるよ。 どうだい?」


 この少年が信用できるかは分からない。 しかし今の俺にとってはありがたい申し出だった。


 少なくともスリから財布を取り返してくれたことは事実だ。


「じゃあしばらくよろしく頼むよ」

「毎度あり! 僕はシイラ!」

「俺はエクリオ。 とある遺物を探してこの街に来たんだ」


 俺とシイラは握手を交わして、取引は成立するのであった。






「遺物か。 それなら確かにこの街はうってつけだろうね」


 シイラから話を聞けば聞くほど、この街は不思議な街であった。


 そもそもこの街は古代遺跡であり、地上の街は調査隊や研究者が住み始めたことが始まりらしい。 そしてこの遺跡は未だに現役で稼働しているが、長年の研究を経ても原理が分からずじまいで今となっては研究者がさじを投げたため、今のようにアンダーグラウンドな街となってしまった。


「この街には可笑しなことがあるんだ。 その一つが転生装置だ」


 街の中心地に立つ教会には転生装置と呼ばれる装置があり、それを利用するとその名の通り人間から別の生き物に転生できる。


「……ごめん、余計なこと喋り過ぎたね」


 さっさと本題に入って欲しいという気持ちが顔に出てしまったのか、シイラは謝りながら遺物を扱っている店まで案内してくれた。


「ここがこの街で一番大きな遺物の店だよ」


 そこの店はとても繁盛しているようには見えない。 中に入ってもまるで粗大ゴミを一時置きしている倉庫のような有り様で、俺はピトの家を思い出した。


「すげぇ、お宝がいっぱいだ」

「お宝……僕にはゴミにしか見えないけど」


 ラジオに洗濯機、ドローン、ゲーム機やテレビなど有用そうなものから玩具まで様々なものが一律銀貨一枚で販売されていた。


「これとこれ、それからこれもください!」


 本当なら全部、と言いたいところだが本番のオークションに向けて金をできるだけ残しておくために厳選した遺物を俺は買い取り収納袋にしまいこんだ。


 店主は小躍りしそうなほど喜び、シイラは馬鹿を見るような目でその様子を見るのであった。



***



「どういうこと……?」


 商業都市でトイレはなかったが、さっそく遺物を手に入れたヒビキは高級ホテルの一室にてコピーしたスキルを使おうとして驚愕した。


「どうしたのよ、ヒビキ」

「このスキル……私には使えません」

「どういうこと?」


 スキルは大なり小なり魔力を消費する。 それはその人の適正などにより、消費量は変わるが極端な差はないと言われている。 しかし、


「消費魔力が尋常じゃなく多いんです」

「ヒビキで足りないって、あの子どんだけバケモノなのよ」


 ヒビキは皇女であり、そのスキルが有名だが魔力が多いことも一部では知られている。 帝国にヒビキより魔力が多い人間は存在しない。 つまりスキルがあっても、このままではトイレを手に入れることは出来ないとうことだ。


「どうするのよ。 諦める……わけなさそうね」


 アコはヒビキの表所を見て、彼女のトイレへの執念を感じ口元を引きつらせた。


「あの少年を探し出します。 そして遺物を見つけ次第トイレを作ってもらいましょう」

「……目をつけられてあの子も大変ね」


 気合十分のヒビキであったが、一方でアコは見つけられればヒビキが満足するまで付き合わされることになるであろう少年を哀れに思って、遠い目になるのであった。



***

 

 





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