第九十六話 クラウドの胸に
エリザベートは目を閉じ、そばにある温もりを肌に感じながら不思議に思っていた。
なぜ今、この人の胸に力強い腕に私は抱かれているのか……と――。
こんな風に彼に抱きしめられるとは、何時間か前には思いもしなかった。
◇◇◇◇◆◇◇◇◇
夕暮れ時に屋根裏部屋にエリザベートは、手伝ってくれるというクラウドと一緒に、今日泊まる皆のための寝具を取りに向かった。
エリザベートが屋根裏部屋に続く階段を昇っていると、足を踏み外しかけた。
「エリザベート!」
先に屋根裏部屋に上がっていたクラウドがエリザベートの腕を素早く掴みとり助ける。
クラウドはエリザベートを引っ張り上げた。
そのまま掬い上げられて、エリザベートはクラウドの胸の中にいる。
屋根裏部屋は窓がないから薄暗くシンと静かだった。
二人はそのまま静けさに包まれ身をおいている。
エリザベートはクラウドの胸によりかかる姿勢になっていた。
クラウドはエリザベートの肩を抱いている。
エリザベートにクラウドのたしかな胸の鼓動が聞こえてくる。
「大丈夫か?」
「うっ、うん。ありがとうっ……」
真っ赤に顔を染めたエリザベートは慌ててクラウドから離れようとした。
だけれど。
「離さないといったら、どうする?」
クラウドは恥じらうエリザベートの腕を掴み自分の元に戻り寄せ、ぎゅっと抱きしめた。
華奢なエリザベートの体はクラウドのがっしりとした体格のいいシルエットにすっぽりと収まる。
「あっ――」
「……俺は海で。船上でお前を失うかと思ったんだぞ! エリザベート。お前は漆黒の勇者だから戦う運命かもしれん」
いつにも増してクラウドはとても切羽詰まるように真剣で。
だけど、哀しそうなのはなぜなの?
口調は怒ったように。
でもどこかがクラウドの心が泣いている。
「だがちょっとは、頼むから無茶をしないでくれ」
ああっ。
この人は本当に心の底から愛してくれているんだとエリザベートは胸を打たれた。
全力で守ろうとしてくれてる。
私を心配してくれてたんだ。
抱きしめる腕に想いとともに力がこもる。
「……お前にキスしてもいいか?」
躊躇らいがちにクラウドはエリザベートに聞いた。
囁きはエリザベートの耳元にほのかな熱さを感じさせる。
エリザベートの両頬をクラウドの両手が包み込む。
クラウドの両手は微かに震えていた。
「クラウド」
エリザベートは胸がぎゅうっとしめつけられていた。
クラウドとキスしたら、何かが始まるかもしれない。
それは愛、だろうか。
「お前を悲しませている男から、エリザベートお前を奪い取りたい」
魂をかけてクラウドはエリザベートを愛そうとしている。
クラウドはエリザベートの唇にゆっくりと唇を重ねた。
エリザベートはクラウドの熱さを感じる。
クラウドの激しい熱い想いのこもった口づけにエリザベートは身を任せた。