第九十四話 船長の頼みごと
無事だった帆船の乗組員が来て大型帆船の船長がエリザベートに会いたいという。
「なんだろう?」
エリザベートは犬の姿の聖獣ジスとともに船長室に向かう。
「俺たちも行こうか?」
ルビアス王子が言ってくれたが、エリザベートはジスと行くことにした。
「ルビアスは巨大ダコの足をかたしてもらえると助かります。毒の瘴気が空中に上がって悪さをしても大変だから」
「ああ、そうだな、分かったよ。承知した、エリザベート」
ルビアス王子はエリザベートを心配げだったが。
乗組員に案内されて船長室を訪れた。
なかには立派な口髭を生やした50代半ばぐらいの体格のいい男性が、きっちりとした服装で操舵室に立っていた。
「魔物を退治して下さり、ありがとうございました。僭越ながら漆黒の勇者さまとお見受けします」
なんだろう?
エリザベートはお礼だけで呼ばれたとは思えなかった。
「いえ。私ができることをしたまでです。それに私だけが戦ったわけではありませんから」
エリザベートに船長は香ばしい飲み物をすすめてきた。
「コーヒーという飲み物です」
「いい香りですね。ありがとうございます」
エリザベートはすすめられた温かい飲み物を飲んでみた。
心がすうっと落ち着く。
少し苦いけどとてもいい香りがする。
「微力ながらワタクシたちも海の安全のために何か出来ないかと思いましてな。ぜひともワタクシどもに、保護魔法を教えていただきたい。危険な航海はこれまでもあったので、少しでも船と乗組員とお客様を守りたいのです」
「そうですか。とても良いかと思います。船長は魔法を?」
「いいえ。ワタクシの孫が今はララの農園で働いておりましてな、魔法使いなのです」
(ララの農園で?)
なんか頼まれごとがどんどん増えていくなあ。
だけど人々の船の旅の安全のためには、保護魔法を使えるのは良いことだよね。
「あとで私の友人達に聞いてからでよろしいですか? 船長」
「はい。ぜひに」
エリザベートはさて誰に頼もうかなと思案した。
大型帆船はアリアたちの防衛保護魔法のおかげか、魔物を寄せつけることなく軽やかに海面を進んでいく。