第九十話 魔獣よ、散れ去れ!
全速力で走り駆けたエリザベートは、大型帆船の舳先に辿り着く。
クラウドの元に着いたエリザベートと聖獣ジスは戦いに備え構えた。
エリザベートに向け、クラウドは心配した顔を刹那見せた。
「エリザベート! 大丈夫なのか?」
「ええ、大丈夫」
クラウドは海面に向けて弓を構えながら、横目にエリザベートの姿を確認する。
――少しだけ驚いた。
戦いに来る気がした。
……それでも。
「お前は本当に無理をする」
エリザベートが心配でクラウドは苦笑いをした。
「ふふっ……。うんっ、無理は出来る時にしないとね」
そんなクラウドを心配させまいと、エリザベートは茶目っ気たっぷりに微笑む。
ルビアス王子も聖獣バルカンも舳先に駆けつけて来た。
ちょうどランドルフから治癒を受けたエリザベートと同じ頃に、ルビアス王子はアリアと聖獣シヴァから解毒魔法を受けていた。魔獣蛸クラーケンの毒から回復し完全に全身を襲っていた体の痺れはとれた。
「本当に大丈夫なのか? エリザベート?」
ルビアス王子は聖剣雷撃のレイピアを握りしめて、構える。
「ええ。ルビアス、あなたは大丈夫?」
「ああ。すっかり」
聖獣バルカンが鶏から火の鳥の姿に変身変化し、三人の背後で護るように翼を広げた。
ヤツの気配を一瞬感じとった。
「気を抜くなっ! ヤツが来るぞっ!」
クラウドが叫んだ!
魔王ヴァーノンが作りし下僕の魔獣たち。
魔王の仕い魔である魔獣巨大蛸クラーケンが再び海面に現れた!
クラウドは構えた弓から鋭く矢を何本も次々に放った。
矢は加速して、ルビアス王子がその矢に聖剣雷撃のレイピアを向けた。
ルビアス王子が呪文を唱える。
聖剣雷撃のレイピアから雷と魔法陣が放たれ、加速する矢を包み威力を拡大して、魔獣巨大蛸クラーケンの頭を貫く。
――バリバリバリッ!!
つんざく様な凄まじい衝撃を周囲の空間に与えて雷鳴が轟き渡る。
空中に稲妻が数本、疾走っていく――。
再びクラウドが矢を放ち、ルビアスがレイピアと攻撃魔法で強化して次は魔獣巨大蛸クラーケンの目を貫いた。
魔獣巨大蛸は痛みに怒り狂いながらも墨を吐く。
「〈ギャアアアアッ!〉」
魔獣巨大ダコが咆哮をあげる。
「その墨に気をつけろ!」
クラウドが叫ぶ。
魔獣蛸の吐いた墨は舳先に当たると当たった部分が溶けた。
「信じられんっ」
ルビアス王子が魔獣巨大ダコの放つ墨から間一髪で避ける。
魔獣巨大ダコの墨で船が木材が金属が溶けている。
人に当たればたまったものじゃない。
聖獣ジスがエリザベートを乗せ、背後から聖獣バルカンが翼から出した援護防御魔法でエリザベートとジスを魔獣の攻撃から護る。
「はああぁっ!」
ルビアス王子が聖剣雷撃のレイピアを力強く巨大ダコに横一文字に振り斬ると、激しい雷鳴とともに雷が放たれた。
魔獣巨大ダコは雷撃に痺れ体が動かなくなる。
「くたばれっ!!」
次いでクラウドが戦斧バトルアックスを力のままに振り上げ炎の柱を魔獣巨大ダコに撃ちつける。
魔獣巨大ダコは炎に包まれ焼け焦げていく。
聖獣ジスはエリザベートを乗せたまま飛び上がる。
燃えさかる魔獣巨大ダコの真上に来た。
「散れっ! 魔獣ー!」
聖獣ジスの背中に乗ったエリザベートが両手で聖剣エクスカリバーを握りしめて、思いっきり力をこめて振り斬った!
エリザベートがエクスカリバーから放つ氷の柱は海水を巻き上げながら、どんどん巨大な氷柱を作る。
やがて威力を増した氷の矢となって、魔獣巨大ダコを貫いた。
魔獣巨大ダコの頭の後ろから氷の矢は突き抜け、魔獣巨大ダコは氷漬けになる。
魔獣巨大ダコは白い氷の花となり、ゴゴゴッと音を立てながら割れた。
キラキラと魔獣巨大ダコの魂が天昇する。
「終わった」
「やっと死んだか」
「なかなかにしぶとかったな」
三人と一頭と一羽は昇りゆく魔獣巨大ダコの魂を見上げた。
エリザベートはふっと息をひとつつき、天を仰いだ。