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第八十七話 魔王の仕い魔獣巨大蛸クラーケンに挑む

 クラウドは走りながら、帆船の乗組員の中に弓を握りしめ構え持ったまま放心状態の者を見つけた。

 微かにガタガタと震え、魔獣蛸に圧倒されたのか金縛りにあったように身動きが出来ないようだ。


 歯が立たないと諦めたのか魔獣巨大蛸クラーケンの恐ろしさにやられたのか、一向に海に矢を放つ気配はない。


「そこのお前っ! 弓矢を貸してくれ!」

「はっ、はい!」


 クラウドは走る足は止めずにその乗組員から弓を投げてよこしてもらう。

 口に矢を何本かくわえて、戦斧バトルアックスをいったん背中の革ベルトに差し込んでしまった。

 帆船の舳先へさきに来たクラウドはじっと海面を見た。


 先程の攻撃で魔獣巨大蛸クラーケンはやられたように見えた。


「ヤツはまだくたばってねえな」


 感触がなかった。

 クラウドの長年の戦の勘が、まだ終わってないことを告げていた。

 弓を構えながら、じっと待った。

 絶対に魔獣巨大蛸クラーケンは逃げてもいない。

 必ず魔獣巨大蛸のヤロウはじっとその時を探っている。

 人間たちが気を許した瞬間を襲う気だ。


「タコのくせに生意気な」


 クラウドはじっと舳先へさきで魔獣巨大ダコがしびれをきらして海面に顔を出すのを待っている。


「お前はにがさん」


 クラウドは気配を殺した。


「危うくエリザベートが死ぬとこだったじゃねえか」


(――俺はもう愛する者は失いたくない。くそっ、……エリザベートをみすみす死なせるものか!)


 クラウドは許せなかった。

 愛した女を傷つけるものが。

 エリザベートをあんなふうに苦しめたものは、俺が許さん。


(俺がクラーケン、お前を叩き斬ってやる!)


 クラウドは怒りは湧き上がりつづけて、全身に満ち満ちていた。

 怒りに触発された力はみなぎる。


 エリザベートを愛するがゆえに、エリザベートをおびやかすものに憎悪を覚えていた。

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