第八十話 旅立ちの朝
この日エリザベート一行は、パパイナ島から旅立つことにした。
エリザベートは、ここパパイナ島で多くの出会いと再会を経て、短い日にちでも長い月日に考えられるほどに感慨深かった。
「お世話になりました。ありがとう」
「みんな、気をつけるんだよ」
そう言ってベルマンの妻キッキは、エリザベートとアリアの手に何かを握らせた。
エリザベートとアリアが手を開くと、それは手作り木の実で出来た可愛い髪飾り。
キッキは夜中に作り上げて、エリザベートとアリアにプレゼントしてくれたのだった。
「わあっ、ありがとうございます。すごく素敵っ……」
「まあ、とてもきれいです。ありがとうございます」
エリザベートとアリアはさっそくプレゼントの髪飾りをつけた。
二人とキッキは涙が溢れて止まらなくなった。
エリザベートとアリアがキッキにお礼を言うとキッキは二人をさらに泣きながら嗚咽混じりに抱きしめた。
「こんなに可愛い女の子たちが魔王に立ち向かうだなんて……。良いかい? 生きて必ず無事に戻るんだよ。なんなら逃げたって良いさ!」
キッキはお母さんみたいだ。
わあっとキッキは激しく泣いた。
「無茶すんじゃねえぞ。エリザベート。他のみんなも」
ベルマンが男泣きした。
そしてぐいぐい服の袖で涙を拭って、気合いを入れるつもりかランドルフの背中をバーンッと勢いよく叩いた。
「しっかり二人を守るんだぞ! 男ども!」
「いたっ。痛いなあっ! もうっ。なんでボク?」
なんでボクだけ叩かれんだよ。
ランドルフのそんな情けない姿が滑稽で、笑っちゃ悪いと思いながら一同は笑ってしまった。
「さようなら」
名残り惜しかった。
ベルマンもキッキもいつまでもエリザベートたちに手を振り続けた。
――いつかまた必ずここを訪れよう、温かい二人が居る宿に戻って来よう。
エリザベートのオレンジ芋はみんな売れた。
売れて受け取った代金は宿ベルマンに全部置いてきた。
いつもよくしてくれる二人にお礼のつもりで、エリザベートの手紙と共に。
思えばオレンジ芋を売りにこの島に来ただけだった。
行きの道は、エリザベートと聖獣ジスの二人だけだった。
オワイ島への帰り道は、こんなにもたくさんの仲間と共にいる。
エリザベートはパパイナ島を去りがたくもあった。
だが、目の前の道を力強く進む。
もう前を向かなくてはならないからだ。
必ず私はまたここに来るよ。
エリザベートは仲間たちと共に魔王の待つ茨の道を、前へ前へと一歩一歩勇敢に進んで行くのだ。