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第六話 驚きのなかの確信
男はしばらくのお忍びの宿にお菓子工房の二階を借りていた。
「はあ、びっくりした。だがやっぱりそうに違いない」
伝え聞いた外見とはだいぶ違うが。
黒い豊かな黒髪だったはずだ。
あの者は髪は短く金髪であったし。
だがあんな獣を従えているではないか。
一緒にいるのは魔物ではなかった。
禍々《まがまが》しくはない。
コツコツコツ。
(誰か来る)
階段を上がってくる。
店主の足音の特徴ではない。
コンコン。
戸がノックされた。
出るか、否か。
男は意を決して出ることにした。
スッと手を伸ばして長い愛用の剣を握る。
「誰だ?」
短く問うと美しい爽やかな声がかえってきた。
「忘れ物です」
ギイッ。
古い木の薄い扉を開けると。
「あっ」
「どうも。イルニア国の第3王子のルビアス様ですね。忘れ物ですよ」
先刻の少女がいた。
黒耀石の瞳。
強い輝きの瞳。
確信したのだ。
この者がずっと探し続けた人物であると。