第六十七話 抱きしめられて
エリザベートはルビアス王子と恥ずかしさもあり気まずくて、ほとんど二人して無言で宿に戻って来ていた。
宿の入り口でルビアス王子はエリザベートの方に振り向いて告げた。
「俺が君を好きなことを忘れないで。……戦いでそれどころではなくなるだろうけど」
「ありがとう、ルビアス王子。そんな風に言ってくれて」
二人してそう言うのが精一杯だった。
ルビアス王子が二階の部屋に向かった。
エリザベートが横の炊事場の方をふと見ると、クラウドが服の袖を腕まくりをして、腕を組みながら柱によりかかりこちらを見ていた。
クラウドのじっと見つめる視線に耐えられず、エリザベートのほうから口を開く。
「キッキさんの手伝いをしてたの?」
「ああ。まあな」
「私も手伝おうかな?」
エリザベートはクラウドに悟られないように何事もなかったように明るく言った。
「あらかたすんだから、大丈夫だ。あとは魚を煮詰めるだけだ」
クラウドがこちらに向かってくる。
エリザベートの帰りが遅いので、クラウドは料理をしながら本当はすごく心配していた。
クラウドは、エリザベートがイルニアの王子と外に出て行ったのを早い段階で気づいていた。
「お前、なにかあったのか? エリザベート」
「なにもないよ。クラウド」
「……エリザベート。ここに涙のあとだ」
クラウドはエリザベートの頬をなぞった。
「大丈夫! さあ夕飯が出来たら食べながら今後のことを決めよう」
クラウドがエリザベートをじいっと見た。
「イルニアのくそ坊主になにか泣くような事を言われたか? あいつとなにかあったのか?」
クラウドの射抜くような視線にたじろぐ。
エリザベートは見透かされる。
いつだってこの人はこうだ。
大人な分、エリザベートの気持ちを分かってしまって核心をついてくる。
痛いところを響くところをついてくる。
「なにもないって。……クラウド。私、……私は大丈夫だから」
エリザベートは二階に行こうと階段がある方に踵を返して向かった。
「待ってくれ」
「――あっ!」
「……エリザベート」
気づくとクラウドに後ろから抱きしめられていた。