第六十五話 プロポーズは突然に
船が行き交う港のすぐそばの海岸には、ポツポツとまばらに人影がある。
日が暮れた海辺に、数人の恋人たちがいて肩を寄せ合い身を寄せ合い愛を語り合っているようだった。
砂浜を歩くとジャリジャリっと小気味いい音がして、つい履き物を脱いで裸足になり波に足先を入れてみたいという衝動に駆られる。
エリザベートが生まれたランドン公国にも海はあったが、小さい時から公国の魔物討伐の為に組織された騎士団の指揮官で祖父のローリングに剣術や武術を習っていたエリザベートには海で遊んだ記憶はなかった。
こうして大きくなってから訪れた、海に囲まれ楽園のようなオワイ島やパパイナ島が大好きになっていた。
「エリザベート」
ルビアス王子が緊張気味に口火を切った。
波の音が静かにあたりに優しく響き、月明かりが明るかった。
時々海に飛び上がった魚の鱗が月明かりを反射した。
そしてイルカがあちらこちらで顔を出す。
「はい? なんでしょう?」
「エリザベート。――君が好きだ」
胸がドキンとした。
こんなに真正面から好きだと言われたのはいつだったろうか。
アルフレッド大公に魔王討伐に向かう日に城門で言われたのが最後ではないだろうか?
「君さえ良ければ俺と結婚してくれないか?」
「わっ、私……」
ルビアス王子はこれ以上ない真剣な眼差しで熱くエリザベートを見つめる。
そしてエリザベートの手を取りルビアス王子は砂浜に膝をついた。
「エリザベート、俺たちは出会ったばかりだ。君には大切な人がいたことも伝え聞いている。だが俺たちは縁起でもないかもしれないが、いつ死ぬやもしれない身。君にこの想いを伝えずして死ねるか」
「……ありがとう、ルビアス王子。でも私、……まだ自分の気持ちがわからないの。頭が魔王を倒すことばかりで。あと貴方が真剣だから正直に言うわね。忘れられてないの。大好きだった大公のことが。大公は婚約した私を捨てて結婚しちゃったのにまだ好きなの。馬鹿みたいでしょ?」
そう言うエリザベートの頬に一筋の涙が流れた。
「それでもかまわない!」
ルビアス王子は立ち上がるとエリザベートを抱きしめた。
想いのままに強く抱きしめて、エリザベートに思いのままに口づけた。
熱いルビアス王子のキスに思わずエリザベートは心を砕きそうになったが、エリザベートの心は迷いがあって決められなかった。
ルビアス王子の真っ直ぐな気持ちに、その気持ちが純粋に向けられたものであればあるほどに、エリザベートには中途半端に応えられるわけもなく……。
どうしようもなく揺らいでいた。