第五十八話 解き放たれる魔法の鳥籠
「やれやれだね。エリザベートは昔からモテるからなあ」
アリアと二人の猛者のやり取りが黒の魔法使いランドルフには聞こえていて、彼は誰にも聞こえないぐらいちっちゃく呟いた。
逃げ出さないようエリザベートたちの作る大きな円陣に囲まれたようになっていた黒の魔法使いランドルフが、おもむろにすっくと立ち上がると一行がざわめいた。
「ランドルフ!」
エリザベートが睨みをきかす。
クラウドもルビアス王子もランドルフがなにかしようものなら斬りすてるとばかりに、各々《おのおの》の武器に手を添えている。
「いやだなあ。なにもしないよ。あのねえ、するわけないだろう? ボクが作った完っ璧な魔法紙によって呪縛された以上、エリザベートにとって不都合なことは出来ないしね」
黒の魔法使いランドルフは聖獣シヴァが入った鳥籠に触れた。
「これは実に面白く難儀だ」
ランドルフはにやあっと笑った。
「触るな!」
ランドルフの行動が気にくわない聖獣セイレンが怒って、なおも鳥籠を眺めまわして触りまくるランドルフを蹴り上げようとした。
「まずこれだろう? 君の頼みごとは? エリザベート」
ランドルフは勘が鋭くこういうことは察しが良い。
「よくわかったな。ランドルフ」
「まあね。この鳥籠に閉じ込められているのは聖獣だし、この魔法は高等魔法だ。壊せば良いのかな?」
困難な魔法を解くことにニヤニヤしながら挑もうとするランドルフはつくづくひねくれていて歪んでいるとエリザベートは思った。
聖獣ジスはイカレているとランドルフを睨めつける。
聖獣セイレンは状況がわかり、ランドルフを蹴り上げるのは思いとどまったが、聖獣シヴァになにかしたらただじゃおかないとジイっとランドルフを監視する。
「出来るんですか?」
聖女アリアが心配げに、でもやや期待を込めて聞いた。
「出来るのか? お前に?」
クラウドも半信半疑だ。
「……君、魔法力は高そうだな」
ルビアス王子にはランドルフの能力の度合いがわかるようだ。
「見限るなよ、このボクを。ボクを誰だと思ってるんだい? ボクはランドン公国一の天才黒魔法使いだからね」
ランドルフは悪党に近いと思う。
いや己の欲望に忠実なれっきとした大悪党だと思う。
だが悔しいが魔法使いとしての腕は立つのだとエリザベートは思い知っていたのだ。