第五十七話 西国の獅子とイルニアの鷲は因縁の仲
「クラウド、ルビアス王子。もしかして二人って、知り合いなの?」
エリザベートは、クラウドとルビアス王子の二人を交互に見ながら問いた。
聞かれた二人の間には、気まずいなんとも言えない雰囲気が流れている。
「俺のいた西国パラジトとこいつの国イルニアは長年犬猿の仲でな。何度か戦でも対決したことがある」
クラウドは厳しい表情でルビアス王子を見やった。
「こいつ呼ばわりか? 失礼だな将軍クラウド。……悔しいが直接対決では俺は貴殿に勝ったことがない」
エリザベートにはルビアス王子が語る話には、悔しげだがしかしどこかクラウドに対して尊敬の響きが混じっているように聞こえた。
「俺はもう将軍ではない、故に国はこの身に背負わない。漆黒の勇者エリザベートの仲間になった、ただのシェフのクラウドだ」
クラウドが力強く宣言する。
「貴殿がシェフに?」
「そうだ」
「西国の獅子と恐れられた将軍クラウドが、一介のただの……旅する勇者一行のシェフとして?」
「そうだ。――そして俺はエリザベートたちと魔王を倒す」
エリザベートをまっすぐにクラウドは見つめた。
「クラウド、国を棄てたのはそのためか?」
「棄てたのではない、……理由は別にある。旅立ったのはエリザベートに会う、かなり前の話だからな。単に俺は引退したまでだ」
バチバチと二人の間には一触即発の炎が上がっているようで、そこに油を注げはすぐにでも斬り合いが起こりそうだ。
エリザベート達は気が気ではない。
「二人ともくれぐれも喧嘩しないでよ?」
「ぐっ……」
「うっ……」
エリザベートに言われてしまっては、二人には返す言葉がない。
パラジト国周辺に畏怖を轟かす将軍クラウドと、イルニアの若き鷲と賛美されるルビアス王子もかたなしだ。
エリザベートは聖獣ジスの元へ行き、ジスに聖剣エクスカリバーの封印を本格的に解いてもらっている。
今までは農具のクワに変化したりしていたが、もうその必要はないと思った。
聖剣エクスカリバーの力を完全に解放する。
エリザベートは漆黒の勇者としてまた堂々とあろうと思うのだ。
――私は、私の存在を明らかにする。
私は魔王を倒して、注目をされたくはなかった。静かに隠れて水面下にいた。
穏やかに、暮らしたかった。
けれどもう私は現実から逃げない!
勇者としての私を、明らかに世間に知らしめる。
私がそうすることで、少しでも魔王や魔物の恐怖する存在に怯える人々が希望の光を持ってくれるならば――。
エリザベートは、力を完全に解放された聖剣エクスカリバーを握りしめ闘志を燃やしていた。
そんななか、クラウドとルビアス王子の元にアリアがやって来た。
一人だけ、天然娘のアリアだけはなんだか目をキラキラさせている。
「お二人は好敵手なのですね?」
「うむ?」
「まあ」
アリアはニコニコして爆弾発言をする。
「ウフフッ。お二人はこれからは、恋のライバルでもありますわねっ!?」
「……」
「……」
西国の獅子とイルニアの鷲は押し黙った。
そして認識したのだ。
【――ああ、こいつもエリザベートを好きなのか】