第五十二話 魔王側近現る
そろそろだろうか。
猛狂ったように荒んだ吹雪はおさまりつつある。
先ほどまで外は猛烈な吹雪で真っ白だった。一寸先も見えなかったが視界が開けた。
不意に聖獣ジスがナニかを感じとり、ブルブルッと体を震わす。
「この気配……。エリザベート!! 魔物が来る!」
聖獣ジスが低く吠えた。
「ウゥゥォォ…」
エリザベート達は警戒を強める。周囲の気配を探る。その場に緊張が疾走った。
ジスがさらに遠吠えをすると光眩い銀の狼は大きく身体を変化して、聖獣セイレンもユニコーンにハムスター姿から変化する。
エリザベートが体中に力をこめるとエリザベートは淡く光り輝き、漆黒の兜が現れかぶり、漆黒の鎧とマントを纏う。
聖剣エクスカリバーは淡く光りだす。
辺りに魔物の出す邪気が張る。
漂い始めた魔障が空気を悪く、息苦しくさせる。
ぴりぴりとエリザベートの肌に殺気が感じられて、危険をさらに予感させられていく。
「みな、隠れてっ!」
「アリアさん! ダンバっ! 洞窟の奥に行けっ!」
エリザベートとクラウドはそれぞれ聖剣エクスカリバーと戦斧バトルアックスを構える。
アリアと鳥かごの聖獣シヴァ、子猿サンドとダンバは洞窟の奥に後ずさりした。
皆は岩陰に伏せて隠れる。
「フフフ……久しぶりですなあ。漆黒の勇者エリザベート」
「――お前は!」
魔物特有の禍々《まがまが》しい気配をまとってコウモリ男が浮かんでいる。
真っ黒に染まった翼をバサバサと上下に動かし、真っ赤な口をニタリと開けた。
鋭い牙が覗く。
「お忘れではあるまい。この私めは大魔王側近ブレロンである。こたび大魔王ヴァーノン様の直々《ぢきぢき》の命により、漆黒の勇者エリザベート、貴女様をお迎えに上がりました」
「私はお前とは行かない!」
エリザベートはありったけの声で叫んだ。
「魔王の迎え?」
(エリザベートを魔王は殺すのが目的じゃないのか?)
クラウドが顔をしかめた。
「ほほう。この前の戦いより随分仲間が増えましたなあ」
コウモリ男が指を鳴らす。
コウモリ男は一瞬で燕尾服に着替えた。
「魔王ヴァーノンはやはり生きているのか?」
エリザベートの問いにコウモリ男はニヤリと笑っただけだった。問いかけに答えはない。
「そこの男はまあまあ腕に覚えがありそうだ。勇者の戦士ですかな」
魔王の側近と名乗ったブレロンはわざとらしくお辞儀をしてかしずいた。
「ふむ、今日はご挨拶のみで帰ろうとしましょうか。漆黒の勇者エリザベートを見つけただけで、大魔王様は大変お喜びになりますからな」
コウモリ男はそういうと呪文を詠唱しフッとエリザベートたちの前から消え去った。