第四十九話 モンキー山と山賊ダンバ
まださほどモンキー山の傾斜は急ではなかった。
エリザベートたちは山賊団の一人だったダンバの案内で早いペースで登り進める。
クラウドが用意してくれた防寒具がありがたい。
エリザベートはかさばる荷物はすべて聖獣ジスの不思議なリュックに詰めてきた。
ただエリザベートもクラウドも聖剣エクスカリバーと戦斧バトルアックスを背中に革ベルトで取りつけて、すぐに戦えるように臨戦態勢は崩してはいなかった。
吹く風も幸い穏やかでエリザベートたちは天気がもちますようにと祈る思いだった。
温暖な気候のパパイナ島だがそびえ立つ山々だけは違う。
一年中をとおして暖かくいつでも海水浴ができて薄着で過ごせる沿岸や内陸地と違い、山は時折雪が降るほどに気温が下がる時期があったり、この島は夏と冬が混在していた。
北の大地ルーシアスから来た聖女アリアは寒さに慣れているからか山の気候があまり苦になっていないようだし、暑い西の大地パラジトから来たクラウドも鍛えているからか、山登りを苦にはしていない。
もちろん漆黒の勇者エリザベートも聖獣たちも様々な地を渡り歩いて鍛えてきたので、その足取りは力強い。
ダンバだけは辛そうだ。
「大丈夫? ダンバ?」
エリザベートが体調を気にかけて話しかけると、少々高山病の兆候が出ているのか顔が青白い。
「ハァハァ……だっ、大丈夫ですだ」
「いや休んだほうが良いな。山は恐い。甘くは見れんだろ」
クラウドの釘さしの言葉でエリザベートは休憩を取ることにした。
「みんな、少し休もう」
エリザベートは一同に判断を下す。
この判断は功を奏した。
山の崖のくり抜かれた僅かに開けている場所に洞窟が見え、エリザベート達が休憩を取った矢先に急に山の天気が荒れ出した。
伸ばした自分の手のひらすら見えなくなるほどの吹雪が襲いくる。
猛烈なブリザードがあたりを包んだ。
「ふう……。良かった!」
「俺たちはツイてたな」
「あのまま向かっていたらまずかったですね」
皆が適当な大きさの岩に腰を下ろし、辛かったのだろう、ダンバはすかさず横になった。
エリザベートはダンバに毛布と湧き水を入れた水筒を出してやる。
クラウドが水の手袋を片方外して、洞窟内に散らばっている小枝を手早く集めて戦斧バトルアックスをひと振りすると、火がまたたくまに起こされて焚き火ができた。
エリザベートも手早く集めた小枝は足し火のために吹き込む雪にやられないように洞窟の奥に確保する。
「しっかしダンバお前は山賊団のくせに、自分のアジトに行く前にへばってどうすんだ?」
クラウドはあきれていた。
聖獣ジスも加勢する。
「お前山賊のくせに山が弱いだなんて滑稽だな」
「そんだらこと言われたって、まんだよ山賊には入りたてで一度しか来たことねえんだから」
ダンバはまだ本当に山賊に加わったばかりのようだ。
「前はどこにいたの?」
何気なくエリザベートは聞いたのだ。そう、日常会話であり、気軽なお喋りである。
「ランドン公国に住んでただ。歩兵隊だっただよ」
「――ッ! あなた、ランドンからなの……?」
エリザベートは初耳であったのだ。
この時はじめてエリザベートは、山賊ダンバがランドン公国からパパイナ島に来たことを知った。