第四十五話 女神は語りて
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これは、漆黒の勇者エリザベートが魔王を倒す前のことである。
「ジス」
美しく心優しい女神イシスは、水辺を眺めてはため息をついていた。
天界の聖獣ジスは銀の狼の姿で、そんなイシスをじいっと憂いをこめて見つめる。
(大好きなイシスが悩んでいる)
漆黒の勇者となる者を、生まれてからすぐのエリザベートに決めてから、次は仲間になるべきものを探していた。
彼らには愛する聖獣をつけることにした。
だが彼らはなかなか己の運命に気づくことはなく、エリザベートのもとにはなかなか集うことがなかった。
ジスは分身をイシスの傍においていたが、いよいよそうはいかない魔王が迫る状況になり、人間界に行くことにした。
それまでは魂の半分は古文書の姿に化けて人間界を見、半分は女神イシスとともに存在してた。
聖獣ジスは自分の魂すべてを人間界に置いて、エリザベートのそばで見守ることにしたのだ。
「俺は行くべきだろう? イシス」
「ええ。エリザベートをよろしくね」
エリザベートの仲間は自らの意志で加わらなければ意味がない。
しっかりとした気持ちがないものが、エリザベートの仲間になっても助けにはならない。
もし彼らがエリザベートと共に歩めないのならば、違う者を選び聖獣を加護につけねばなるまいと女神イシスは思っていたのだ。
「ねえ。人々は人の世の運命は自分たちで切り拓くものだけれど、こうして世界を救う手助けを私はしてもいいのよね」
「当たり前だろ? 魔王は人間じゃないんだ。大いなる敵に立ち向かうちょっとの奇跡ぐらい人間たちにあげてくれよ」
「ふふ。ジス、あなたは優しいのね」
「人間界を遠くから護るのも神々と聖獣の仕事だろう?」
「そうよね。だけどね、心配なの。ジスが傷ついてしまうんじゃないかって」
「俺が? 心配ない。俺はイシスあなたのそばに戻る」
女神イシスは聖獣ジスの首ねっこにしっかり抱きついた。
「行ってらっしゃい。必ず戻って来てね」
「ああ」
少女のようにあどけない女神イシスが、聖獣ジスにいつまでも手を振り続けていた。
彼女はジスの姿が見えなくなっても尚、愛おしげにいつまでも細い腕を伸ばし手を振り続けていた。
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