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第四十三話 エリザベートとクラウドの本気の手合わせ

 クラウドは、聖獣セイレンがプルプルと重みで全身震えながら差し出す斧の形状の武器バトルアックスを両手でがっしりと受け取る。

 戦斧せんきバトルアックスは真珠のように白く輝き、柄の部分はすらっと長く斧の部分は力強い光をキラリと光らせている。

 斧の部分の上には鋭い槍がついていた。

 両手で持てばずしりと重たくもあり、斧の芯を片手に持ち握り振るとなぜか軽くもある不思議さがあった。


(――なんだこの武器は? 重さが動きで変わって感じられる)


 斧自身が自在に持ち主の戦いに合わせて動き方によって攻撃にかかる重力を変えるのか?


 まさしく神の与えし地上にない稀なる武器――だ。


「フッ……、かっけえな」


 クラウドは握りしめたバトルアックスの手応えに顔がほころび、おのれの体のうちから戦闘魂のくすぶるほのおを感じた。


「こいつは格好いいぜ」


 クラウドがビュンとひとまわしすると、斧の刃から火の粉が舞った。


「クラウド、戦斧せんきバトルアックスの属性は火です」

「おい、セイレン! もし近くにでもあればこいつで焚き火も簡単に出来るのか?」

「……出来ますけど。たぶん」

「この飛び散る火の粉は燃え移ったりしないのか?」


 聖獣セイレンはまたお守り袋みたいなアクセサリーをガソゴソしてなにやらクラウドに投げた。


水の手袋(ウォーターグローブ)です。使えば火の粉は飛びません。クラウドも鍛錬して戦斧に慣れてくれば、水の手袋(ウォーターグローブ)を装備しないでも火の加減や火粒の行き先のコントロールが出来てくるようになると思います」

「ふーん。そうか、サンキュー」


 受けとった手袋を素早くはめると戦斧を振り構えた。

 クラウドは踊りながらバトルアックスを扱っているようだった。

 手の感触、バトルアックスの重さ、振り幅を確かめるように、頭上や腰の周囲をくるくると戦斧せんきを回転させながら体に存在を慣らしていく。遣い手の自分に馴染ませるように。

 楽しげにすら見えた。

 振りかざすさま、斧を体の周りで器用に回したりするクラウドは、一挙手一投足ビシッと決まっていて力強い。

(――まるで演武のようだ)

 エリザベートも聖獣セイレンも見惚れていた。目を見張った。


 クラウドは剣の道の型をいくつか知っているようで、しなやかでとても鮮やかな斧槍さばきだった。


「行くぜっ! ……エリザベート!!」

「――なっ!」

「受け止めてみなっ!」

「うっ……、はあぁっ……!」


 突如クラウドがエリザベートに向かって素早く斬りこんでくる!

 エリザベートは秒で鞘に収まっていたエクスカリバーを抜いた。


(くっ、早いっ!)


 ガキーンッ……。

 ぶつかった聖剣と戦斧の澄んだ金属音が共鳴しながらあたりに鳴った。

 エリザベートの聖剣エクスカリバーがクラウドの戦斧せんきバトルアックスを受け止める。

 こめかみに浮かんだ一粒の玉の汗がつつっと流れた。

 一瞬の静寂――。

 エリザベートを試したクラウドの気迫が瞬間的に消えた。訝しんだような眉根を寄せたエリザベートの眼前にニヤリと嬉しそうに笑うクラウドの悪戯な笑みがあった。


「もう一度っ!」

「ふはははっ。……やるねえ。俺の本気の不意打ちの一撃をかすりもせず無傷で捉えたのはあんたが初めてだ」


 エリザベートはクラウドの肩を斬りつけにかかり、クラウドがすぐさま後ろにザザッと跳び退ける。


「クラウド! 気を抜くなっ」

「ハハハッ。これはすまんっ! 驚きと嬉しさでっ、……つい頬が緩んじまいそうだ、エリザベート」


 重々しくも、名剣名槍の神々しく純粋な金属音が鋭く辺りに再び響き渡ってる。


 さらに地面を蹴ってなおも勢いは止まらずに、クラウドはエリザベートに斬り込んでいく!

 本気だっ――!

 エリザベートは重心を低くして両足を踏ん張り、バトルアックスを両手で構えたエクスカリバーでぎ払った。

 

 エリザベートの額から汗の雫が飛んだ。


 ――なんでっ。なんで気づかなかったんだろう!

 この人はただ者ではない。


「嬉しいねえ。俺は世間でなにかと噂の漆黒の勇者エリザベート様といつか剣を交えてみたかったんだよ」

(クラウド……クラウド……)

 エリザベートは、その名に聞き覚えがあった気がした。

 はっ! と、エリザベートは気づいた。思い当たる節を見つけた。


「あなた、……まさか? ――あなたがあの将軍クラウドなの?」

「ふははっ。そう呼ばれてたこともあったかなあ? アンタと一度戦いたかったなんて今更思い出したよ」


 猛者もさ――だ。

 中央大陸、西の大地砂漠のパラジト国に、荒々しい豪鬼なる男がいると噂に聞いていた。


 戦場に名を轟かせる荒ぶる獅子の如き勇猛な戦士がいる――と。そう、エリザベートの元に伝わってきていた。

 名将の聞こえ名高い将軍とエリザベートは憶えている。


 “西国さいごくの獅子”クラウド。


 剣も扱え、大槍の名手の“西国の獅子"のクラウド将軍は、まさにこの男ではないか?


 彼は引退したと聞いていた。

 まさか将軍をやめた後に、木こりでシェフだなんて。


 エリザベートとクラウド。

 漆黒の勇者と西国の獅子クラウド元将軍。

 汗が飛び散り、覇気が舞う。

 二人の剣と戦斧の白熱する手合わせはまだまだ続く――。

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