第三十九話 星の瞬き
「あっ……」
エリザベートが宿の庭に出ると、シェフのクラウドが木の上に腰かけ太い枝に背中で寄りかかっていた。
子猿のサンドは、クラウドの肩で器用に眠っている。
クラウドは妻の形見の白樺で出来た魔法の杖を静かに小さく振っていた。
クラウドは魔法使いではないので、杖から魔法は出ない。
魔法が使えないのは分かっているのに振ってみたくなるのだ。
(ナターシャ)
亡き妻のナターシャのように、魔法が使えたら。
人が甦る魔法が自分に使えたなら。
そう何度、願ったことだろう。
クラウドは口にハーブのミントをくわえながら天を仰いだ。
エリザベートの気配に気づく。
「ああ、エリザベート。……いたのか」
「ごめんなさい。驚かした? 私、剣の稽古がしたくて」
「偉いんだな」
ヨッと。
クラウドは木から飛び降りると、エリザベートの横に並ぶ。
「エリザベート、昼の剣さばきは圧巻だった」
「ありがとう。……ねえ、クラウド? 私の剣稽古の相手してもらえる?」
「んっ? ――俺に?」
エリザベートは純粋にクラウドの実力がどれくらいか知りたかった。
自分が目の前の魔物に集中しすぎて、またはアリア達を防御している間放っておいてもクラウドはどのくらい戦えるか持ちこたえるか知りたかったのだ。
「クラウドって戦いが必要な時があったら、たとえばなにを使うの? 剣? 武術?」
「まあ、俺は斧だな。元は木こりだから。それと手刀を使う」
「そっか、クラウドは斧か。明日、買おう」
エリザベートは顎に手をやりながらじっと考えてる。
「シェフに転身して辞めたから斧は持ち歩いてないけどな」
「そりゃあ、そうよね。普通シェフには斧なんていらないよね。そういやさっき、ジスが寝る前に話してくれた聖獣に戦斧バトルアックスを管理している子がいるっていってたなあ」
その時――!
一つの星が大きく目が眩むほど光り瞬いた。