第三十二話 聖獣ジスと癒しの聖女
力強く美しい。
圧倒されるその姿に釘付けになる。
漆黒の勇者エリザベートに、アリアは心奪われた。
ここにいる誰もが、あっと息をのむ勇ましき戦い。
その滲み出る威厳と美しさ。
「大丈夫? ジス?」
カトリーヌはまだ鎧を着けたまま聖獣ジスに駆け寄る。
ジスはアリアに支えられて苦虫を潰したように渋い顔をした。
わりと傷は深い。
毒矢だったらしく、ジスは体が思うように動かない。
「私が癒しましょう」
アリアが両手をジスの傷口に当て祈ると、不思議な魔方陣が光りながら現れてジスを暖かく包み込む。
やがて傷口はふさぎみるみる消えていった。
「ありがとう。アリア」
「ううん。良いんです」
「ジス!」
カトリーヌはジスを思いっきり抱きしめた。
「くっ苦しい」
そう言いながらもジスは嬉しそうだ。
「悪かったなあ、心配かけて。泣くなよカトリーヌ」
「だってごめんなさい。私が隙があったんだよ」
ホッとした。
もう身近な誰かを失うのは嫌だった。
「漆黒の勇者エリザベート様。我々のアジトまで案内しますだ」
ランドン公国軍の歩兵隊だった男だった。
「俺たちはアンタにつくよ。どうか使ってやってくれ。頭とは別れる」
リーダー格の男もそう続いた。
盗っ人たちは地面にかた膝をつき、カトリーヌに忠誠のポーズをとった。
先程まで倒れていた者たちも起き上がり他の者たち同様に忠誠を誓う。失神させられただけで傷はないのだ。
「カトリーヌ?」
「……」
「そういや良かったのか? 勇者の力の封印を自ら解いちまって」
「良いの」
カトリーヌは前を向いた。
その瞳には決意が滲む。
「私はエリザベートに戻るよ」
「それって」
「うん。私は再び漆黒の勇者になる。
あなたやアリアや、大事な人たちを守るために。――救われるべき人たちの為に」
漆黒の勇者エリザベートは聖剣エクスカリバーを固く握りしめた。
戦わなくちゃ。
ううん、戦いたい!
逃げていてはいけない!
この運命を受け入れ、私は戦う。
前を見つめる。
やっと純粋に、まだまだ戦える自分を嬉しく思った。
大事な人たちの為に、自分には戦える力があることを、エリザベートは忘れないように胸に刻んだ――。