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第二十九話 ドーナッツ

 カトリーヌとアリアは、ジスの指示の元にずんずんと行く。ひたすらに歩いていく。


 街はずれに来ていても、カカアカラは騒々しくて人々の声や生命力に溢れ活気があった。

 聞いたことのないような異国の陽気な歌や音楽を奏でるものたち。

 香ばしい魚や肉の焼ける匂い。

 売り子達がせわしなく客をつかまえようと声をかけたり「試しにいかが?」と愛嬌をふりまいている。


 人々が行き交い、商売をして買い物をしたりして皆がいきいきとしている。


 魔王を倒してから世界はまた動きだしたんだなとカトリーヌはあらためて感慨深かった。


 平和になって良かったと思うのだ純粋に。


「パンとハムを買って行きましょうか」

 どんな事態になるかは分からないから食料と水は必須だ。

「まあ美味しそうですね」

 門まえ通りの店主が一人でやっている小さな店にパンにハムとレタスとチーズをはさんで軽く焼いたものが店先に並んでいる。

 果物を包んだものも一緒に並んでいる。

『ベリーだ! カトリーヌ! 買ってくれ』

 聖獣ジスは犬(?)らしく尻尾を振って興奮している。

『はいはい』

 こんなときのジスは可愛い。

「アリア。なにか他に欲しいものはありますか?」

「私はドーナッツというものが食べてみたいです」

「ドーナッツかあ。私も食べたことがないのよね」

 観光してる場合ではない。

 だけど買い出しぐらい楽しみたい。

(少しぐらい楽しんだって良いのかしら?)

 カトリーヌにはどこまで自分を甘やかしていいのか遊んだりして良いのかさじ加減がまだまったくと言って良いほどわからなかった。


 ずっと小さい時からおじいちゃんと剣の稽古に明け暮れて。

 つい最近まで戦いっぱなしだったから。

「はい毎度」

 パンや果物をたくさん買いこんでしまった。

「すいません。ドーナッツってどこに売ってますか?」

「うちで揚げてるよ。ちょっと待ってな」

 まさかこの店にあるなんて。幸運だ。

 カトリーヌはアリアと顔を見合わせて笑い合った。

 パン屋のおじさんが陽気に歌いながら店の奥の方で油で揚げているらしかった。

「お待たせ。いくついるかな?」

「8つください。4つは持ち帰りで。4つは今食べます」

 店主は8つも一気に売れたと嬉しそうだ。

 カトリーヌはぴったりの代金を払い食料を受け取った。


『ウオォ。美味そうだ』

 木陰に腰かけてカトリーヌはハンカチの上にジスのドーナッツをのせてあげた。

「このお菓子穴が開いてます」

「ほんと! 面白い。砂糖も振りかけてある」

「いい匂い」

 聖獣シヴァにはアリアがちぎってまるまる一個を鳥籠に入れてあげた。

(小麦粉と卵と新鮮なミルクとお砂糖かな?)

 今度自分で作ってみんなに食べてもらいたかった。

 料理をふるまったりというのはワクワクするものだ。

 とくにお菓子は作るのも食べるのも心が高揚する。


「いただきます」

「いただきます」

 細やかな砂糖がふわっと口で溶けて、揚がった生地もとても甘くて美味しい。


「美味しいね」

「美味しいです」

 幸せな気分で食べ終わる。

「カトリーヌさんは恋人はいるんですか?」

「……」

 明らかに表情が曇り暗くなったカトリーヌを見てアリアは慌てた。

「ごっごめんなさい」

「ううん。いいの。さあ行きましょう」

 ジスとシヴァが食べ終わったのを見て立ち上がる。

 

 アリアは思った。

 感じたのだ。

 ――勇者だって乙女なんだって。

 自分と変わらない女の子なんだって、ハッとさせられてる。

 カトリーヌに、名前を変えたくなるような辛い出来事が起こったのだ。

 アリアはいつか自分の力でカトリーヌの心が癒せたらなあとも思っていた。



 カトリーヌたちは再び歩き出した。

 街の門をくぐり抜け、賑やかなカカアカラ街をあとにする。

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