第二十六話 盗っ人の痕跡
「カトリーヌ! 焼き上がったよ!」
宿の女将のキッキが香ばしく焼けたエビパイを持って来てくれた。
「手がふさがってるからドア開けとくれ」
「ああっ、はい」
慌てて聖獣ジスが四つんばいになり、普通の犬のような佇まいに戻る。
「まあっ、美味しそう」
「ありがとうございます。とっても美味しそうですね、キッキさん」
「そうだろ? 腕によりをかけたよ。お代わりもあるからね、たくさん食べな。召し上がれ」
「「いただきます」」
キッキが階下に戻ると、二人と一匹はエビパイに手を伸ばした。
「いただこう」
「いただきます」
「このエビパイは、シヴァにもあげていいのかな?」
さっきからカトリーヌはシヴァから熱い視線を感じている。
「はい。喜びます」
大きなエビパイを人数分に分けてシヴァにも渡す。
「はい、どうぞ。君のぶん」
シヴァは受け取るや否や両手で器用にがっついた。
「お腹すいてたんだね」
「ああ。そうですね。私たちいつから食べてなかったかしら?」
この子は……、面白い。
「美味しい」
「まあ。ホント。美味しいですわ」
「美味いな」
夢中で食べていた。
エビパイはサクサクして大ぶりな新鮮なエビは弾力があり食べごたえがある。
遅い昼食である。
朝食もなんだかんだ騒動で食べそこねていたし。
体にエピパイの美味しさが染みわたる。
「気になっていたんだが、そいつに見えない糸がついてる」
「糸?」
聖獣ジスが聖獣シヴァをジロジロと見回す。ジスはよくよく目をこらして魔法の痕跡を見つけたのだ。
「アリアからいろいろ盗んだやつは、普通の人間じゃないようだ」
「どういうこと?」
「はあ。しかもだ。オレはこの魔法のクセをよく知っている気がする」
聖獣ジスが眉を寄せカトリーヌを見やると、カトリーヌもはっと思い当たったらしい。
「――えっ? ……まさか」
「そのまさかだな。俺はこの魔法はからはな感じるんだ。くされ縁のあのイカレ魔法使いじゃねえかな」
カトリーヌとジスは、お互いの顔をやれやれといった感じで見合わせていた。