第二百十六話 勝利の夜
月光に照らされ輝く海賊船は港にとどまる。
船と月を映した波が穏やかにゆらゆらと揺れている。
長く戦った勇ましき者たちは、体の傷の痛みを忘れていた。
勝利の疲れに浸っていた。
爽やかな清浄なる風が、一陣吹き抜けていく。
誰もが、魔王との戦いにひどく疲れ果てていた。
けれど、勝利の歓びを得て……心地よい。
心が、魂のすべてが満足していた。
一同が……、エリザベートが、仲間のみんなも泣いている。
漆黒の勇者エリザベートと愛する仲間たちは、ララの海賊船から満天に散りばめられた空の星々を仰いだ。
それは美しかった。
とても――
胸を打つ、確かな世界の息吹と瞬きが広がっていた。
エリザベートがほぉっと安堵のため息をついた。
終わったんだ。
脅威は去った。
気怠くも心地が良かった。
幼い頃目いっぱいに水遊びをしたあとのように、とろりと睡魔が今にも包み込みそうだ。
全身の感覚が、世界に訪れた平和と静寂の空気を受けている。
仲間と自らの手で魔王との戦いに終止符を打った、手応えを感じている。
良かった――。
誰も失わなかった。
今回の戦で、漆黒の勇者エリザベートは改めて思い知ったことがある。
命とは重たく、そしてとても尊い。
エリザベートは何度も心に刻んだ。
私はこれからも命の限り、世界の人々のために尽くそう――と。
己の胸に、エリザベートは月光の向こうの女神やナターシャに祖父ローリングに誓う。
それから。
仲間たちに誓う。
私はこれからも戦うことをやめないだろう。
だから、ついてきて。
一緒に世界を守ろう。
ねっ?
エリザベートの仲間たちは笑った。
エリザベートを囲み、夜空の星々を飽きることなく仰いでいた。
頭上に流星群が駆け巡る。
女神からの祝福をとどけるように、美しく白い流れ星の輝きはエリザベート達の頭上を明るく照らし幾度となく降り注いでいった。