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第二百十二話 エリザベートとクラウドの胸の鼓動

 エリザベートはクラウドの血に染まり傷ついた胸に頬ずりした。


「ごめん。ごめんなさい。クラウド、私あなたを愛してるわ」


 エリザベートがたとえ幾度となく頬ずりしてもクラウドの胸の鼓動は聞こえない。

 クラウドがいつも抱きしめてくれては聞こえていた、確かな鼓動が聞こえない。


「うああーっ!」


 冷たくなるクラウドの体にエリザベートは泣きながら何度も抱きついて。

 エリザベートは泣き叫ぶ。

 失くしたクラウドの愛の重さと切なさに耐えきれなかった。

 最後に、愛しいクラウドに初めてエリザベートは自分からキスをした。


 

 泣きじゃくるエリザベートがクラウドに口づけた数秒後に信じられないことが起こった。


 奇跡が起こる――!!


 クラウドの止まった心臓あたりに金色の光が一粒灯った。


「……!……」


 クラウドのズボンのポケットから光りが輝いて魔法の杖が、エリザベートの前に飛び出して来た。

 いつか見せてくれたクラウドの亡くなった妻の形見の魔法の杖。

 白樺で出来たナターシャの杖が金色に光りながらエリザベートの前に浮いている。


 やがて金色の光は、薄い色彩の美しい人になった。

 半透明の体でも意思は強くて瞳は優しい。

 エリザベートはこの人がクラウドの亡くなった妻ナターシャだとすぐに分かった。

 ナターシャはクラウドの傷ついた左胸に手のひらをかざした。


 ドクンッ! と、クラウドの体が脈打ったのをエリザベートはにわかに信じられない思いで見つめていた。


 奇跡。

 クラウドが生き返ったの?

 本当に?

 夢じゃないの?

 幻想じゃないの?

 


 エリザベートの遠く背後にはエリザベートの仲間たちが魔王と戦う凄まじい気迫と怒号が聞こえていた。



 現実だ。

 ああっ!


「クラウド!!」


 エリザベートはクラウドに思いっきり抱きついた。

 クラウドは胸の鼓動は取り戻したがまだ意識はない。


『これからのクラウドをよろしく。エリザベート』


 エリザベートにナターシャはニッコリと微笑んで。

 ナターシャはエリザベートをふわりと抱き締めた。


「はい。でも私でいいの?」


 エリザベートはポロポロ泣いた。


『あなたがいいわ。エリザベート』


 ナターシャはチャーミングにエリザベートにウインクして微笑んだ。


 ナターシャの背後に輝く女神イシスをエリザベートは確かに見たのだ。


「うっ……グッ」


 クラウドが目を覚ました。


「エリザベート?」


 泣いているのか。

 お前は。

 エリザベートが泣きながらクラウドに抱きついた。

 クラウドはエリザベートを抱きとめて抱きしめる。エリザベートの肩越しにナターシャが見えた。

 横にいるのが女神イシスか。


「ナターシャ。すまない。お前を守れなかった」

『いいの、クラウド。私が女王を守りたかったのよ。私の方こそごめんなさい。あなたを一人にしてしまったわ。どうかエリザベートと幸せになってね。お願い。そしてこれからはエリザベートを守っていって、クラウド』

「ナターシャ」

『私、あなたと愛し合えてとても幸せだったのよ。私はこれからはあなたとエリザベートを見守っているわ』


 クラウドは手の平を差し伸ばした。

 ナターシャが手を伸ばして重ねた。


『さよなら、あなた』

「ああ。ナターシャ。ありがとうな」


 クラウドの妻ナターシャは女神イシスと天に昇る。

 

 コトンと甲板にナターシャの杖が落ちた。

 エリザベートとクラウドの前に静かに落ちたナターシャの形見の杖は二つに割れてしまい、やがて消えてしまった。


 雨は上がった。

 月明かりが明るく、海賊船のエリザベートとクラウドと仲間たちに筋状の光が注ぐ。

 

 魔王との戦いはまだ終わらない。


 女神イシスは羽根を広げてナターシャを左手に抱えながら、天に昇っていく。


 そして女神イシスは遥か上空から、金色に包まれた真紅の剣を魔王へ放つ!


 魔王に女神イシスの天誅てんちゅうが下される。

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