第二百七話 絶望を救う者
「アァ――――!!」
エリザベートは発狂した。
クラウドー!!
クラウド。
あなたが私に愛する気持ちを与えてくれた。
さっきまであなたのそばに私はいたのに。
死んじゃいやだ!
クラウド!
あなたと私の愛はまだ始まったばかりじゃないか。
私を置いていかないで。
私はクラウドを愛してる。
エリザベートはただただ溢れる涙を堪えることなく流し続けた。
「クラウド」
クラウドの倒れゆく体を支えた者がいた。
もうクラウドは息をしていなかった。
クラウドの心臓には直撃した魔王の攻撃の跡が痛々しく残り、血が吹き出していた。
「クラウドっ!!」
ルビアス王子は叫びながら泣きながら、致命傷を負ったクラウドの体をそっと横たえてやった。
クラウドは……。
「クラウド。格好良く一人で散ろうなんて許さないぞ」
倒れた戦友にそう言いながらジッと見つめる。
そして次に、ルビアス王子は聖剣雷撃のレイピアを魔王に向けて構えた。
「雑魚が我にいくらかかってきても無駄だ」
魔王は高らかに冷たい邪悪なる声で笑いながら、ルビアス王子に邪悪なる魔法をかけようとした時だ。
「グハアッ」
魔王が一瞬よろけた。
ルビアス王子も一枚ガラスの空間に閉じ込められたままのエリザベートも、その光景に目を見開いた。
聖剣エクスカリバーがはるか上空から魔王の脳天へ目がけて降って来たのだ。
気配を感じて慌てて寸手で交わしたものの、魔王の右肩に聖剣エクスカリバーは深く突き刺さっていた。
「きっ、貴様――!」
一太刀に怒り狂う魔王は、横たわるクラウドに紫煙の豪炎の玉を再び投げつけようとした。
倒れる前のクラウドはエリザベートを守りながら、魔王の攻撃を受ける寸前にエリザベートの足元に落ちて光り輝く聖剣エクスカリバーを思いを込めて天空に投げつけていたのだ。
(俺が倒れたら誰がエリザベートを守る?)
西国の獅子クラウドは魔王と相討ちなら上等だと思っていた。
一撃は俺が受けたって、二撃目は?
エリザベートが死んでは意味がないんだ。
俺はエリザベートの命を助けてやりたいから。
聖剣エクスカリバーはクラウドの気持ちに応えた。
クラウドはエリザベートへの愛をこめて聖剣を天に投げつけていた。
魔王は忌々しげに顔を歪めながら、聖剣エクスカリバーを右肩から引き抜き甲板に叩きつけた。
魔王の肩が凍りついていく。
邪悪なる鉤爪の手は、聖なる神の作りし聖剣を握ったためにシュウシュウッと音を立てながら溶け始めていた。
ルビアス王子が雷撃のレイピアを怒りで震える手で握りながら、魔王に向けて呪文を唱える。
「貴様はいつでも俺達の大事なものを奪ってきた。魔界の王よ、貴様を俺は許さない」
ルビアス王子は背後にエリザベートを庇いながら「白魔法! 鍵の開放魔法を発動する」と言い放ち、聖剣を振るった。
ルビアス王子の背中から光り輝く魔法の鍵が現れた。