第二百三話 エリザベートは動けない
エリザベートは急に視界の彩を奪われた。
「クラウ……ド」
目の前が暗闇に染まる。自分の体の腰から下半分が真っ暗闇になる。
――体が動かないっ!?
縛りつけられていた。
この空間に。
皆がいる所とは、別の空間に落とされているんだ。
ああ、それに私の聖剣エクスカリバーが見当たらない。
目の前にクラウドと魔王がいるのに!
私からは見えるけど触れられない。
もどかしい。
一枚ガラスの向こう側の世界に落とされていた。
海賊船のあちらこちらに魔王の邪悪なる魔法の罠が仕掛けられていたのか!
そこにその罠に落ちた。
違う空間にいる。
こんなに近いのに遠い場所に私は落とされている。
エリザベートは気づいたがなす術がなかった。
どうしたら?
どうすればいい?
魔王に立ち向かい必死に戦うクラウドをただ涙を流しながら見ているしかなかった。
やだっ!
クラウドを助けたいっ!
一緒に戦いたいのに!
クラウドはエリザベートの異変に気づいていた。
戦斧バトルアックスを何度も魔王に振り斬り斬りつけようとするが何かが阻んで届かない。
魔法のシールドか?
そのくせ魔王の攻撃はダイレクトにこちらに届く。
魔法を込めた拳で鉤爪で俺をなぶり殺そうとしている。
エリザベートの異変が眼前の魔王の仕業であることは必至であることも。
やめてっ!
ねえやめてっ!
その人を殺さないで!
やっとクラウドを愛しているって気づいたばかりなのに。
エリザベートは思った。
「私なんかどうなってもいいからクラウドを助けてお願い」
そう。
これが。
これこそが魔王最大の罠。
人間の愛を使って愛を奪い殺して、自分の欲しいものを手に入れる。
非道卑屈に残酷に絶望的に、漆黒の勇者エリザベートから愛を奪うことが、大魔王ヴァーノンの至福の悦びなのだ。