第二百二話 アリアとランドルフの愛
目を開けると聖女アリアが泣いていた。
君がボクを癒やし回復してくれたのかい?
「アリア!」
「ランドルフ!」
ランドルフはアリアに手を伸ばそうとした。
(うわっ、マジかよ!)
ボクの腕は折れている。
片腕だけじゃない。
両腕が折れている。
どおりで。
「いっ、痛いな」
アリアが抱きしめてくれた。
「そろそろ。加勢に行かないと」
ボクは約束したから。
そろそろお役御免かもしれないけど。
引導を西国の獅子に渡すべき日が来たんだな。
ボクは死んだかと思った。
アリアだけは助けたかったから、アリアが生きていて本当によかった。
「ねえ。アリア。ルビアスをおろしてあげてくれるかい? あともう一つ」
「はい」
「ボクにキスして」
「ええ。……はい、ランドルフ。ぐすっん……、お安い御用ですわ」
アリアは泣きじゃくりながら、ランドルフの頬にキスをした。
――まったく。
魔界の王の野郎めっ!
貴様は許さんっ!
利かない両腕ではアリアを抱きしめることもキスすることも、魔法を使うことも何もできやしない。
「ランドルフ」
アリアがランドルフに愛をこめて癒やしを込めて、唇にもキスした。
「サンキュー、アリア。ふうっ! 元気でたよ。ボクの愛しき聖女」
ランドルフは不自由な体で立ち上がり、周りを見渡した。
「悲惨」
ランドルフはアリアに支えられながら一歩歩き出した。
「ああ、悲惨だね」
ランドルフは胸が痛んだが、ぐっとこらえた。
ボクは黒の魔法使いだ。最強で最高のさ、……こんな時にこんなところで泣いている場合じゃない。
アリアの美しい癒やしの涙は許せるが、自身の捻くれた涙は許せない。
「聖獣ジス。起きろよ。お前のエリザベートがピンチだぞ」
ランドルフは両膝を甲板につく。
「ボクたちのエリザベートとクラウドが大ピンチだ」
聖女アリアがサポートする。
アリアは聖杖ひとしずくの露を、魔王の魔法の縄でマストに縛りつけられているルビアス王子目がけてひと振るいした。
血まみれで甲板に倒れてくの字に曲がる聖獣ジスをランドルフは涙を流しながら頬ずりした。
ザアァァッ……、ザアァァッ……。
氷雨は強く一同に叩き降り注いでいた。