第百九十二話 愛する者を殺める呪い
魔王の闇の呪いの刻印がジャン王子の背中から再び浮かび上がりだした。
邪悪なる闇の刻印は魔法を使えない者たちにもハッキリ見えるようになっていた。
それだけ魔王の力が強大だということ。
抱き合いお互いの存在を確かめ合うジャン王子とララの二人に魔王の魔法陣が迫りくる。
闇の力のヴェールが覆い、二人の姿は包まれていきそうになる。
エリザベートは聖剣エクスカリバーを鞘から引き抜いた。
聖剣は淡く光り輝く。
エリザベートの額から汗の玉粒が一筋つーっと落ちる。
瞳は闇の刻印を見据える。
狭い宿の部屋の中でエリザベートは加減をしなければならない。
「エリザベート!」
クラウドは背後にカルラを守りながら、エリザベートを心配げに見やる。
闇の呪いの魔法陣はジャン王子とララの二人を半分以上包みこみながら、さらに闇のヴェールが広がりエリザベートにも向かって来た!
自分に迫る闇の魔法陣がエリザベートにはスローモーションのようにゆっくりと見えたのだ。
たしかに。
エリザベートは確かに見たのだ。
闇の魔法陣から魔王の腕が現れたのを。
迫る魔王の冷たい邪悪なる手にギリギリまで迫らせて、エリザベートは眼光鋭く不敵に笑った。
「そう…来ると思ったわよーっ!」
エリザベートの体は金色に光り出した。
その光は漆黒の鎧と兜とマントになりて。
漆黒の鎧と兜とマントを纏いながら、同時に聖剣エクスカリバーを魔王の腕に目がけて振り斬った!
エリザベートの放つエクスカリバーの氷の柱が当たる直前に、魔王の腕はフッと消えた。
(逃したかっ!)
エリザベートが聖剣から繰り出した氷の柱はそのままジャンとララに向かう。
「クラウドっ!」
エリザベートはクラウドを信頼して振り返る。
クラウドにはエリザベートが求めたことが瞬時に理解できた。
「はあっ!」
クラウドが戦斧バトルアックスを軽く手加減しながら振り、バトルアックスから小さな炎が放たれる。
炎の柱はエリザベートの放った氷の柱のあとを追う。
ドォンッと鈍い音が部屋中に響いた。
エリザベートの放った氷柱にクラウドが繰り出した炎柱が当たり、あたりには水蒸気が立ち込める。
「まったく」
エリザベートお前ってやつは。
「無茶をする」
クラウドはエリザベートの後ろ姿を見つめる。
白の魔法使いカルラが杖をひと振りして魔法で部屋中のエリザベートとクラウドが起こした水蒸気を消し去る。
カルラは笑う。
「ララ船長やりましたよ」
ララとジャン王子は闇の魔法陣の影響からか気絶していた。
二人の体は少し空に浮かぶ。
光るララの体はいっそう光りだして、その光はイルニア国のジャン王子をも包み込む。
一瞬その光りでエリザベートとクラウドとカルラの目が眩む。
三人はまばゆく輝きを増す光から瞳を自分の腕で庇い守る。
カギだ。
ジャン王子の背中の闇の刻印から鍵穴が現れた。
ララを包む光からランドルフたちの魔法で施した鍵が現れた。
ララが気絶から目を覚ましてジャン王子に口づけると、魔法の鍵は魔王の闇の刻印の鍵穴に差し込まれて闇の魔法陣は鍵穴から崩れ落ちた!
魔王の闇の呪いの刻印は散っていった。
だがまだこれで終わってはいなかったのだ。
愛する者を殺める残酷な呪いの魔王の刻印は散り際に欠片が窓を割り、飛び出して行った。
行く先はジャン王子のすぐ近くにいるもう一人の愛する者のもとへ。
エリザベートは宿の二階の部屋の窓から身を乗り出し窓枠を飛びこえた!
クラウドも続く!
クラウドが窓枠に足を掛けて飛び降りる寸前にカルラを振り返る。
「カルラ! 二人を頼む」
クラウドは強い力の瞳で白の魔法使いカルラの瞳を見る。
「はいっ! 俺が守ります!」
「頼んだぞ」
クラウドは窓枠を蹴って宿の部屋から飛び出した。
「かっけえな。エリザベートもクラウドも」
カルラは倒れたジャン王子と魔法の影響からか二度めの気絶をしてしまったララ船長を介抱し始める。
白の魔法使いカルラの瞳は活き活きと輝いていた。
走る。
叩きつける強い勢いの雨のなかエリザベートは全力で駆ける。
クラウドがエリザベートの姿を追いかける。
二人は全力で走り向かう!
大事な仲間が待つ海賊船へと。