第百九十話 ジャン王子の想い
やがて白の魔法使いカルラが息を切らせながら部屋にやって来て、闇の呪いに対しての防御を施した魔法の完成を知らせる。
カルラが急いで走ってきてくれたらしいことが、エリザベートとクラウドに伝わる。
「アリアが終わったって」
「ありがとう。カルラ、寒かったでしょ?」
エリザベートは白の魔法使いカルラに温かいミルクをすすめた。
カップを受け取り一口ミルクを飲んでから、カルラは爽やかにエリザベートに向けて笑った。
「はあっ、美味い」
「カルラ、雨で体が冷えていない?」
「大丈夫だよ、エリザベート。俺さ魔法で雨粒を避けさせてきたから」
白の魔法使いカルラはどこも雨に濡れてはいなかった。
カルラのいつも黒の魔法使いランドルフといがみ合っている姿ばかり見ていた。
素直な姿を見ているとクラウドは剣の教えがいがあるだろうなとエリザベートは思った。
白の魔法使いカルラはすぐにジャン王子の右腕を握り床に両足をついて、ケヤキで出来た愛用の魔法の杖を出す。
ジャン王子の腕の包帯を外して、じっくりと傷を見てから魔法の杖を当てて呪文を唱える。
暖かな光がカルラの杖先から出て回復魔法で治療する。
白の魔法使いカルラの回復魔法の暖かさは部屋全体を優しく包む。
「すまない。感謝する」
ジャン王子はじわじわ回復していくのを感じていた。
ナイフの傷がどんどんふさがっていき、ついには消えた。
「しっかしあんたはルビアス王子そっくりだな」
白の魔法使いカルラはジャン王子の腕や肩をぐるぐる回して、治ったか確認して「はい終わり!」とつぶやいた。
「そりゃあ、俺はルビアスの兄だから」
「でもさ、あんたの方がモテそうだな」
「どうかな? けれど俺はたくさんの女性にモテるより一人の愛した女に愛されたいから」
「うんうん。そうだよな」
このジャン王子の実感のこもった発言にはエリザベートはララへの想いの深さを感じた。
次に白の魔法使いカルラはクラウドを見て、クラウドのついたばかりの頬の傷に魔法の杖を近づける。
「なっ? クラウドのも治してやる」
カルラはここのところいつも毎朝剣の稽古をつけてもらってて、クラウドとだいぶ打ち解けていた。
「俺はいい。こんなものすぐに治る」
「えーっ。信用してくれよ兄貴」
カルラはランドルフに対しての態度とは違いクラウドには懐っこく、クラウドを信頼して尊敬しているのがエリザベートには見てとれた。
エリザベートは二人のやり取りが微笑ましくて、目を細める。
雨音が今は激しく響いていた。
宿の部屋の扉の向こうがわにある人物が立っていた。
(扉の前に誰かいる)
エリザベートとクラウドが人の気配にハッとする。