第百八十四話 時は経てども愛しくてたまらない
「 エリザベートとクラウドの純粋で切ない抱擁を見ていたものがいる。
二人の愛を交わす美しさに感動していた。
イルニア国第一王子ジャンは痛む右腕を左手で抑えながらそっと扉を少しだけ開けて、抱き合い許し合い切なげに愛を語らうエリザベートとクラウドを涙を浮かべながら見ていた。
「いいなあ……」
世界中の女性を虜にすると噂されるほどの秀麗な唇で彼はひとりごちてみる。
ジャン王子は純情でロマンチストだったのだ。
恋をいくつも経験しても忘れたくてもどうしても忘れられない愛する女性がいた。
かつて俺にも目の前の二人のように熱く愛し合う女性がいた。
あれほど愛した女は俺の人生に後にも先にもいないのだ。
「ララ」
ララは死んだと側近や大臣から聞いていた。
だから死人が甦ることができると言う噂を聞きつけて北の大地ルーシアスに旅に出たのだ。
また愛しい人に会いたかったから。
二度と会えないと思ったのに。
ジャン王子はもしかしたら本当に北の大地ルーシアスに行けば、大好きなララにもう一度会えるのではないかと思った。
愛するララを抱きしめられる気がして。
ララにきっと会えると思う希望と。
ただの噂話に過ぎないのでは? という疑念の思いを叶わないときにのために、絶望しないように心に持って。
ジャン王子はいても立ってもいられずにイルニア国を飛び出して来たのだった。