第百八十三話 エリザベートが好きだから不機嫌になるクラウド
「えっ……? ちょっとクラウド!? クラウド、待って!」
エリザベートはクラウドが部屋から出て行ってしまったので、慌てふためいてクラウドを追いかける。
「すっ、すいません。ジャン王子、お待ちいただけますか? すぐに戻ります」
エリザベートは部屋の扉を開けてから出る前に、ジャン王子に断りを入れた。
ジャン王子は優雅に、にこやかにエリザベートに微笑んだ。
「構いませんよ。ごゆっくりと」
「すぐに戻りますからっ」
クラウドとエリザベートの様子に、ジャン王子はフフッと笑った。
「クラウド? ……ねえ? 突然部屋を出たりして、どうしたの?」
エリザベートが扉を開け出るとクラウドは壁によりかかりながら、廊下の窓の外を眺めていた。
「ねえ、クラウド?」
「ああ、すまん」
エリザベートが駆け寄るとクラウドは両手を広げてエリザベートをその広い胸で抱きとめた。
エリザベートからふわりと花の匂いがして胸がかきたてられ、クラウドは我慢できずに自分の中にある気持ちをエリザベートにぶつけた。
エリザベートの腰をぎゅっと抱き寄せて、クラウドはエリザベートの唇に激しく自分の唇を重ねる。
「お前が愛しくて。お前と話すアイツに嫉妬した」
エリザベートはクラウドの真っ直ぐな気持ちが嬉しい。
気持ちを素直に伝えてくれて嬉しい。
……嫉妬してくれたんだ。
「クラウド」
いつもはすごく強い。
なにがあってもきりぬける力強さで私を引っ張って行ってくれる。
大人で優しくて私を包んでくれる。
――だけど。
でも時々、小さな少年のようになるクラウドが愛しい。
さびしそうで。
抱きしめてあげたい。
私が彼を守ってあげたい。
なんとも言えない気持ちになる。
「嫉妬してくれたの? 私のために? ……かわいいね、拗ねたクラウドって」
エリザベートはクラウドにぎゅっと抱きつく。クラウドはエリザベートに抱きつかれてさらに愛がこみあがる。
「かっ、かわいいなんて! そんなっ……。俺は今までそんなこと言われたことがないぞ」
エリザベートはクラウドの顔がここまで恥ずかしげに真っ赤になるのを初めて見た気がした。
クラウドはエリザベートに口づけて交わしてから、たまらずに告げた。
「……早くお前を抱きたい。俺だけのものにしたい」
エリザベートはクラウドの本気の訴えにハッとなる。
俺はこらえきれなくなりそうで。
「エリザベート。お前を誰にも渡したくないんだ」
「うん。……ありがとう。嬉しいよクラウド」
クラウドにエリザベートはぎゅっと抱きついていた。
クラウドの胸の鼓動を聞くと、エリザベートはいつも体中を温もりと心地良いもので満たされる気持ちになった。
「あったかい。クラウドの腕の中ってあったかいね。クラウドの鼓動が聴こえる。私、あなたに包まれると安心出来るの」
「……エリザベート」
エリザベートはクラウドの気持ちの重さを知った。
(クラウド……私を愛してくれる人)
エリザベートを求めてはクラウドは、それでも彼女のために欲望を抑えもする。
「エリザベート。お前を俺だけのものにしたいって願ってる。だが……。それはまだ駄目だな」
「クラウド」
クラウドが吐息をつく。
エリザベートはぎゅうっと胸がしめつけられた。
何度も何度も、お互いを確かめ合うようにキスを重ねる。
戦いに明け暮れ緊張した時の流れ、恋人として過ごす甘いときめきの時間はなかなか巡っては来ない。
(やっと触れ合えたんだ。エリザベートが愛しすぎて抑えなんかきくものか)
「あのな、エリザベート。お前の魅力が俺を駆り立てる。……ずるいぞ、お前、可愛すぎるじゃないか。男が歯止めをきかせてるのも限界がある」
「……クラウド」
「早くお前を俺だけのものにしたいんだ」
「私、クラウドが好きだよ」
「……ああ、分かってる。伝わってる」
通わせ合う心がある。
クラウドには不安があった。
しっかりと抱きとめておかなければ、エリザベートを誰かにさらわれそうだと感じてる。
「今は……これからも俺だけ見てろよ? エリザベート」
「ふふっ……」
「笑うなよ。……まったく。お前があまりにも魅力的なのが悪いんだ。普段は凛として強く、時にチャーミングとは揺さぶられる」
「……クラウド、そんなに甘いセリフ。ちょ、ちょっと恥ずかしいよ」
「お前を愛して。俺はすっかり饒舌になった」
幾度となく口づけを交わしては、二人にはそれでもまだまだ足りなくて。
――離したくないんだ。
――離れたくない。
互いに強く想う。
焦がれ焦がされる恋心。
惹かれ合っている。
こんなに愛しくて――、たまらない。