第百八十一話 勇者と獅子と王子とで
海賊船を停泊させて港町ホンの宿にエリザベートはクラウドと来ていた。
宿のベッドにはクラウドがナイフを投げつけ、エリザベートが気絶させたジャン王子が寝ている。
二人はジャン王子を見守るように椅子に座り様子を見ている。
「貴様っ! あ痛っ」
イルニア国第一王子ジャンは目が覚めると見知らぬ場所にいて、目の前にはかつて戦場で戦ったことがある男を見てギョッとした。
ジャン王子はクラウドに掴みかかったが、クラウドに食事用のナイフで刺された腕が鋭く痛んで、クラウドには触れることは出来なかった。
クラウドにナイフで受けた傷は誰かが手当をしてくれて包帯が巻かれている。
クラウドはジャン王子が自分に飛びかかろうとしたのを避けるでもなく、憮然とした表情のまま微動だにせずに腕を組みベッドの脇の椅子に座っている。
獅子の脇に黒髪で黒曜石の輝きの瞳の、美しい少女が座る。
「大丈夫ですか?」
この娘は会ったばかりの私を心配している。
「君は?」
美しい娘だと思った。
見ためも麗しいがもっとこう……、瞳が強くて美しい。
内面からじわりと強さを優しさを感じる。
「私はエリザベートです。あなたの弟のルビアスとは友達です。仲間です」
ジャン王子がエリザベートに見惚れているのが気にくわないクラウドは、ジャン王子に凄みながらぶっきらぼうに言い放った。
「フンッ。気分は?」
「腕が痛い」
「だろうな」
不機嫌なクラウドにエリザベートは昔の戦の敵同士だからかなと思っていた。
「あとで友達の白の魔法使いが来てくれます。あなたの怪我を治しに来ます」
「ルビアスは?」
「お前のせいでだいぶ落ち込んでいる」
ギロっとクラウドはジャン王子を睨んでいる。
(クラウドはなんか荒れてるなあ)
エリザベートは右隣りのクラウドの横顔を見ながら、不機嫌そうだなと思っていた。