第百八十話 ランドルフと闇の刻印
「とりあえずボクにやれるだけの事はやるよ」
ランドルフは魔王の闇の刻印から、ひとまず聖杖ひとしずくの露を離した。
「ランドルフ。お前にしちゃあ珍しく弱気だな?」
クラウドはわざとふっかけてランドルフにハッパをかけようとしている。
「まあね。ボクだって魔王直々の呪いは怖いんだから。魂持ってかれかねない」
「……」
エリザベートの顔は青ざめてうつむいていた。
本当に魔王は甦っている。
忍び寄ってくる。
そんなエリザベートをクラウドが気にかけて肩を優しくたたく。
クラウドの手と心の温かさがエリザベートの憂いをほんのり癒やす。
「ボクだってまだ死にたくないからね。やっとアリアと付き合ったばかりだっていうのに」
ランドルフの表情はいつも通りになっては来たが、ジワッと緊張していた。
「はあ、やだなあ。ああ、やだやだ。せっかくアリアと幸せ気分だったのにさあ。これからボクは魔王の闇の刻印の分析をしなくちゃならないなんて」
ランドルフは血色が悪くなりつつも、いつもの減らず口に戻して自分を保つ。
バーンっ! と、そんな沈む様子のランドルフの背中をエリザベートとクラウドが叩いた。
「しっかり! ランドルフ」
「しっかりしろ! お前しかできんぞ」
二人はランドルフを励ましていた。
――はあ。やれやれ。
元から息が合ってたけど、エリザベートとクラウドはますますピッタリになってきたなあ。
「じゃあ、クラウド。ジャン王子を船に運んで」
黒の魔法使いランドルフは、はあっと深いため息をつきながら指示を出した。
これからの心身ともに疲れる呪いの魔法陣との心理戦の戦いに気を揉んで。
ランドルフは呪いの解き方を知るための辛い心の闇との戦いの作業を思い、やや落ち込む。
かなり辛いんだよな。
「――ダメだっ!」
それまで黙っていたルビアス王子が大声で制した。
「そうだ……どうしよう。待って。ジャン王子を船には連れていけないわ」
エリザベートは、ならばどうしようかと思案しながら答えていた。
「どうしてだい? エリザベート。ルビアスを離してジャン王子を隔離すれば大丈夫じゃないのか?」
ランドルフは制する意図が一人分からずに怪訝な顔で問う。
「ランドルフ、もう一人いるんだ。兄上が大事に思う人が。ララだよ。ララは昔、兄上と恋仲だったんだ」
ルビアス王子は皆を見回し、困ったぞと腕を組んだ。
「二人はかつて恋人同士だったんだ。まだ想いが残っているなら、兄上は愛しているララを殺してしまう」
「そうか。海賊船に乗せてはまずいな」
「はあ〜っ。……そういうことか。難問だなあ。じゃあ、どうすんの、コレ?」
「うーむ。……かと言ってここに寝かしておくわけにもいかねえしな」
「こんな危なっかしい闇魔法を付けた人を道端に放って置いとけないわよ」
「ボクさ、目立つ路地じゃ騒々しくなるのは見えてるから集中なんか出来ないよ? この人急に暴れちゃうかもだしさ」
――最善策はどれだ?
エリザベートは魔法使いたちに力を結集してもらうことにした。