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第百七十九話 魔王の呪い

 クラウドが黒の魔法使いランドルフを海賊船に呼びに行って、すぐにエリザベートの元に舞い戻って来た。


「大丈夫か? エリザベート」


 クラウドはエリザベートの身を案じる。


「ええ。だけど正直に言うと焦ってる」


 エリザベートは魔王の残酷で残虐なぐるぐると色を変える目を思い出していた。

 ザーっと鳥肌が立つのが分かる。


「ああ」


 ――とうとう来たか。


「ちょーっと、失礼。はいはい、失礼〜」


 ざわついた野次馬たちをかき分けるものがいる。

 黒の魔法使いランドルフが、アリアに借りた聖杖ひとしずくの露を握りながら、――現れた。


「ランドルフ、アリアは?」

「大丈夫だよ。置いてきたからさ」

「うん、良かった」


 気持ちが弱っている時にこれから見るものはキツイから。


 いつになくランドルフが焦ったような声を上げて指示を出す。


「クラウドっ! ルビアスっ! この人を外に運んで」


 エリザベートはそこでようやく聖剣エクスカリバーを鞘にしまった。


 クラウドのさっき受けた頬の傷を、エリザベートは心配げな顔をして触れる。

 頬に触れたひんやりとしたエリザベートの手を、クラウドは握った。


「大丈夫?」

「大丈夫だこんなもん。大したことはない」


 エリザベートを安心させようとしてクラウドは少年のように明るく笑う。


 クラウドが気絶しているイルニア国第一王子ジャンをヒョイっと持ちあげ肩に担いで、一人で外に食堂から運び出した。

 囲んだ野次馬たちはクラウドが睨むと気迫に押されて、道を開けた。

 ジャン王子をそのまま埠頭ふとうのベンチに運ぶと下ろす。


 ルビアス王子は放心している。


 去り際、食堂にエリザベートは代金を払い、ちらっとさりげなさを装いながら店内を見回す。

(他には異変は? 怪しいモノはないか? 怪しい者はいないか?)

 他にはなさそうだな。

 エリザベートはただゾクリと悪寒が走るのを感じた。


 

 事は重大だ。

 魔王の痕跡。


 エリザベートにはジャン王子の背中から、魔王の気配がモクモクと煙のように湧いているのが見えたのだ。

 クラウドは以前に魔王が作ったという聖獣シヴァを閉じ込めた鳥籠が壊れる時に、魔王の気配を感じ取っていた。

 いつか対峙するであろう魔王に備え、感じた禍々しい邪悪なる気配を体に覚えさせていた。


「いったい兄上になにが起こってるんだ?」

「これから見るものを、君は見たら驚くだろうなルビアス」


 ランドルフが聖杖をジャン王子の背中にかざすと、くっきりと邪悪で禍々《まがまが》しい濃い闇の魔法陣が刻まれていた。


 その浮き上がる闇の刻印を見ていると、一同皆の体調がすこぶる悪くなってくる。


 ――まずは心に不快なざわめきが広がる。


 エリザベートは自分の身を抱く。

 寒い……。

 ゾワゾワとし、体温が奪われる。


 ――それから暗く澱めく圧倒的な怖ろしさ、と絶望。


 クラウドもルビアス王子も腕組みをして、闇の刻印からくる震えるような凍える絶望と寒さをはね退けんとじっと耐える。

 

「これは呪いだよ。呪い」

「呪い?」

「彼は魔王の呪いの刻印を受けている。呪いにもいくつかあってさ……」


 ランドルフはオパールで出来たアリアの聖杖をかざしながら、じっくりと闇の魔王の刻印を紐解くように見ていった。

 エリザベートもクラウドもルビアス王子も、ランドルフをじっと見守る。


「これはひとまずは魔物が化けてるわけじゃないし、うん、操られてもいないな。え〜っと、誰かが体に入り込む乗り移りもなし。うーん。だけどまずいな。――こいつはまずいよ。彼につけられた刻印は、……これは大切な人を消し去る……、呪い魔術を受けた者が最も愛する人たちを次々と殺していく闇の魔法の呪い。そうして施された者も絶望の淵に突き落とす」

「――っ!」


 エリザベートが小さく悲鳴を上げて自らの口を両手で覆った。

 なんて残酷な仕打ちを魔王は与えるのだろう。


「だから兄上は俺を狙ったのか」


 ルビアスは顔を真っ青にして立ち尽くした。


「ひでえ。むごい魔法だな」


 イルニア国もこうなると危ぶまれる。

 この刻印をどこで受けたか……だ。

 いったいこの闇の呪いの刻印を、どこで魔王につけられたと言うのだろうか?


 自国イルニアでか?

 それとも旅の途中でか?


 魔王はいたぶるようにじわじわとエリザベートの仲間を狙っている。

 ルビアスを間接的に殺し、その過程をどこかで眺めて愉悦を得る悪魔だ。

 人の不幸をむさぼり浸り己が欲を満たす。

 ゾッと悪寒が走った。

 魔王ヴァーノンのおぞましい気配、撹乱と怖れさせるための策略を知る。


 エリザベート達は全身から血の気が退いていくのを感じていた。

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