第百七十六話 食堂での手がかり
「おい! 聞いたか?」
「ああ。ルーシアスはもう駄目だな」
港町ホンの食堂は賑わいを見せて、ざわめく店のあちこちには夜を謳歌する地元民や旅人に商人たちが食事を堪能していた。
「その話、私たちに聞かせてもらえませんか?」
エリザベートはその噂話をする二人の男たちのテーブルに行き、微笑んで話しかけた。
エリザベートの少し斜め後ろにはクラウドが護衛のように立ち、エリザベートに異変があればいつでも守る気迫があった。
北の大地ルーシアスの話をする男たちは薬草を売る商人たちだった。
「ここは奢るから話を聞かせてくれ」
クラウドはエリザベートの背後からサポートして、商人の机上に銀貨を一枚置いてから、気さくさを装い二人組の商人に愛想よく笑いかける。
「おうっ、いいよ。姉ちゃんに兄ちゃん」
「いやあ、嬉しいねえ」
二人の商人はホクホク顔で移動して、エリザベートたちと同じテーブルについた。
「ルーシアスが駄目だというのは?」
エリザベートが話を切り出すと、商人の男はバジルに香草ネギとベーコンを焼いた物がかかったパスタをすする。
「ボク、ワイン」
黒の魔法使いランドルフはワインを頼んで、先に頼んでいたヤギのチーズをパンにのせてにっこり微笑んでアリアに手渡した。
「フフッ。どうぞ、アリア」
「ランドルフ……、ありがとう」
すっかり恋人同士がさまになってランドルフと心を許し合っている感じのアリアを見て、エリザベートは自分のことのように嬉しくなった。
「これがだね、ルーシアス共和国はだいぶまずい状況なんだよ」
男たちはパスタやパンやチーズに焼いたサーモンを次々とたいらげながら、ヒソヒソと声を潜めて話をする。
「まずい状況というのは?」
エリザベートが商人から話を聞き出し、クラウドとルビアス王子がジッとその語られる話を聞き入る。
「ルーシアス共和国では死人が甦るらしい」
「死んだ人が?」
エリザベートは怪訝な顔をした。
もちろんクラウドやルビアス、ランドルフにアリアたちも、にわかに信じがたいと疑念が湧いていた。