第百七十三話 魔獣飛び去るまで
エリザベート一行の北の大地ルーシアスへの航海8日目の正午過ぎ、それまで順風満帆だった船の旅に異変が訪れた。
海流や風向きに恵まれたララの海賊船は予定より早くに目的地の一つに着岸するところだった。
作戦会議でクラウドが提案した位置よりやや手前にララの海賊船は差しかかっていた。
海岸線を見ていたエリザベートとクラウドがいち早く危険を察知した。
「あっ」
シッ。エリザベートの横にいたクラウドがエリザベートの口元を手で覆う。
魔獣コウモリが一匹ララの海賊船の舳先ギリギリを飛んで行った。
(「気配を殺せ」)
エリザベートにクラウドは目で合図する。
物音さえしなければ、防衛保護魔法で護られたララの海賊船は向こうからは見えないはずだ。
ララ船長も舵を取りながら、海の異変に気づき、熱くもないのに汗が流れていた。
ここで無駄に争えば必ず援護の魔獣はやって来る。
優先すべきは今は北の大地ルーシアスに無事に到着することだ。
船はしばらく魔獣コウモリが見えなくなり気配が澄むまで、速度は上げずにジワジワと海面を進んで行く。
エリザベートとクラウドはじっと息を潜めた。