第百六十話 エリザベートとランドルフ
エリザベートはロマンチストで優しすぎるランドルフにどこか戸惑う。
だって出会ったばかりの幼い頃に戻ったみたいで。
あの時はランドルフを兄みたいに慕っていた。
あんな風に裏切られていなければ。
きっと今だって――。
「ボクが君につけてやろうか?」
ランドルフは、ネックレスの留め具をエリザベートにつける仕草をしてみせる。
「それはいらない」
エリザベートは憮然とした表情をランドルフに見せた。
「ハハハハハッ」
ランドルフは大声で珍しく笑った。
「そりゃあ、そうだよな。あんまりボクらが親密だとおっかない獅子が怒るし、ボクの方は聖女が荒れるだろうね」
ランドルフはふと真顔になっていた。
エリザベートの瞳を真っ直ぐに見つめる。
「死ぬんじゃないぞ、エリザベート」
「――えっ? ランドルフ?」
ランドルフがあまりにも真面目に言うから、エリザベートは少々面食らいながらも素直に聞けた。
「ボクらが君を護るから」
「あ……、うん、ありがとう」
いつもは人を小馬鹿にするランドルフが、急に人が変わったみたいにエリザベートを素直に応援する。
「あっ、そうそう。それボクの強化魔法で出来ているからね。だからその鎖はちょっとやそっとじゃ切れないよ。戦でエリザベートが縦横無尽にさ、多少暴れたってね」
ランドルフは新しい恋に怖気づくエリザベートとクラウドを陰ながら応援していた。
その二人の恋は実った。
(クラウドに大事にしてもらえよエリザベート)
ランドルフはなかなか幸せになれない妹を新しい愛に送り出す兄のような気分だった。
……君はアルフレッドを忘れていくのか。
いや、あの失恋を癒やしていくんだな。
エリザベートのアルフレッドとの、ボクが憧れとっても大事に思っていた二人の恋。
ボクが心から応援した恋が終わっていく。
アルフレッドからの気持ちを考えて、少しだけ寂しい気分で。
もう一つの自分の手元からエリザベートが離れていくような寂しさもあって。
だけどエリザベートにやっと出来た新しい恋。
ランドルフはエリザベートとクラウドの恋を、ランドルフなりに応援している。
「ありがとう」
礼を言いながら、エリザベートはランドルフがネックレスにしてくれたクラウドのダイヤを自分の手で身につけた。
それはキラキラとエリザベートの胸元で優しく美しく光り輝いていた。