第百五十八話 ランドルフはそれを貸してごらんとエリザベートに言う
去り際のクラウドの背中を見ていると例えようもない感情がエリザベートに湧いてきて、切なくて思わず自分の身を抱いた。
……もっとクラウドと一緒にいたい。
「へえ〜。ラブラブだねえ、エリザベートとクラウドは」
ランドルフがエリザベートの背後から話しかける。
エリザベートは周りに誰もいないと思っていたので、驚いて心臓がびくっと跳ねた。
「ランドルフっ! いっ、いつからいたの? ……まさか見てたの?」
「さあ? いつからでしょうねえ?」
黒の魔法使いランドルフはいつもの調子でフフフッと、エリザベートをからかうように笑った。
「エリザベート、貸してごらん。その胸ポケットの大事なものを」
「これは大切なものよ。あなたには貸せないわ、ランドルフ」
「大丈夫さ。悪いようにはしないよ。盗ったりもしないさ。だってボクは偉大なるボク自身が生みだした魔法の羊皮紙の呪縛によってエリザベート、君の忠実なる下僕だからね?忘れた?」
冗談まじりでランドルフは憐れを装った。
「……すっかり忘れてた」
「フハハッ。エリザベートのその顔! はははっ、そうだろうね。君ってさ、気を許したらとことん信頼を厚くするよね」
「それは私に警戒しろと言っているの?」
「適度にね。まあ、今のボクは君を裏切れないから」
エリザベートに向かってにっこり笑ったランドルフは、愛用の魔法の杖をひと振りする。
エリザベートの服の胸ポケットから、先ほどクラウドがくれた小さな袋をランドルフの手元に引き寄せ握っていた。
「なっ、なにを!」
エリザベートは慌ててランドルフに「返してっ!」と歩み寄る。