第百五十四話 ルビアスに告げても良いか?
「私……、もっ、もう戻るわね」
「なんだ? エリザベート俺からしっぽを巻いて逃げるつもりか? そんなに慌てて客室に戻ったって険悪な魔法使いが二人睨み合ってるだけだからつまらんぞ」
恥ずかしげに焦るエリザベートにクラウドはますます可愛く思って微笑みながら呼び止める。
クラウドの胸から逃げようとしたエリザベートはまた強く抱きしめられて。
クラウドがぎゅっと少しだけエリザベートを抱く腕に強くもういちど力を込める。
するとクラウドは今度はエリザベートに向けて決心したような真剣な表情になった。
「なあ、エリザベート」
「なあに? クラウド」
「ルビアスに告げても良いか?」
ドキリとした。
クラウドはルビアス王子にはっきりと私との関係を宣言すると言っているのだ。
「お前が気に病むことはない。三人で付き合えるわけじゃない。いつかは誰かを選べば誰かが傷つくのは仕方のないことだ。俺は男としてルビアスとキッチリと話をつける」
「私がクラウドを選んだから……」
「そうだな。お前は後悔してるか? 俺を選んだことを」
ううんとエリザベートは首を横に振った。
「俺はいつまでもルビアスに話さないほうが、ヤツの誠実な気持ちを踏みにじることになると思ったから」
初め会った時はルビアス王子を明るくて愉快で清々しい人だと思った。
とにかく紳士で優雅で王子でも驕らない親しみやすさがあって。
キスされた時はもしかしたらこの人がアルフレッドを忘れさせてくれる人なのかもと、少しときめいて。
「俺はきちんとしたい。宣言したからって見せつけてしまうようなことは断じてしない。ヤツの前でお前に触れたりするような無神経な真似はしない。節度は守る」
筋を通す格好のいい男だと思った。
クラウドは逞しくて心が美しい。
「私はルビアスに告げるのが少しだけ怖いのはどうしてだろう?」
「それはルビアスを傷つけたくないからだ。三人のバランスを崩すのもお前は怖いのかもしれんな」
そう言ってクラウドはエリザベートを抱きしめた。
エリザベートはクラウドを抱きしめ返した。
しばらく無言で二人は抱き合った。
「これお前にやるよ」
クラウドはエリザベートを抱きしめる左手はそのままに右手でズボンのポケットから小さな袋を出した。
「これは?」
エリザベートの手に袋をそっと握らせた。
「エリザベート俺が捨て子だって言ったよな?」
「うん…」
「赤子で捨てられた時に籠に一緒に入っていたそうだ」
エリザベートがクラウドの胸によりかかりながら両手で大切に袋を扱い開けてみると、なかから小さなダイヤモンドがエリザベートの手のひらにことりと出て来た。
「こんな大事なもの貰えないよ」
「お前に持っていて欲しいんだ」
クラウドはエリザベートに親からの最初で最後の贈り物のダイヤを握らせた。
「だってクラウドの両親の手がかりに……んっ」
エリザベートにクラウドが口づけた。
「俺の親はもう死んでいるんだ。昔そのダイヤを使って足跡を調べた。少々珍しい色合いを見せるから不思議に思ってた。白魔法の欠片を宿した稀な宝石だとさ。……両親は魔王に殺されてたよ」
「そんなっ」
「いいんだもう。いないんだし」
「私と同じなんだ」
エリザベートは父と祖父を魔王に殺されている。
「そうだな」
二人はかたく抱きしめ合った。