第百五十話 勇者たちの作戦会議
エリザベートは仲間たちとララの農園にやって来た。
ダンバはララの農園に着くなり活き活きと目を輝かせてララの部下に農園のノウハウを教えてもらいに行った。
元女海賊ララ船長は久しぶりの冒険に胸が踊る、高鳴っている。大海原を海賊船で疾走する興奮を呼び覚まし、わくわくとした。
エリザベートは、ララが危険の待ち受けるこの旅について来ることに少し不安があったのだが。
彼女に何かあったらと心配になる。
だがよく考えるまでもなく船旅に元海賊船長の彼女より適任がいるとは思えない。
だから心強い。
海を知り尽くしている。
ララが年季の入った茶色く日焼けた航海図を出して来て、エリザベートと語らう。
「アンタはこの子の故郷北の大地ルーシアスを目指すんだね?」
ララはアリアを見ながら、次に視線を航海図に戻す。
「そう。女神イシスが私をルーシアス大陸に呼んでるの。それで私はルーシアスを囲むこの山脈を越える時間を省きたくてね、海上を行く船旅にしようかと思ったんだけど」
「いいね! エリザベートそりゃあ賢明だよ」
クラウドが腕を組みじっとその様子を聞き入っていた。
ルビアス王子はテーブルの上で両手を組み顎を載せ思案する。
アリアは大きな目を開きじっと集中する。注意深く作戦を聞いていて、どういうルートで故郷ルーシアスに向かうか聞き逃すまいと身を乗り出していた。
黒の魔法使いランドルフは北の大地ルーシアスの地形と周辺を魔法で立体化させた。
「へえ。これはわかりやすいね」
ララやアリアやルビアス王子がそのランドルフの魔法に目を見張る。
目を輝かせる。
「良いんじゃないか」
クラウドが威厳を持つ声音で重たく放った。
「だが魔王が来て海上戦になったらどうする?」
続けてクラウドが厳しく言い放つ。
ルビアス王子もすぐには賛成しかねると言う感じの声で言った。
「まあな。厳しいかもしれない。俺たちには海での戦いは経験が少なすぎるよ」
ルビアスはこの間の船旅を辛くも思い出しているのだ。
雰囲気は深刻で重たくなる。
「地上もキツイさ」
ララは言った。射抜くような鋭さで。
たった一言にはこれまで経験した辛酸や戦いの思いが含まれたように深みと重さがあった。
そしてエリザベートは皆を一人ずつ見ながら語りかける――。
「海上も山脈の戦いも地形や船の上ではどちらも不利になる。立ち向かう前から尻込みしたって仕方ない。あらゆる予測は必要だがどこで戦っても魔王軍は強大だ。海を行くのは私が導き出した中の最善策を提案した。ただ他に策があるなら言ってほしいんだが」
エリザベートは普段とはガラリと人が変わり勇者として一同に毅然と言い放つ。
「ゴリ押しはしないってことだね。さすが和を尊ぶ勇者だ、エリザベート。さあ、あんたたち、どうすんだい?」
ララは朗らかな笑みでこれからの仲間を見渡した。
荒くれ者を束ねてきたララは度胸も話し合いの風向きを知る術に長けていた。
ララの舵を取る腕は確かに。
『やってみなけりゃ分かんないじゃないか!』
ララはよくそう言ってきた。
臆するも慎重さも、時には必要だからね。
だけど慎重になりすぎて勝機も好機も逃したら元も子もない。
「物事には潮の流れと風の流れがある。士気が高まっているうちに早いとこ動くべきだね」
一同が重く黙るなか、ララの力説が響く。